TOS
「リヒターさん、僕を見てください」
この問いかけは、もう何度目になるだろうか。
「見ているが」
「嘘だ」
そしてこのやりとりも。
辺りはほの暗く、灯りと言えば起こした焚火位だ。
リヒターに馬乗りになっているエミルの表情が辛うじて見える。
まるで今にも泣き出しそうだ。
「リヒターさんは、僕じゃなくて、わからないんですけと……でも僕を通して、誰かを見ている」
「エミル、違う」
「違いません」
エミルにとっては珍しく、きっぱりと言い切った、
「何故、そう言い切れる?」
「僕がリヒターさんを好きだからです」
その時、リヒターは衝撃を受けた。
エミルが自分に好意を寄せているのは理解していたが、まさかそういうものだったとは。
だが、エミル程の年は尊敬と恋愛感情を履き違えるものだ。と自身を納得させる。
「エミル、落ち着け。お前は勘違いしている。尊敬と恋愛感情を、履き違えるな」
「確かに僕はリヒターさんを尊敬しています。でも、履き違えてない」
そこでエミルは一度大きく息を吸った。
押さえつけていた手が緩む。このまま振りほどくことは可能だが、このまま誤解されたままではいけないとリヒターは考えた。
「もう一度言います。僕は、リヒターさんが、好きです」
一つの焦りが浮かんだ。夜の闇更に深くなり、相手の輪郭までぼやけさせる。
闇の中、唯一はっきりと分かる。
鮮やかな金色。
「やめろ。エミル、いいか。それは違う 」
「違わない。現にリヒターさん、今でも、僕に誰かを重ねてますね」
「いいか、お前はエミル・キャスタニエだ。それははっきりわかってる。お前は、何が不満なんだ」
「リヒターさんの心の中に、いつも誰かが居る。その誰かを通して、いつも僕をみている。……それが、とても嫌です」
不意に、リヒターの顔に涙が落ちる。
「エミル、お前」
「それでも、僕はリヒターさんが好きです。……大好きなんです」
それっきりエミルは口を閉ざし、リヒターから離れた。
「ごめんなさい、リヒターさん」
「謝るなら、初めからするな」
そう言うと、エミルは苦笑いを浮かべた。
「あはは、そうですね。……おやすみなさい、リヒター」
リヒターは勢いよく振り返った。だが、そこにはもう熟睡したエミルが居るだけで。
「……何を、馬鹿なことを」
溜め息を吐き、毛布を体に巻き付けて、本格的に寝る体制をとった。
目を閉じた。
思い出すのは金の髪。
瞳の色は
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