「羽賀ちゃん、コイツの尾行してきて」
結局ノコノコと佐川に着いて行き、説明を受けた結果(初めから予想はしていたが)彼は極道らしく、数人の構成員に紹介された。彼らは私を見ても大した反応を返すことなく「そうですか」と言ったような、なんとも普通の対応だった。彼の組に新しい人員が投入されるのは珍しくないのか、はたまた何かしらの理由で入れ替わりが激しいのか…いや、あまり深く考えてはいけないような気がする。
そして突如任された初仕事。テキトーに渡された一枚の写真と、ニヤニヤと楽しそうな佐川。その写真に写るのはタキシード？を着崩した眼帯の男。見る限りでの第一印象は「物騒」「怖そう」「喧嘩強そう」と、かなり偏見じみたものとなった。
「この方、殺し屋か何かですか」
「間違っちゃいないが、当たってるとも言い難いな。ま、かなり警戒心が強い犬の後ろを着いていく簡単な仕事だ」
「はぁ、犬」
私を猫と例えたり、写真の彼を犬に例えるところを見ると、まさか彼は顔に似合わず動物が好きなのだろうか？それか、ただ誰かを見下したいが為に動物に例えているのか？後者が正解だとすると、彼はとんでもない間違いを犯している。動物は賢い、賢いが故に人間の行動を窺いながら学習する。
「あぁ、そうだ。ソイツ、今の時間帯ならグランドで働いてるから行ってみろよ」
「…佐川さん、いつか食い殺されそう」
「は？」
「いや、何も言ってないです」
下手したら彼よりも先に私が消される気がする。行ってきまーす、と写真をコートのポケットにしまいながら逃げるように足早に事務所を後にした。
さてまずはキャバレーグランドへ向かうべし…か。