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長編

「あっ、マスターがタバコ吸ってる!」
「あ、やべ」

言うや否やこちらに走ってくるミクを見て、慌てて煙草をもみ消した。
それについて質問責めにしようとするミクだったが、それはメイコによって遮られる。
「ちゃんと見つけて来てくれたのね。一体どこ行ってたの?」
「よそ見してたらはぐれちゃって……あはは」
苦笑いをするミクの少し後ろで、レンとリンが同時に溜め息を吐いた。

「で、すげーかっこいい人に会ったんだって」
「かっこいい人?」
レンに向かって首を傾げると、リンがその言葉の後に続く。
「どう聞いてもあやしいんすけどねー」
「どっちだよ」
呆れたように呟く慶介に、ミクはとびついて満面の笑みで答えた。
「すっごくかっこいい人!」
「そりゃ良かったな。でもなミク、あんまり迷子になるなよ? これから気をつけること!」
「はーい!」
「うし、それじゃ帰るか!」
ぐしゃぐしゃとその髪を撫でて、席へ入るように促した。
眠り続けるカイトを見つめて、ミクの動きが止まる。
泣き出すか、と身を硬くするレンに気づかずに、ミクは深呼吸をした。

「……じゃ、早くかえろ! マスター」
「……ああ、そうだな」



「ただーいまー」
「おかーえりー」

リンの声にミクが続く。その二人に、慶介は僅かに眉を寄せた。
「……お前ら、挨拶は良いけどドア閉めてからやってくれ。聞こえてるから」

「なんか、疲れたっす」
「同感」
「ミクもー」
口々に不満を漏らすリン達を急かす為にメイコが手を叩く。
「ほらほら、玄関で詰まってちゃ後入れないでしょー。さっさと動く!」
「はいはーい」
三人は口々に不満を漏らしながらリビングへ入っていく。
その姿を見送ってから、メイコは慶介にくるりと向き直った。
「カイトのこと、お願いして大丈夫?」
「ああ。お前も向こうの事頼むな」
「わかってるわ」
そう言って慶介に手を振って見せると、メイコもリビングへと入っていく。




慶介はカイトを抱えなおして部屋へ入った。
埃はないが、物も少ない。
そんな青系統で統一された部屋のベットにカイトを下ろし、自分も腰掛ける。

手で髪をといてみても、身じろぎ一つしない。
そんな姿を見て、目を細める。
「体ぼこぼこだったぞ……痛かったろ」
返事はない。それは慶介自身もよく判っている。だからこそ、言うのだ。
「悪いな。何もしてやれなくて」
ふがいないよな、と呟く声が部屋に広がる。
「絶対……なんて言い切れないか」
はは、と乾いた笑いを浮かべて、慶介は続ける。
「これから頑張るからさ。全員で楽しく過ごせるよう、俺が守る」

そっと頬に触れた。
冷たい指先が、カイトの僅かな熱を感じ取る。

「早く起きろよ。みんな待ってるし、俺だって待ってる。
まだお前に教えてないことだってあるしな。俺が煙草吸うとこ見たこと無いだろ
他にも内緒にしてることあんだぞ」


こつ、と軽くカイトの額を小突いた。


「だから早く起きろよ。俺はな、お前に色んな世界を見せてやりたいんだ」

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