その他
「お姫様がほしがるもの?」
東北ずん子は弓の手入れを止め、思わず繰り返す。
「そうなのだ」
「うーん……どんなお姫様なの?」
「ひらひらで、ふわふわで、きらきらしてて……」
ずん子は内心でおや? と首を傾げた。
弟のように可愛がっているずんだもんには少し困った癖がある。
この年頃にはありがちだが、少し自分を大きく見せてしまうのだ。
このボクが言ってるのだ。間違えるわけないのだ。と言いながらも間違った知識を披露したり痛い目を見ることがしばしばある。ずん子はそんなところが目に入れても痛くないほど可愛い。
幸運にも、友人には恵まれているようで、そんな彼を窘めたり困ったときには尻拭いをする。
思考が逸れてしまった。
とにもかくにも、知識をひけらかすことが好きなずんだもんの事だから小難しい言い回しをすると思っていた。
「ひらひらで、ふわふわで、きらきら?」
「そうなのだ」
前の方に手を持って行き、所在なさげにもじもじと佇む様子にずん子は再度おやおや? と思った。
「とりあえず、ずんだもちでも食べませんか?」
武具をどかし、座布団をすすめてから茶菓子の用意をするため席を立った。
「お姫様に会ったのだ」
「はあ」
好物のずんだ餅をむさぼるように食べ、緑茶をすすって二人で一息つく。ほう、とため息をずん子がもらして、しばらくの沈黙後に口を開いた。
「お姫様、ですか」
うんうん、と大げさにずんだもんが頷きを返した。
「ボクがお姫様に会ったのはーー」
要約すると二週間ほど前にお姫様に会い、雷に打たれ、もとい、一目惚れだったそうだ。
なんとも可愛らしい恋の目覚め。
ふふふ、と思わず漏れた笑い声に、眼前のずんだもんがじと目で見上げてきた。こほん、と咳払いを一つ。
ここは彼に合わせて仰々しい口調で話さなければならない。ずん子自体人並みに本を読むが、それと口調は別である。
「我が身を省みて気づいたことはありませんか?」
うーん、と顎に手を当てて首をひねるずんだもん。芝居がかった仕草はこの際無視だ。
「私達には圧倒的に情報が足りていないことです」
好きな物以前に、どこの誰なのかさっぱりわからなかった。
「それでもアピールしたいのなら、自分が好きな物を渡すのはいかがでしょうか?」
そう告げると、ずんだもんの目線は和菓子がのっていた皿にぴたりと止まった。
「はい、じゃあくるりと一回転してみてください」
ずん子の声にずんだもんはくるりと回って見せた。
「大丈夫です。かっこいいですよ」
「じゃあ、行ってくるのだ」
むん、と握り拳をつくり自らを鼓舞してみせると、公園の中へと向かっていった。右手と右足が同時にでていることに気づいているのだろうか。
ずん子は動くずんだもんに合わせて草木の中を突き進む。正直不審者に見えている自覚はあるので、できれば早くすませたい。
「あの子かしら……」
その目線の先には、手入れがいき届いてる緑の髪を腰まで伸ばし、ふわりとしたワンピースを着ている少女。
「あら、ずんだもん様」
歩いていくずんだもんに気づき、彼女は腰を折って目線を合わせる。
裾が地面についていますよ! と思わず言いたくなるがぐっと堪えた。そういうことを気にしない、ワイルドな性格か、天真爛漫なのか。
「あげるのだ」
「え?」
「これ、あげるのだ」
ぶっきらぼうにずんだもんが差し出した手のひらにのっていたのは、近所のスーパーのラベルが貼られた格安の和菓子で。
「いただけるのですか?」
「僕のお気に入りなのだ」
「まあ」
両手をぱちんと顔の前で合わせて彼女は続けた。
「わたし、和菓子はあまり馴染みがないんです!ありがとうございます!」
ぱあ、と彼女の表情が明るくなり。それを眼前で受けたずんだもんの顔が赤くなった。
「僕、ずんだもんというけど、この前、名前を聞くのを忘れていたのだ」
少し俯きがちに話していたずんだもんが、顔をあげる。
「名前、教えてほしいのだ」
「ーーもちろん。これからも、仲良くしていただけますか?」
どうやら、彼の恋路はうまく一歩を踏み出せたようだ。
東北ずん子は弓の手入れを止め、思わず繰り返す。
