三話「似た者同士」
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今日の仕事は無い。そう、私はきちんと確認したはずだ。
日課になりつつある仮眠から目を覚まし、ボーっとしていた私の自宅に神出鬼没の佐川が現れた。何をするでもなく上機嫌に一方的な会話を繰り広げた彼が「そうだ、一応紹介しといてやるよ」と面白そうに笑いながら私を連れ出したのは、蒼天堀の夜が始まりつつある午後十時のことだった。
迷子防止か、はたまた「元」自殺願望者の私が逃げないためかは分からないが、隣から緩く掴まれた手首に絞められるような痛みはない。今思えばアレは、蒼天堀を歩き慣れている彼なりの気遣いだったのではないだろうか。それでも当時はおっかなびっくりといった感じで着いていくのに精一杯だったから、そんな些細なことに気がつく余裕はなかったのだけれど…若干悔しいなぁ。
「ほら、着いたぞ」
「…ここは」
きらびやかなネオンが点滅する看板、吸い込まれるように連れだって入っていく客。蒼天堀一の箱を持つ「キャバレーグランド」が私の目の前にあった。そう、あの日に店内を通り抜けさせてもらったグランドだ。脳裏にあの日に出会った眼帯の彼が浮かんだ。
ボーイに案内された二階席からは、広々とした店に所狭しと客が賑わっているのがよく分かる。ドン引きしそうな量の酒をホステスに煽てられながら呷る者や、札束を見せびらかす者…このギラギラした時代を縮図で見ている気分だった。
さて、なぜ佐川は私をここに連れてきたのだろう。ただの気まぐれ?もしかしたら、眼帯の彼との関係があるのか。まぁ、何も私と飲むつもりではあるまい。ここにはそのための本職の女性が居るのだから、立場的には一般女性である私はむしろ場違いなはず。そして私は酒に詳しくない上に、めっぽう弱い。だからタダ酒が飲めると知った佐川が、高いらしい酒を片っ端から頼んでいくのが分からなかったし。それをホステスの方と一緒に、苦笑いで眺めるくらいしかやることがなかった。
その時、不意に通路からかけられた声に顔を上げると思わず「あ」と声を出してしまった。
「お楽しみのところ失礼いたします」
まさか仕事で後をつけ、最終的に助けてくれた眼帯の彼がキャバレーの支配人だとは思わないだろう。少なくとも私は思わなかったし、開いた口が塞がらないくらいには驚いていた。呑気に会話を続ける佐川の思考が、私はますます読めなくなってきていた。
日課になりつつある仮眠から目を覚まし、ボーっとしていた私の自宅に神出鬼没の佐川が現れた。何をするでもなく上機嫌に一方的な会話を繰り広げた彼が「そうだ、一応紹介しといてやるよ」と面白そうに笑いながら私を連れ出したのは、蒼天堀の夜が始まりつつある午後十時のことだった。
迷子防止か、はたまた「元」自殺願望者の私が逃げないためかは分からないが、隣から緩く掴まれた手首に絞められるような痛みはない。今思えばアレは、蒼天堀を歩き慣れている彼なりの気遣いだったのではないだろうか。それでも当時はおっかなびっくりといった感じで着いていくのに精一杯だったから、そんな些細なことに気がつく余裕はなかったのだけれど…若干悔しいなぁ。
「ほら、着いたぞ」
「…ここは」
きらびやかなネオンが点滅する看板、吸い込まれるように連れだって入っていく客。蒼天堀一の箱を持つ「キャバレーグランド」が私の目の前にあった。そう、あの日に店内を通り抜けさせてもらったグランドだ。脳裏にあの日に出会った眼帯の彼が浮かんだ。
ボーイに案内された二階席からは、広々とした店に所狭しと客が賑わっているのがよく分かる。ドン引きしそうな量の酒をホステスに煽てられながら呷る者や、札束を見せびらかす者…このギラギラした時代を縮図で見ている気分だった。
さて、なぜ佐川は私をここに連れてきたのだろう。ただの気まぐれ?もしかしたら、眼帯の彼との関係があるのか。まぁ、何も私と飲むつもりではあるまい。ここにはそのための本職の女性が居るのだから、立場的には一般女性である私はむしろ場違いなはず。そして私は酒に詳しくない上に、めっぽう弱い。だからタダ酒が飲めると知った佐川が、高いらしい酒を片っ端から頼んでいくのが分からなかったし。それをホステスの方と一緒に、苦笑いで眺めるくらいしかやることがなかった。
その時、不意に通路からかけられた声に顔を上げると思わず「あ」と声を出してしまった。
「お楽しみのところ失礼いたします」
まさか仕事で後をつけ、最終的に助けてくれた眼帯の彼がキャバレーの支配人だとは思わないだろう。少なくとも私は思わなかったし、開いた口が塞がらないくらいには驚いていた。呑気に会話を続ける佐川の思考が、私はますます読めなくなってきていた。