二話「観察対象」
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私は、確かにキャバレーグランドから出てきたターゲットの後をつけていた筈。それなのに何故、背後から視線を感じるのか。答えは単純明快、私も誰かにつけられているからだ。
「…(いやいや、洒落にならんだろ)」
つけられていたと確定しても、一体誰が?しがないOLでしかなかった私は、良くも悪くも怨みを買うことが無いような人生を送ってきた。したらば、私が昨日新しい職(?)として頼り出した佐川司の怨みか。でも彼は私を…いや、よく考えてみると2日3日の付き合いだが確かに古今東西で怨みを買ってそうだ。
「なあ、ちょっとええか」
「うわっ」
頭を抱えながら思考回路をフル稼働させていると、肩を掴まれる。慌てて振り返ると、先ほどまで私の視線の先に居た男…つまりは写真のターゲットが私の肩をしっかりと掴んでいた。初日からターゲットに見つかるという盛大なミスをやらかしたと思った私は、全身から冷や汗が出て「あの…」「えっと…」など言葉にならない言葉しか口から出てこない。そんな私を知ってか知らずか、眼帯男は声を潜めて話し出した。
「お前、さっきから俺をつけとったみたいやけど二重尾行されとるで」
「…待って下さい、気づいてたんですか」
男に言われて尾行されていたことは確信へ変わったが、私の尾行すらも気づかれていたとなれば冗談じゃない。それこそ、次は自殺するより気が重い報告をする羽目になるだろう。それだけは避けたいのだが逃げようにも背後には別の尾行が、正面と言うか、すぐ側にはターゲットの男が肩から手を離してくれない。
「あないな下手な尾行、カーブミラーからばっちり見えとったわ。それよりお前をつけとるやつ、アレは手練れの奴やな」
「ええぇ…そんな奴を相手にどうするんですか」
「しゃあない、ちょっと撒くで」
結局そのまま私の手を掴んで歩き出した背中は、頼り甲斐のありそうな雰囲気だった。尾行に気がついたり、外見なんかはカタギではなさそうだが信頼はありそう…なんて呑気に考える時間はあった。
しばらく右へ左へ歩き続けて最終的にはキャバレーグランドへ戻り、お店の裏口へ通してもらう。息は少しばかり上がっているが、五体満足で撒けたのは不幸中の幸いなのだろうか。
「助けてくれて、ありがとう、ございました」
「いや、これくらいの事かまへん。にしてもアンタ、なんで俺なんかつけとったんや」
ヒヤリ、と再び汗が背中に伝う。苦笑いしながら視線を泳がしてみるが、言い訳が思い付かない。下手な嘘はつけない相手だ。だからと言って、流石に本当のことを吐く訳にはいかない。なんせヤクザのお使いしてます、なんて笑えないだろう。
「…流石にこないな子に尾行させるほど、アイツも人手不足違うやろ…」
「え?」
「なんもあらへん。はっきり言えんのなら今回は言わんで良いわ」
何故か知らないが、ターゲットの男はすんなりと私を解放してくれるようで、眼帯男は服装を正しながらグランドへ入って行こうとした。のだが、クルッと振り返り「せや」と何か思い出したようだった。割りと真剣そうな片目に見詰められ、言葉が詰まる。
「間違っとったらアレやし、こんなことしとる時点で手遅れかも知れんが…佐川にはあんま深入りせん方が身のためやで」
「えっ」
「ほなな、さっさと帰り」
なんでその名前を?ていうか、佐川と貴方の関係性が聞きたいのだが?
