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その他

銀色の髪が無造作に広がり、長身では辛いであろうになぜか器用にソファに収まっているその姿。
黒ずくめの服の中で青白い肌と銀色が電球の光を浴びる。
ひょっとすると、とうとう薬物乱用のせいで死んでしまったのではないか。
髪をがしがしと拭いていたバスタオルもそのままに、ジンに声をかけた。
「兄貴、空きやしたぜ」
返事はないが、かわりにうろんな目を向けられる。
目だけで人が殺せそうだ、と評判の眼光を向けられても、ウォッカはたじろぐことなくむしろ肩を竦めてみせた。そのまま何を言うわけでもなく浴室へと入り、続いてシャワーの音が響く。
それを聞きながら、ベルモットとの会話を思い出していた。

「料理ができるなんて、意外だわ」
それはあんたに作った料理じゃねえよ、という言葉は本人は言えず。ただ落ちた沈黙をどう感じたのか、彼女は人の良い笑みを浮かべてみせた。
「褒めてるのよ」
「…ただ料理本を見て作ってるだけで、誰にでもでき ます」
「あら、その台詞世の中の料理ベタな女性と、そんな女性を奥さんにしている男性が聞くと泣くわね」
そして備え付けられている椅子に座る。まさかとは思うが、ここで食べていく気なのだろうか。

「あなたたちのフォローをしているのは誰かしら?」
人の良い笑みを浮かべていた顔が、今度は意地悪く睨め付けるように瞳を光らせる。その言葉にウォッカはため息をついた。
ジンには敵が多い。無慈悲すぎる性格は時としてあまりにも極端な回答を弾き出すし、長い付き合いのウォッカですら呆気にとられることがままある。
愚鈍な人間を排除し、組織に取って害をなす人間を排除し、組織という枠の中で見れば決して褒められたものではないのだろうその行動。
だが、ボスはそれを許している。それがまた内部の人間を苛立たせていることも事実。
横暴すぎる振る舞いは、余計な火元を作るだけだ。
そして、ジンはその苛立ちを己に向ける人物を許しはしない。
そんな中、ベルモットはボスに目をかけられている優秀さ故か、それとも他の何かがあるのか。
度々ジンたちと顔を合わせ、それとなく諍いを収める。
それはジンにはもちろん、ウォッカもできないことだ。
その自覚がベルモット自身にはあるのだろう。言外の意味を匂わせた発言に、あっさりと観念し食卓の用意を進めた。

「ほんと美味しい。もし組織が壊滅したら、貴方は料理人になった方がいいわ」
縁起でもないことを言うものだ。


「ウォッカ、どうした」
低い声で呼ばれ、はっとした。
焦る内心とは裏腹に、見れば簡素ではあるが食事の用意はしっかりと整っていた。
その前でぼうと佇まれれば、ジンでも不審に思うことがあるのだろう。
「いえ、ベルモットとの会話を思い出していまして」
「……ふん、人を煙に巻こうとするところがあるからな。まともに取り合わないほうがいい」
兄貴もです。とはさすがに言えなかった。
とはいえ外部に聞かれては困るからなのか、雰囲気がそうさせるのか、組織では難解な会話が多い。キャンティらはわかりやすいが、そのせいで悪目立ちするという有様。そのような会話にあまり入るつもりがないウォッカは、他の構成員の前では必然的に寡黙になった。
彼が多くを語るのはジンの前と、ジン個人についている者たちの前だけだ。

「いやあ、その時は随分と直接的な物言いでしたよ。組織が壊滅したら、料理人になった方がいいと」
思わずさらっと言ってしまった。
サングラスはこう言う時に役に立つ。対面に座るジンの様子を伺う。彼は手にしたワイングラスを飲み干し、目を閉じた。沈黙が食卓に満ちる。
「……お前は、組織が潰れたあとどうするつもりだ」
「ええ?」
ボスに忠義を立てているため、気分を悪くするものだと思っていた。まさかの質問が返ってきたため、ウォッカの食事の手が止まる。
「……考えたことなかったですね」
思いつかず素直に答える。
そもそも壊滅するのか。法の下で裁きが下されるのか。殺されるのか。
その返事をどう解釈したのか、ジンは珍しく機嫌良さそうに笑い声をもらした。
「そうだ。余計な事は考えるな」
そうして食事が再開される。2杯目を注いでいる途中、ジンはぼそっと呟いた。

「だがまあ、お前の食事はうまい」
「そりゃあ……ありがとうございます」

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