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長編

「じゃあ私からね!」
ミクがはーい! と威勢よく手を上げて宣言する。
それに乗っかる形で、リンも手を上げた。
「あ、じゃあその次わたし予約っす」
「で、順番的に言うと。レン・私・カイト・マスターね」
「最後なのか」
「いいじゃない。その間に入れる曲でもゆっくり考えたら?」
「ああー、それもそうか」
特に悩んだ様子もなく曲目を入れたリンはそれをレンに手渡した。
そうすると、レンは考えているのかペンを持ったまま動かない。
これは長くなりそうだな、と慶介は製本されている目録をめくり始めた。
「一番、初音ミク! 歌いまーす!」
「わーっ! 待ってましたー! ミクラブー!」
まるでライブ会場のように腕を振り上げて言う。
それと合わせたかの様にリンは声を掛けた。
「しょっぱなから飛ばしてんなあ」
「ほら、レンも拍手!」
「え、ああ……」
促されてようやくレンが機器から目を離した。

「……カイト、拍手するならリズムよく。 まばらはダメよ」
「……わかりました」



「ぼーくとか、きーみとか、こいーとか、あーいとか、すーきとか、きらーいとか、まだーたりーない」
「しっかし、ミクは相変わらず恋愛の歌が 多いなあ」
「いいじゃないっすか。かわいくて」
「いや、ダメだとか嫌だとか言ってるんじゃなくてな。なんつーんだ、こう……」
「心拍数僅かに上昇 共に頬の体温上昇が見受けられます」
カイトのつらつらとした話を聞いて、レンが言った。
「つまり……照れてるってこと?」

「えー、うそっ! マスターかわい―!」
「そうか?」
指を向けて笑うリンに、レンがじとりと目を向けながら言う。
二人分の視線を受け、慶介は居心地が悪そうに顔をそらした。
「うっせ。こー言うのはなんかむず痒いんだよ」
「ねー、ちゃんとミクの歌聞いてるー?」
やがて間奏部分でミクが不満げに問いかける。
その質問を受けて、メイコは頷いた。

「ん、聞いてるわよ。ねえカイト」
「……2小節前にテンポのずれ サビ2の出だし部分に半音の下がりを確認しました 本来ならばこのサビの音は」
「や、もういいです…」
ミクが項垂れながら止めた。
「そうですか」
僅かに首をかしげながら言う姿に、レンが苦笑いをした。


「はいはいはーい! 次はみんなお待ちかねのリンの出番っすよ!」
「待ってない。誰も待ってない」
「二回も言うなー!」
「わー、リンちゃーん! かわいー!」
「ありがとー!」
ミクの声援を受けてリンが手を振り返す。
その動作を見て、レンが呆れたように呟いた。
「え、なに? ずっとこのテンションでいくの?」
「良いじゃない楽しそうで。リーン、がんばってねー」
「うわっ、かわいい二人の声援までいただいちゃって。ちょう頑張るっすよ!」
「なにキャラだお前」

「きーみのくっびをしめる夢を見たー」
「この曲好きだなあ。いっつも歌ってね?」
リンの歌声が響く中、慶介が話す内容に同意して、メイコが頷いた。
「まあ、歌う曲がないよりマシじゃない?」
「そうだろうね」
ずるずるとドリンクを飲んでいたレンがそれに同意した。

「あ、もうそろそろシャウト来そう」

そう呟き、耳を手で覆う。
予想どうり、大きく息を吸ったリンがぐっと息を詰める。

「ぅああぁあああぁー! ……ゆぅごーろにさー!」
「あいつすっげー笑顔だな」
目録を傍らにおいて、じっとリンを見ていた慶介が言った。
それに言葉にレンが付け加える。
「歌でストレス発散でもしてんじゃない?」
「……じゅうぶんありうる」
「ってーか、リンより俺の方がストレス溜まってると思うんだけど」
「そう。じゃあ存分に歌ってきなさい。ちょうど次あんたの番だし」
「……カラオケは苦手なんだけどなー」

と呟いて、歓声を上げながらマイクを振り回しているリンの手を避けながら奪い取った。


「……とかなんとか言いながら、あいつも 大体は上手いよなあ。しかも熱唱するし」

「きーみを救って、どこかの国っへー!」

「レンは騒がしいとこが嫌いなんでしょ。 歌うのが嫌なボーカロイドなんてそうそう居ないわよ」
「それもそうか。まあ楽しそうでなにより」

「ふう……。次は姉さんだっけ? はい」
やや満足そうにしながら、レンがマイクを直接メイコに手渡した。
「ありがと。じゃあ大人代表いきまーす」
その言葉に慶介がぼそりと呟く。
「どっちかって言うとこのメンツじゃおば」
「そこのおっさん何か言ったかしら」
「いえ何でもないです」

「紅の血の鎖 蜜のよう甘く絡みつくー」

メイコの歌声を聴いて、ミクが羨ましそうにほう、と溜め息を吐いた。

「お姉ちゃんの歌って……かっこいいよねー」
「大人の色気ムンムンって感じっすよねー」
「お前には一生無理だな」
「なんだとー!」
「はいはい、そこの二人喧嘩しないの。離れて座ったら?」
席を立ち言い合いをする二人の間を、メイコが手で制する。
「いやっすよ! どうせレンカイ兄の隣キープするき満々なんだから!」
「しねーよバカ!」
更に助け舟を出すように、苦笑い交じりに慶介がカイトにマイクを手渡した。
「わかったわかった。次はカイトだな。……何歌うんだ?」
その問いかけに、何故かカイトではなくミクが答える。
しかも仁王立ちをしながら得意げに。
「ふっふっふっー。実は決めてるんだよ! ねー、お兄ちゃん!」
「へー。そうなんだ」
「じゃあお手並み拝見ってことで」
「お兄ちゃん、がんばってー!」
「応援するっすよー」
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