TOA

教室の一番後ろの窓際は、まさに天国だ。
授業を聞き、ノートを取れば、大抵は注意されない。
もちろんそれは振りだけで、関心はもっぱら斜め前の席に向いていた。
栗色の長い髪が、扇風機の風を受けて、ゆらり、ゆらりと揺れている。
本人はそれを気にする様子もなく、ただ黒板のみに意識を集中させていた。

「では、ティア。ここの問いを解きなさい」
「はい」
教師に名指しされ、黒板に答えを書いていく。
字は本人を表すと、聞いたことがある。
ティアの字は、美しい。悪く言えば、個性の無い字だった。

「正解です。字も綺麗だし完璧ですね」
「ありがとうございます」

当たり前の様に教師に向かって礼をした。
その光景を見て、ルークは首を傾げた。


教師が生徒を褒めるのは、当然だ。
礼を言う必要などないだろう。

など思っていると、席へ戻ろうとしていたティアと目があった。
驚いて少々面食らうと、そんなルークを見てティアは口を動かした。

「ばか」

実際にティアは声に出してはいないのだが、口の動きを見るにきっとそうだろう。
その後に、僅かに微笑んだ。

呆気にとられて、ぽかんと口を開けた。
その後、自分が退屈しているのを見透かされていたのだと分かり、恥ずかしさに机につっぷした。

「……なんだよ」

茹だるような暑さに、蝉の大合唱と退屈な教師の授業。
それら全てが、頬を赤くさせる原因だと思い、ルークはきつく目を閉じた。
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