TOA
グランコクマの王に与えられた一室に、ガイとティアはテーブルを挟んで向かい合って座る。
そのテーブルには、紅茶と茶菓子のクッキーが可愛らしく盛り付けられていた。
「最近よく、貴方に誘われるわね」
そう言って紅茶を啜るティアに、ガイは笑いながら答えた
「誘ったって、来てくれるのはこれが初めてだけどな」
ガイの言葉に、ティアは頭を下げた。
それを見たガイは、慌てて手を振る。
「ごめんなさい。いろいろ立て込んでて、決まった時間が取れなかったの」
「それに関してはいいんだ。……ただ、ティアがそうやって仕事を片付けて来てるのに、俺のところでちゃんと羽を伸ばせてるか、わからないし」
ガイも紅茶を啜り、一息ついてから話し始めた。
そんなガイの様子を気遣ったのか、ティアが言った。
「私はここに来て凄く癒されるわ」
「それ、ブウサギが居るから?」
「ち、違うわ!ブウサギじゃなくて……!」
途端に慌てだすティアに、ガイは悪戯が成功した子どものように笑った。
「そんな風に必死になって隠すことかな」
「だから、私はその、ブウサギじゃなくて……!」
「はいはい」
さらりと受け流すガイに、ティアはもう、と呟いてクッキーを一つ食べる。
それが予想外に美味しかったのだろう。少し目を見張り、もう一つ、と手を伸ばした。
ガイはそんなティアの様子を横目で眺める。
ティアが嬉しそうにクッキーに手を伸ばしている様子を見て、思う。
全てが終わった後ユリアシティに戻ったティアを心配し、ガイは様子を見に行ったことがある。
もちろん、ここに居るティアはそれを知らない。
最初は会いに行こうとしたが、家の近くではたと立ち止まった。
自分が現れれば、ティアはいつも通りに振舞うのではないのだろうか。
ここまで来て会わずに帰ることは出来ないが、「普段通り」を演じる彼女を見るのは嫌だ。
悩んだ結果、近くの住人を捕まえてティアの様子について聞いた。
最初は訝しげに思った住人も、事情を話せば分かってくれた。
ただ、やたらと口を開きたがらなかった。
その様子に、何か悪いことでも起こっているのか、と慌てて問いただすと
『ティアちゃんも可哀想にね……何があったかよく分からないけど、偶に家の奥の庭で一人ぼうっとしてるんだよ。お兄さんも何処か行ったのか、帰って来ないしね』
それを聞いて愕然とする。
軍人であり、ユリアの子孫であり、あのヴァンの妹であるティア。
だが、それら全てを取り払うと、ただの17歳の子どもなのだ。
住人にお礼を告げ、慌てて家に入る。
何故鍵がかかっていなかったのか、あの時は不思議に思った。
だが、それも今となっては理解できる。
庭先に急いで出ると、小さな花畑になっている中心にティアが座っていた。
ガイの立てた騒々しい音が聞こえたのだろう。
ゆっくりとティアは振り返った。
その時に見た顔は、早々忘れられるものではない。
そして、振り向きざまに放った言葉も。
「ガイ?」
ティアの呼びかけに、ガイははっとする。
気づけばティアは身を乗り出して、ガイを不思議そうに覗き込んでいた。
反射的に身を引き、その様子を見てからティアは席に着いた。
「あ、ああ、すまない。何だっけ?」
「ここのクッキー、美味しいわね」
「それは良かった。選ぶの悩んだんだ」
他にもあるぞーっとクッキーの山を持ち出してくるガイに、ティアはくすくすとを笑みを零した。
「……良かった」
「何が?」
「ティアがさ、少しでも楽しんでくれて」
その言葉にはっとするティア。そして、小さく俯いた。
「……ごめんなさい、貴方に心配をかけてしまったわ」
「いや、別にいいさ」
「でも、どうしてかしらね。ナタリアやアニスに会ったけど、気づかれなかったのに」
「それは、」
「それは?」
「……男の勘ってやつだよ」
「何、それ」
