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TOI

「イリア、危ないっ!」
ルカの焦った声に弾かれた様に振り返る。
今まさに魔物の爪が振り下ろされんとする瞬間だった。

慌てて後ろに跳躍し、魔物の体に銃弾を打ち込んだ。
反動でぐらりと揺れた影から、スパーダが滑る様に体を切り上げる。
事切れた体が地面に沈んで、ずずんと鈍い音が伝わり、イリアは安堵のため息を吐いた。
「イリア、大丈夫?」
ルカが駆け寄ってくる。
他の魔物を一人で押さえ込んでいたと言うのに、自分の心配をせずに真っ先にこちらに来て安否を確認する姿に、苦笑いをする。
「大丈夫、あんたはどうなのよ」
「え、えと……僕も大丈夫」
「俺は大丈夫じゃねー」
不機嫌な声が割り込む。
そのままずかずかと歩いて来て、イリアの前に怪我をした部分をひらひらとふってみせた。
う、とルカがそれを見て青ざめるのとは反対に、イリアはさっと手を取って、術を詠唱した。
微かな光が傷の周りを包む。
光が消えた頃には、傷口は大体直っている。
それでも僅かに残った痕をしばらく見つめ、スパーダはため息を吐いた。
それを批判と取ったのか、イリアが言った。
「何よ」
「いや、流石に初級術は限界があるなってよ」
「……そうよねえ」
「グミも高いし、ライフボトルも。食材もただじゃねーしなあ」
はあ、と深いため息を吐いた。
その嘆きに、ルカは今後の予定と所持金を照らし合わせてみる。
そしてがくりと肩を落とした。

「あっ、良いこと考えた」

そんな湿っぽい空気を一瞬にして吹き飛ばしたのはイリアの声である。
二人とも顔を上げて見つめる。
双方の視線を集め、奇妙な笑い声を上げた。
黙ってれば可愛いんだけどなあ、とスパーダは思い、何を言われるんだろうとルかは不安に思う。
様々な思惑が渦巻く中、勢いよく空に向かって指を立てた。
「アルバイトよっ!」
威勢の良い声をあげて宣言する。
得意気にふふん、と威張って見せる姿に、ルカが質問した。

「……えーと、どこで?」
「決まってるじゃない。次の町でよ。それで、資金が貯まるまでそこに滞在するの。どう?」
「いいんじゃねーの?こうやって闘い続けるよりはマシだろ」
「じゃ、決まりねっ!」
嬉しそうに両手を組み合わせるイリアに、ルカが言った。

「それで、町はどこにあるの?」

静まりかえった三人の頭上を、鳥が和やかに飛んでいく。

「ルカっ!!」
「はいぃっ!」
鬼の形相で名前を呼ばれ、姿勢を正して返事をする。
「あんたねえ、責任取りなさいよっ!」
「ええっ、何で僕が」
「当たり前じゃないの!地図任せてって言ったのはあんたでしょう!」
その怒りように、ルカはスパーダに助けを求めて視線を送る。
諦めろ、と言うように首を振られ、泣きたくなった。

彼女の雨の様な小言が終わるのは、もう少し先のことである。
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