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その他

真夜中、喉の乾きで目を覚ました。
生憎冷蔵庫の中は空であり、仕方なくリビングへ降りて行く。
そこで見たのは暗闇を小さく照らす光。
頼りない光は、その物の所有者の顔を浮かばせていた。

風花だった。
おそらく此方の視線には気付いてないのだろう。
熱心にパソコンのモニターを見つめている。
それを見ながらとダイニングへ移動して、二人分の飲み物を作る。

そして、静かに近づいた。


「山岸」
「きゃあっ!」

飛び上がらんばかりに驚いて、振り返る。

「悪いな、驚かせて」
「う、ううん。こっちこそごめんね」
「ほら」
湯気を立てているマグカップを差し出す。
しかしそれを受け取らず、風花は言った。
「ごめんなさい……コーヒー飲めないの」

本当に申し訳なさそうに謝る姿に、微かに笑った。「だと思った」
「え?」

顔を上げた風花にマグカップを受け取らせる。
その時に、ふわりと甘い香りが漂った。

「あ、これ……」
「ココアにしたんだ。……ホットミルクの方が良かった?」
「ううん、嬉しい」

はにかみながら礼を言う風花の頭を撫でると、びくりと反応し、恐る恐るこちらを見た。

「あ、の……」
「ああごめん。つい」

どこか飄々とした態度に何も言えなくなり、そのまま固まる。
やがて満足したのか、風花の頭から手を話した。

「あれ、シャドウのデータ?」
そう言ってパソコンと、周りの資料を指す。
「う、うん」
「頑張ってくれるのは嬉しいけど、あまり張り切りすぎないように。それで倒れたら元も子もないしね」
「……ごめんなさい」
「いや、謝ってほしいんじゃないけどね」
「後ちょっとだから。もう少しだけ」
「……そう。じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
笑う風花に挨拶をして、自室への階段を昇って行く。
僅かな距離は、胸に宿る小さな暖かさを感じさせた。


もう既に湯気すら立たないほどに冷めてしまったマグカップを持って、風花は一人笑う。

どこか掴めない所があると思っていた。
同年代の人とは違う、独特の雰囲気を感じていたから、彼を少し遠巻きにして見ていた。

その遠巻きに見る必要も、どうやら無くなった様だ。
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