このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

その他

俯いた顔からは表情は読み取れない。
こちらの視線は向こうへと注がれて居るのに、向こうの視線は相変わらずスケッチブックへと向いている。
それがなんとなく気に食わない気がして、穴が開きそうなほど一心不乱に見つめてみても、反応しない。
スケッチブック一つに、意識も視線も固定されている
スケッチブック>俺
という方程式がアクセルの頭を掠めた。
その考えに思わず溜め息を吐くが、それすら気づかれない。
どうやら完全に自分の世界へと入っているらしい。
こしこしとクレヨン独特の音が部屋に広がり、飽きることなく繰り返されるその作業を、テーブルに頬杖をついて、指を叩きながら見守る事にした。

「できた」
不意にナミネがふーっ吐息を吐きながら満足げに笑う。
「何を描いたんだ?」
アクセルの声にナミネは大きく肩を震わせて驚いた。その動きに、声をかけたこちらも驚いてしまう。
「……なんだよ、そんなに驚くなよ。こっちが驚いちまう」
「……ごめんなさい」
「……別に、謝ってほしいわけじゃないんだがな」
「……ごめんなさい」
その流れに、思わず溜め息を吐く。
すると、目の前に居たナミネがびくついた。
その反応にまた溜め息を吐きそうになり、ぐっと堪える。
「で、何を描いたんだ?」
問いかけると、視線がアクセル、スケッチブック、アクセルという風に動いた。どうやら迷っているらしい。壁一面にナミネの絵が飾られているのに、今更何をそんなに迷うことがあるのか。と思う。
やがておずおずとナミネがスケッチブックを差し出す。
それを受け取って、そういえばスケッチブックを見るのは初めてだ。と中をぱらぱらと捲ってみる。
ソラやソラの記憶に関するものが大量に書かれている中、アクセルの手は一つの絵で止まった。

それは鮮やかな赤色で塗られている、夕焼けだった。
「これは……あいつの記憶とは関係ねーよな?」
その質問に、こくりとナミネが頷いた。

「でも、」
言葉を紡いだナミネに、アクセルはスケッチブックから顔を上げる。
ナミネの視線は窓へと向いていて、つられてアクセルもそちらを見る。
赤い夕焼けと、それを反射した時計台が存在していた。
「きれいな景色、残したいと思ったから」
「……」
二人の視線が交わらず、静寂が辺りに満ちる。
だが、不思議とその静寂が嫌いではなかった。
2/6ページ
スキ