二人の約束
「先ぱーい…どこまでいくんですか…?」
藤内は膝に手をつきながら喜八郎に尋ねた。喜八郎はというと息ひとつあげずにどんどん山を登っていく。辺りはもう闇に包ま助れており、空は木々で隠されて星も月も見えない。一人置いていかれてしまえば、道に迷うことになってしまいかねないと、藤内は先に歩いている喜八郎を慌てて追いかける。しかしまた足が止まってしまう。
「もう少しだから、頑張って。」
隣でぜぇぜぇと息をきらしている後輩に声をかけて、手を差し出す。喜八郎なりの優しさだった。藤内は膝についていた手を差し出された手に重ねる。
なぜこんな夜に山を登っているかというと、昼休み中のことであった。
「藤内、今日の夜、出掛けよう。」
図書室で次の時間の予習をしていた藤内は突然の誘いに、しばらくぽかんとしていたが、そういうことで、とその場を去ろうとする喜八郎を思わず大声で呼び止める。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「…図書室では静かにね、藤内。じゃ夜迎えにいくから」
しーっと口に人差し指をあて、何もなかったかのように図書室を去った。
あまりにも強引な誘いに、藤内は慌てた。別に夜、予定があるわけではないがどこにいくとか、何をするとか、もっと教えてくれてもいいじゃないか。さっさと図書室を出てしまった喜八郎を再び呼び止めようとしたが、大声を出したのが気に入らなかったのだろう、きり丸がハタキで僕をはたき出したので無理だった。
そして夜、僕の部屋に予告通り喜八郎は現れた。どこにつれていかれるのか分からないまま、今にいたる。
「いい加減教えてくれてもいいんじゃないですか?」
喜八郎に手を引かれながら尋ねる。意外に力があることに驚く。繋いだ手はマメができているのだろう、ゴツゴツとしていて綺麗な顔立ちとは対照的だ。
「着いてから教えるよ。」
振り返らずに、ただグイグイと藤内の手を引きながら進んで行く。彼が言うにはもうすぐでつくらしいのだが。
「藤内、着いたよ。」
たどり着いたそこは、今まで沢山生い茂っていた森の木々がなく、隠されていた夜空が姿を現した。
「うわぁ…すごい!!」
「一番に藤内に教えたかったんだ。」
そこには今まで広がっていた闇ではなく、星や月の光が闇を照らしていた。長屋から見るそれとは様子が違い、視界を遮る屋根や木々がない。
「星がこんなにいっぱい!取れそうなくらい!」
嬉しそうに空を見上げて星を眺めている藤内を、喜八郎は嬉しそうに見つめていた。
「内緒だよ、二人だけの。」
そう言うと、喜八郎は小指を立てた。少し恥ずかしかったが、藤内も小指を立てて指切りをした。
「約束。」
指切りじっと見つめながら、喜八郎は呟いた。そんな先輩が可愛く思えて、つい顔が緩む。
「先輩、そろそろ帰りましょう。」
しばらく一緒に夜空を眺めていたが、そろそろ帰らなければ明日の授業に支障がでてしまう。同室の数馬も心配してるかもしれない。喜八郎はというと、まだもうちょっといたい、と言わんばかりの表情でこちらを見ている。
「ほら、帰りましょう!」
そう言って手を差し出す。相手は渋々手をとり、二人は歩き出した。
「綾部先輩。」
名前を呼び、喜八郎の横にたった。
「また連れていってくださいね。約束ですよ。」
指切りする代わりに、藤内は繋いでいる手をぎゅっと力を込めた。
喜八郎は嬉しくて、うん!と返事をしながら手を握り返した。
次の日から毎日お誘いがあったのは言うまでもない。
藤内は膝に手をつきながら喜八郎に尋ねた。喜八郎はというと息ひとつあげずにどんどん山を登っていく。辺りはもう闇に包ま助れており、空は木々で隠されて星も月も見えない。一人置いていかれてしまえば、道に迷うことになってしまいかねないと、藤内は先に歩いている喜八郎を慌てて追いかける。しかしまた足が止まってしまう。
「もう少しだから、頑張って。」
隣でぜぇぜぇと息をきらしている後輩に声をかけて、手を差し出す。喜八郎なりの優しさだった。藤内は膝についていた手を差し出された手に重ねる。
なぜこんな夜に山を登っているかというと、昼休み中のことであった。
「藤内、今日の夜、出掛けよう。」
図書室で次の時間の予習をしていた藤内は突然の誘いに、しばらくぽかんとしていたが、そういうことで、とその場を去ろうとする喜八郎を思わず大声で呼び止める。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「…図書室では静かにね、藤内。じゃ夜迎えにいくから」
しーっと口に人差し指をあて、何もなかったかのように図書室を去った。
あまりにも強引な誘いに、藤内は慌てた。別に夜、予定があるわけではないがどこにいくとか、何をするとか、もっと教えてくれてもいいじゃないか。さっさと図書室を出てしまった喜八郎を再び呼び止めようとしたが、大声を出したのが気に入らなかったのだろう、きり丸がハタキで僕をはたき出したので無理だった。
そして夜、僕の部屋に予告通り喜八郎は現れた。どこにつれていかれるのか分からないまま、今にいたる。
「いい加減教えてくれてもいいんじゃないですか?」
喜八郎に手を引かれながら尋ねる。意外に力があることに驚く。繋いだ手はマメができているのだろう、ゴツゴツとしていて綺麗な顔立ちとは対照的だ。
「着いてから教えるよ。」
振り返らずに、ただグイグイと藤内の手を引きながら進んで行く。彼が言うにはもうすぐでつくらしいのだが。
「藤内、着いたよ。」
たどり着いたそこは、今まで沢山生い茂っていた森の木々がなく、隠されていた夜空が姿を現した。
「うわぁ…すごい!!」
「一番に藤内に教えたかったんだ。」
そこには今まで広がっていた闇ではなく、星や月の光が闇を照らしていた。長屋から見るそれとは様子が違い、視界を遮る屋根や木々がない。
「星がこんなにいっぱい!取れそうなくらい!」
嬉しそうに空を見上げて星を眺めている藤内を、喜八郎は嬉しそうに見つめていた。
「内緒だよ、二人だけの。」
そう言うと、喜八郎は小指を立てた。少し恥ずかしかったが、藤内も小指を立てて指切りをした。
「約束。」
指切りじっと見つめながら、喜八郎は呟いた。そんな先輩が可愛く思えて、つい顔が緩む。
「先輩、そろそろ帰りましょう。」
しばらく一緒に夜空を眺めていたが、そろそろ帰らなければ明日の授業に支障がでてしまう。同室の数馬も心配してるかもしれない。喜八郎はというと、まだもうちょっといたい、と言わんばかりの表情でこちらを見ている。
「ほら、帰りましょう!」
そう言って手を差し出す。相手は渋々手をとり、二人は歩き出した。
「綾部先輩。」
名前を呼び、喜八郎の横にたった。
「また連れていってくださいね。約束ですよ。」
指切りする代わりに、藤内は繋いでいる手をぎゅっと力を込めた。
喜八郎は嬉しくて、うん!と返事をしながら手を握り返した。
次の日から毎日お誘いがあったのは言うまでもない。
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