「そうなのだ」
「うーん……どんなお姫様なの?」
「ひらひらで、ふわふわで、きらきらしてて……」
ずん子は内心でおや? と首を傾げた。
弟のように可愛がっているずんだもんには少し困った癖がある。
この年頃にはありがちだが、少し自分を大きく見せてしまうのだ。
このボクが言ってるのだ。間違えるわけないのだ。と言いながらも間違った知識を披露したり痛い目を見ることがしばしばある。ずん子はそんなところが目に入れても痛くないほど可愛い。
幸運にも、友人には恵まれているようで、そんな彼を窘めたり困ったときには尻拭いをする。
思考が逸れてしまった。
とにもかくにも、知識をひけらかすことが好きなずんだもんの事だから小難しい言い回しをすると思っていた。
「ひらひらで、ふわふわで、きらきら?」
「そうなのだ」
前の方に手を持って行き、所在なさげにもじもじと佇む様子にずん子は再度おやおや? と思った。
「とりあえず、ずんだもちでも食べませんか?」
武具をどかし、座布団をすすめてから茶菓子の用意をするため席を立った。
「お姫様に会ったのだ」
「はあ」
好物のずんだ餅をむさぼるように食べ、緑茶をすすって二人で一息つく。ほう、とため息をずん子がもらして、しばらくの沈黙後に口を開いた。
「お姫様、ですか」
うんうん、と大げさにずんだもんが頷きを返した。
「ボクがお姫様に会ったのはーー」
要約すると二週間ほど前にお姫様に会い、雷に打たれ、もとい、一目惚れだったそうだ。
なんとも可愛らしい恋の目覚め。
ふふふ、と思わず漏れた笑い声に、眼前のずんだもんがじと目で見上げてきた。こほん、と咳払いを一つ。
ここは彼に合わせて仰々しい口調で話さなければならない。ずん子自体人並みに本を読むが、それと口調は別である。
「我が身を省みて気づいたことはありませんか?」
うーん、と顎に手を当てて首をひねるずんだもん。芝居がかった仕草はこの際無視だ。
「私達には圧倒的に情報が足りていないことです」
好きな物以前に、どこの誰なのかさっぱりわからなかった。
「それでもアピールしたいのなら、自分が好きな物を渡すのはいかがでしょうか?」
そう告げると、ずんだもんの目線は和菓子がのっていた皿にぴたりと止まった。
「はい、じゃあくるりと一回転してみてください」
ずん子の声にずんだもんはくるりと回って見せた。
「大丈夫です。かっこいいですよ」
「じゃあ、行ってくるのだ」
むん、と握り拳をつくり自らを鼓舞してみせると、公園の中へと向かっていった。右手と右足が同時にでていることに気づいているのだろうか。
ずん子は動くずんだもんに合わせて草木の中を突き進む。正直不審者に見えている自覚はあるので、できれば早くすませたい。
「あの子かしら……」
その目線の先には、手入れがいき届いてる緑の髪を腰まで伸ばし、ふわりとしたワンピースを着ている少女。
「あら、ずんだもん様」
歩いていくずんだもんに気づき、彼女は腰を折って目線を合わせる。
裾が地面についていますよ! と思わず言いたくなるがぐっと堪えた。そういうことを気にしない、ワイルドな性格か、天真爛漫なのか。
「あげるのだ」
「え?」
「これ、あげるのだ」
ぶっきらぼうにずんだもんが差し出した手のひらにのっていたのは、近所のスーパーのラベルが貼られた格安の和菓子で。
「いただけるのですか?」
「僕のお気に入りなのだ」
「まあ」
両手をぱちんと顔の前で合わせて彼女は続けた。
「わたし、和菓子はあまり馴染みがないんです!ありがとうございます!」
ぱあ、と彼女の表情が明るくなり。それを眼前で受けたずんだもんの顔が赤くなった。
「僕、ずんだもんというけど、この前、名前を聞くのを忘れていたのだ」
少し俯きがちに話していたずんだもんが、顔をあげる。
「名前、教えてほしいのだ」
「ーーもちろん。これからも、仲良くしていただけますか?」
どうやら、彼の恋路はうまく一歩を踏み出せたようだ。
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