そんな言葉は口から出てこなくて、今度こそ扉に姿を消した男を見送ってしまう。そこで緊張感が途切れた私はその場にしゃがみこんだ。慣れないことをした疲れと、何かに巻き込まれつつあるような恐怖…それと、非日常に対する興奮が少し。
「…私、どうしたら良いんだろう」
もうそこら辺の店も閉じ始めるようなそんな時間だ。佐川への報告と質問は…うん、恐らく明日に回した方が懸命だろうか。
重い腰を上げ、私は表通りへ歩みを進めた。
「…(いやいや、洒落にならんだろ)」
つけられていたと確定しても、一体誰が?しがないOLでしかなかった私は、良くも悪くも怨みを買うことが無いような人生を送ってきた。したらば、私が昨日新しい職(?)として頼り出した佐川司の怨みか。でも彼は私を…いや、よく考えてみると2日3日の付き合いだが確かに古今東西で怨みを買ってそうだ。
「なあ、ちょっとええか」
「うわっ」
頭を抱えながら思考回路をフル稼働させていると、肩を掴まれる。慌てて振り返ると、先ほどまで私の視線の先に居た男…つまりは写真のターゲットが私の肩をしっかりと掴んでいた。初日からターゲットに見つかるという盛大なミスをやらかしたと思った私は、全身から冷や汗が出て「あの…」「えっと…」など言葉にならない言葉しか口から出てこない。そんな私を知ってか知らずか、眼帯男は声を潜めて話し出した。
「お前、さっきから俺をつけとったみたいやけど二重尾行されとるで」
「…待って下さい、気づいてたんですか」
男に言われて尾行されていたことは確信へ変わったが、私の尾行すらも気づかれていたとなれば冗談じゃない。それこそ、次は自殺するより気が重い報告をする羽目になるだろう。それだけは避けたいのだが逃げようにも背後には別の尾行が、正面と言うか、すぐ側にはターゲットの男が肩から手を離してくれない。
「あないな下手な尾行、カーブミラーからばっちり見えとったわ。それよりお前をつけとるやつ、アレは手練れの奴やな」
「ええぇ…そんな奴を相手にどうするんですか」
「しゃあない、ちょっと撒くで」
結局そのまま私の手を掴んで歩き出した背中は、頼り甲斐のありそうな雰囲気だった。尾行に気がついたり、外見なんかはカタギではなさそうだが信頼はありそう…なんて呑気に考える時間はあった。
しばらく右へ左へ歩き続けて最終的にはキャバレーグランドへ戻り、お店の裏口へ通してもらう。息は少しばかり上がっているが、五体満足で撒けたのは不幸中の幸いなのだろうか。
「助けてくれて、ありがとう、ございました」
「いや、これくらいの事かまへん。にしてもアンタ、なんで俺なんかつけとったんや」
ヒヤリ、と再び汗が背中に伝う。苦笑いしながら視線を泳がしてみるが、言い訳が思い付かない。下手な嘘はつけない相手だ。だからと言って、流石に本当のことを吐く訳にはいかない。なんせヤクザのお使いしてます、なんて笑えないだろう。
「…流石にこないな子に尾行させるほど、アイツも人手不足違うやろ…」
「え?」
「なんもあらへん。はっきり言えんのなら今回は言わんで良いわ」
何故か知らないが、ターゲットの男はすんなりと私を解放してくれるようで、眼帯男は服装を正しながらグランドへ入って行こうとした。のだが、クルッと振り返り「せや」と何か思い出したようだった。割りと真剣そうな片目に見詰められ、言葉が詰まる。
「間違っとったらアレやし、こんなことしとる時点で手遅れかも知れんが…佐川にはあんま深入りせん方が身のためやで」
「えっ」
「ほなな、さっさと帰り」
なんでその名前を?ていうか、佐川と貴方の関係性が聞きたいのだが?
そんな言葉は口から出てこなくて、今度こそ扉に姿を消した男を見送ってしまう。そこで緊張感が途切れた私はその場にしゃがみこんだ。慣れないことをした疲れと、何かに巻き込まれつつあるような恐怖…それと、非日常に対する興奮が少し。
「…私、どうしたら良いんだろう」
もうそこら辺の店も閉じ始めるようなそんな時間だ。佐川への報告と質問は…うん、恐らく明日に回した方が懸命だろうか。
重い腰を上げ、私は表通りへ歩みを進めた。