たった一言が言えなくて
それから時間が過ぎていき、気付けば授業は体育のみとなった。着慣れた体操服に着替え、友人達とグラウンドへ行った。実験場にされていたグラウンドは、来た時よりも美しくという言葉の通りになっていた。
「「おぉ……」」
友人達はそれしか言わなかった。他に何も思いつかなかったようだ。実際俺もそれしか浮かばなかった。
予鈴が鳴ると、他のクラスもぞろぞろとやって来た。俺達よりも先に来ていてた体育科の先生が、お前らー!5分前行動好きなのかー!と言いながら笑っていた。全員が揃ったところで本鈴が鳴った。いつも通り先生の説明という名の雑談を終え、準備体操をした。それからグラウンドを2周走り、体を慣らした。今回からサッカーをするとのことで、サッカー部員である友人はやる気に満ち溢れていた。練習をしている最中、ボールが色々なところに吹っ飛んだりサッカーでは聞くことのない音が聞こえたりと、軽い練習とは思えないくらいの異常さだった。たまにボールを窓ガラスに当てた人がいるらしいが、強化ガラスだったので割れなかったそうだ。練習をした後は各チームに分かれて、ひたすら試合といった残りの時間を全てそこに入れた感じだ。先生からチーム毎に色の違うゼッケンを貰い、ポジションについたところで試合開始の合図が鳴った。
「あー…あーっ!??!えっまっえっ……うっっっそ入るのあれぇ!!!」
一回戦の相手は、偶然にもサッカー経験者達でできたグループで、人並みには出来ると言っていたはずなのに、始まればプロ級の腕前でサッカー部員でさえも手が出しにくい状況。そして前半で3点目を入れられた時に友人は発狂していた。ゴールを指差しては宗一郎あれヤバい、超○元サッカーレベルだし○門中に来た気分なんだけどと叫んでいる。友人が叫び狂ったこの試合は相手チームの圧勝となった。彼らにサッカー部に入らないのかと聞くと、サッカーチームに入っているので無理だと答えていた。それから二回戦、三回戦と実力者揃いのチームに当たっていた俺たちのチームだったが、ここに来てようやくまともなチームに当たり友人は、普通になったありがとう神と拝んでいた。
試合も終盤に差し掛かり、ボールを追って走っていると靴紐がほどけてしまった。放っておこうかと思っていると、待機場にいたチームの1人が
「戸上ーちょっと早いけど交代するぞーゆっくり靴紐結びなー!」
と言ってくれたので少しズルいような気もするが、交代させてもらうことにした。コート外の待機場へと向かって交代してもらい、靴紐を結ぼうとかがみかけた時だった。
「宗一郎避けろっっ!!!!」
何かと思い顔を上げた瞬間、ボールが目の前に飛び込んで来た。ある程度の距離があれば避けられるが流石にこれは近すぎる。その結果、俺は顔面直撃を食らった。衝撃により後ろに倒れ、だんだん意識が遠のいていくのを感じた。友人や他クラスの人が近寄り、
「思わず勢い良く蹴っちまった…!!」
「誰かー!!宗一郎抱っこ出来る人いるー!?」
「いや担架だろ担架!!!」
「俺保健の先生呼んでくる!!」
と少し心配になるような会話もあったが突っ込む間も無く、意識が無くなっていった。