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TOI

「だぁー!もう、わかんないわよっ!」
放課後、夕日が差し込む教室で悲痛な声をあげたイリア。
真正面に座っているルカはそんな彼女をまあまあと優しく宥める。
しかし、イリアは不貞腐れた顔をしながら、椅子の後ろでバランスを取っていた。
自分の宥めが無視されているのに少々落胆するが、その体制に器用だと思った。

「後ちょっとだよ。頑張ろうよ」
「ルカの後ちょっととあたしの後ちょっとは違うの!」

シャーペンで教科書をつつく表情は、恨めしそうだ。
「先に帰ってて良いわよ。暗くなったら危ないし、あんたあたしより女の子っぽいんだから」
その言い種に苦笑いを浮かべた。

「それなら、ますます僕は帰れないよ。イリアが心配だからね」
ルカの言葉に、イリアは体制を直す。
がたん、と一際大きな音が鳴った。
「……遅くなったって知らないからね」
ぶっきらぼうに言う姿に笑いかける。
「うん、ずっと待ってる」
「待ってるだけじゃ嫌よ。ちゃんと教えてよね!」
「わかってるよ。ここはね……」
ルカの指が教科書をなぞる。
ふんふんと頷いてから問題にとりかかるイリアを見つめるが、気づかない。
申し分の無い集中力だ。

イリアは頭が悪いわけではない。
要点を教えると、きちんと回答を出す。
ただ問題文を見て早とちりする傾向があった。

何度注意しても、直る気配がない。
悪い癖だ、と心の中で呟いた。


「でーきたっ!」
イリアの歓声を聞いてはっとする。見つめ続けたままぼーっとしていたらしい。
「ちょっと見せて」
渡された課題に目を通す間、ある意味素晴らしい自分の集中力に苦笑いをした。
「……どしたの?何か違ってた?」

イリアが不安気に思い声をかけてきた。
流石の彼女も、やり直しをする気力は無いのだろうか。
「ごめん、何でもないよ」
そう言ってひらひらと手を振る。
それに納得したのか、あっさりと引き下がった。


満点とまではいかなかった。
幾つかの間違えた解答欄の前で、ルカのペンは止まる。
イリアはそれに気づかずに、ひたすら椅子をがたがたと揺らしていた。
ちらりと窓の外を窺うと、夕暮れを通り越して暗くなりかけていた。

何度か躊躇したが、そのまま丸を付けた。
このくらいのおまけはいいだろう。

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