このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

その他

身じろぎをすると、手錠の鎖がちゃりん、と軽い音をたてた。
(私は、まだ生きている……)
小さく息をはいた。体が痛い。さきほどの戦闘の疲れが残っている状態で、この体勢を長時間強いられるのは非常に疲れる。
そう思っていたころだった。


金属音が響いてぎい、と耳障りな音を立てて開かれる。蝋燭に火を灯しているが、僅かな光源だ。
彼女の着ている服装と相まって、なかなか表情が見えづらい。
「……名前は?」
声が落ちる。
その冷たい声は、深夜の空気を思わせた。
「リンカ」
返答に、尋ねた彼女はふーっと大きくため息をついたかと思えば、不意にしゃがみ込んだ。
目を合わせた印象は、やはり夜だった。

漆黒の髪と上着、中のブラウスこそ白だが、それはリンカ同様ひどく汚れていた。
よく見れば、スカートもところどころが破けている。
その上着のホルスターをリンカはじとりと睨みつけた。
この武器さえなければ、後れをとることもなかったろうに。

「美人は不機嫌な顔もきれいだからずるいわね……」

吐息混じりのそれは確かに耳に届いたが、どう反応していいかわからない。
思わず首を傾げると、彼女はポケットから取り出したハンカチで頬をぬぐった。
「私の名前はマリオン」
どこからとりだしたのか。おそらく傷薬であろうものを、慣れた手つきで切り口に塗っていく。
「ねえ、リンカ。私と組まない?」
「組まない、とは?」
「私の助手になって、仕事の手伝いをして」
言うや否や、かちゃりと手錠の鍵をはずした。自由になった腕。立ち上がり肩を回すと長い拘束のせいでぼきりと音が鳴った。
「あなたの力が必要なの」
「私達の力が必要……」
これまた何度も聞いた台詞だった。
その度に力を振るいつづけ、今はこうして投獄されている。

雇用主が変わる、それだけのことだ。
「違うわ」
力強い瞳で見返される。
「あなたが必要なの、リンカ」
差し出された手を、反射的に握ってしまう。
「私と一緒にきて」
夜の見た目をした彼女の手は、存外暖かだった。
5/6ページ
スキ