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レン×カイト

「…………にゃあ」
「……は、」

「…………にゃーん」
「えーっと、その……何それ」

「……今日は 猫の日です」
「あ、ああ。そうだよね」
「…………にゃん」


「で、それは」
「猫耳です 正確には 黒猫の耳をモデルにしたカチューシャです」
「へー……」
あ、駄目だ何か頭痛くなってきた。
そんな事を考えながら、レンは深く溜め息を吐いた。
レンの前には、依然猫耳を着けたままのカイトが座り込んだままである。何故か正座だった。
付け加えて説明するならば、ここはレンの部屋だ。

リビングに別れを告げて、さあ自分の部屋で静かにまったりと過ごそうとした時に、この状況である。
もう、本当に何これ。


「……似合いませんか」
不意に沈黙を破ってカイトの声が聞こえた。
遠い目をしていたレンは慌ててカイトに視線を戻す。
どこか、しょんぼりとした雰囲気が見えるのは気のせいなのか。
きっと気のせいなのだろうと言うことは分かっているが。
「あー……似合ってるよ。かわいいかわいい」
そんな状態のカイトを突き放す行動は、レンにはとれなかった。
投げやりに感想を述べると、そうですか。と相変わらず静かな返事が返ってきた。
猫耳の衝撃で気にしていなかったが、カイトは律儀にも正座をしてレンを待っている。
その場に手でもついてお出迎えでもしそうだな、とそんな事を考えながらじっくりと猫耳を含めてカイトを観察していると。
「……尻尾?」
「着けた方が良い と言われたので」
まさかそんなことの為に服に穴でもあけたのだろうか。
そんなことを考えたが、際構造は問題ではない。
すらりと長い――それも猫耳と合わせた色で、触り心地の良さそうな尻尾が、ご丁寧にもついていた。
色物趣味にもほどがある。
「……用意周到だね」
「リンが 記念に と」
「ああー、やりそう」
頭の中で、あくどい笑みを浮かべたリンの姿が容易に想像できた。
お祭りごとには全力で参加するリンにとって、こんなおいしいイベントは見逃せないのだろう。
「……それにしたって、尻尾まで」
「これは マスターが造って くれました」
「……へー」
「回路を繋いであるので 任意で多少動かせます」
どこか嬉しそうにカイトは告げて、レンの目の前まで尻尾が持ち上げて、ゆらゆらと揺らして見せた。
暫くは奏して尻尾の動きを見せていたのだが、やがてそれを床に伏せて、今度は耳をぴくぴくと動かして見せる。
「わあ、すごいね」
その技術をもっと別のところで活かせば良いのに
と言うことは胸の奥にしまっておく。
「さすが マスター です」
カイトもどこか嬉しそうに見える。
「触って良い?」
「どうぞ」
ふわふわの尻尾に触れてみる。
その柔らかな感触に思わず笑みを浮かべる。
了承も取っていることだし、暫くはこの感触を楽しもう。
本物の猫の尻尾には劣るものの、まるで上質なカーペットを思い起こすような手触りは、レンに至福の時をもたらした。
不意に、カイトの青い瞳と視線が合った。

「ん、どうかした?」
「…………いいえ」
「そう」
この手触りは中々の物だ。
暫くそれを堪能していると、カイトが居心地が悪そうにもぞもぞと、小さく動き出した。

「兄さん?」
先程と違い、落ち着きなく耳を動かしている姿は、猫っぽいと言われれば確かにそうだ。
しかし、違和感が残る。
カイトがこんな仕草をするだろうか。
「…………あの もう 良いですか」
「あ、うん。ありがとね」
まだ名残惜しいが、生えている本人からの申し出だ。
そう言われれば離さないわけにはいかない。
「あとでマスターに、どうやって造ったか聞こうか」
「わかりました」
素っ気ない返事と共に、頭に着けられた耳がぴくぴくと動く。

「ねえ兄さん、にゃーって鳴いてよ」
「にゃあ」
「あははは、かわいいかわいい」

これはこれで良いものだ。
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