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長編

「あー、あー、テステスー。マイクのテスト中ー」

個室に真っ先に入ると、電気もつけずにリンはマイクを握り締めた。
その後を追い、続いてミクも室内へと入った。

「普通に話してオッケーでも歌うと割れちゃう場合もあるよ?」
「あ、それもそうっすね。えーと、……あああぁあぁあぁー!!」
「うるっさいな!マイクの調整してから叫べよ」
叫び声に顔をしかめながらレンはソファに座り、目録をめくる。
「どう? いけそう?」
「うん、ばっちり!」
そう言って笑うリンを横目で見ながら、メイコは微笑ましそうに目を細めた。
「私何歌おうかしら……とりあえずビールね」
笑みを浮かべながら言った内容は即物的すぎて、慶介はがっくりと肩を落とす。
「話の前後が繋がってないぞ。つーか、俺が我慢してんのに横で飲む気か。鬼か?」
「だから車で行くの止めようって言ったじゃない」
「……仕方ねーだろ。暑いんだから」
溜め息混じりにぼやいていると、それが聞こえてしまったのか。
目録から顔を上げ、レンがばっさりと言う。
「こうやっておっさんに成り下がっていくんだね」
「そうよレン。あんたも気を付けなさい」
「そこの二人! 心に来ること言うな!」
そんなやり取りをしている三人を見ながら、特にすることもなくソファに腰掛けたカイトに、リンが近づいてくる。
「あ、カイ兄。一緒にドリンク取りに行こーよ」
「わかりました」
連れ立って出て行く後姿を目ざとく確認したレンが、声を掛けた。
「変なもん作ってくんなよ。兄さん、しっかり見張っててね」
「わかりました」
「そんなことしないっつーの! 人を疑うのは良くないっすよ。心が荒んでる証拠っす」
いきり立ってみせるリンに苦笑いを浮かべたミクが言う。
「リンちゃん……顔、笑ってるよ?」
沈黙が部屋に流れた。リンはうろうろと視線をさ迷わせた後に、苦笑いを浮かべていった。
「…………行ってきまーす」



「はい、リンスペシャルお待たせ!!」
明るい声とともにレンの前にドリンクが置かれる。
問題はその中身だった。
「……おい、リンスペシャル濁ってんだけど。後何で俺の前に置くんだよ」
「双子の神秘に賭けようと思って。
レンなら、何が入ってるか余裕でわかるでしょ?」

しれっと言い放つリンにばん、とレンが机を叩いて反論する。
その後ろで、ミクが小さく悲鳴を上げた。
「双子関係ないだろ! 飲まねーよ。こんなもん」
「ちぇー。ケチ。カイ兄、あげるっすー」
「自分で飲め!」
「それじゃあつまいないじゃん!」
「他人を巻き込むなよ!」
ぎゃあぎゃあと口論を始めるが、それを咎めるものも気にするものもいない。
ミクは電子機器を抱えて慶介の隣を陣取った。
「ねえねえマスター、一緒にデュエットし ようよー」
「別にいいが……。俺最近の歌知らねえぞ」
「だいじょーぶ! この日の為に昭和歌謡曲練習したの!」
「昭和……」
呟いて小さく項垂れるが、ミクはそれに気づく様子もなく機器を操作していた。
慶介のそんな様子に気づいたメイコが、慰めるように言った。
「いちいちそんな事でショック受けてたら 身が持たないわよ」


「いいもん! 神秘のかけらもないレンより、カイ兄の方が正確に当ててくれるっす!」
「だから、ああ、もういい! 貸せ!」
どうやら口論は決着がついたようだった。
やけくそ気味に言い放ったレンは、リンが抱えるドリンクを奪い取り、一気飲みした。
「きゃー、レン! おっとこまえー!」
「……うえ、これ、なん……! ごほ、げほ……ちょ、気管に入っ、……!」
「きゃー、レン! かっこわるーい!」
「……おま、絶対、恨む……ごほっ」
机に手を突いてむせ返るレンの背中をカイトが摩る。
息を整えさせる暇もなく、リンはらんらんと瞳を輝かせてレンに問いかけた。
「で? で? 味は? どう?」
「まずいに決まってるだろ……炭酸?」
「当たりだけどはずれっす。
正解は、メロンソーダとペプシとジンジャーエールとカルピスソーダでした!」
「嫌がらせか!」
「でも一気に飲むなんてさすがレン!
そこに痺れる憧れるぅ!カイ兄も惚れなおしたよね?」
ねっ、と同意を求めてリンが振り返った。その視線を受け、カイトはゆっくりと頷く。
「っ、ばかやってないでさっさと歌えば?」
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