再び笑い出すティアを見て、ガイは優しげに目を細めた。
そのテーブルには、紅茶と茶菓子のクッキーが可愛らしく盛り付けられていた。
「最近よく、貴方に誘われるわね」
そう言って紅茶を啜るティアに、ガイは笑いながら答えた
「誘ったって、来てくれるのはこれが初めてだけどな」
ガイの言葉に、ティアは頭を下げた。
それを見たガイは、慌てて手を振る。
「ごめんなさい。いろいろ立て込んでて、決まった時間が取れなかったの」
「それに関してはいいんだ。……ただ、ティアがそうやって仕事を片付けて来てるのに、俺のところでちゃんと羽を伸ばせてるか、わからないし」
ガイも紅茶を啜り、一息ついてから話し始めた。
そんなガイの様子を気遣ったのか、ティアが言った。
「私はここに来て凄く癒されるわ」
「それ、ブウサギが居るから?」
「ち、違うわ!ブウサギじゃなくて……!」
途端に慌てだすティアに、ガイは悪戯が成功した子どものように笑った。
「そんな風に必死になって隠すことかな」
「だから、私はその、ブウサギじゃなくて……!」
「はいはい」
さらりと受け流すガイに、ティアはもう、と呟いてクッキーを一つ食べる。
それが予想外に美味しかったのだろう。少し目を見張り、もう一つ、と手を伸ばした。
ガイはそんなティアの様子を横目で眺める。
ティアが嬉しそうにクッキーに手を伸ばしている様子を見て、思う。
全てが終わった後ユリアシティに戻ったティアを心配し、ガイは様子を見に行ったことがある。
もちろん、ここに居るティアはそれを知らない。
最初は会いに行こうとしたが、家の近くではたと立ち止まった。
自分が現れれば、ティアはいつも通りに振舞うのではないのだろうか。
ここまで来て会わずに帰ることは出来ないが、「普段通り」を演じる彼女を見るのは嫌だ。
悩んだ結果、近くの住人を捕まえてティアの様子について聞いた。
最初は訝しげに思った住人も、事情を話せば分かってくれた。
ただ、やたらと口を開きたがらなかった。
その様子に、何か悪いことでも起こっているのか、と慌てて問いただすと
『ティアちゃんも可哀想にね……何があったかよく分からないけど、偶に家の奥の庭で一人ぼうっとしてるんだよ。お兄さんも何処か行ったのか、帰って来ないしね』
それを聞いて愕然とする。
軍人であり、ユリアの子孫であり、あのヴァンの妹であるティア。
だが、それら全てを取り払うと、ただの17歳の子どもなのだ。
住人にお礼を告げ、慌てて家に入る。
何故鍵がかかっていなかったのか、あの時は不思議に思った。
だが、それも今となっては理解できる。
庭先に急いで出ると、小さな花畑になっている中心にティアが座っていた。
ガイの立てた騒々しい音が聞こえたのだろう。
ゆっくりとティアは振り返った。
その時に見た顔は、早々忘れられるものではない。
そして、振り向きざまに放った言葉も。
「ガイ?」
ティアの呼びかけに、ガイははっとする。
気づけばティアは身を乗り出して、ガイを不思議そうに覗き込んでいた。
反射的に身を引き、その様子を見てからティアは席に着いた。
「あ、ああ、すまない。何だっけ?」
「ここのクッキー、美味しいわね」
「それは良かった。選ぶの悩んだんだ」
他にもあるぞーっとクッキーの山を持ち出してくるガイに、ティアはくすくすとを笑みを零した。
「……良かった」
「何が?」
「ティアがさ、少しでも楽しんでくれて」
その言葉にはっとするティア。そして、小さく俯いた。
「……ごめんなさい、貴方に心配をかけてしまったわ」
「いや、別にいいさ」
「でも、どうしてかしらね。ナタリアやアニスに会ったけど、気づかれなかったのに」
「それは、」
「それは?」
「……男の勘ってやつだよ」
「何、それ」
再び笑い出すティアを見て、ガイは優しげに目を細めた。