たった一言が言えなくて
あの日から、浅桐を見る目が変わった。いつもなら浅桐に対して出来たことも、つい
今日は珍しく、朝から浅桐の姿を見ることはなかった。いつもの道で会うだろうと思ったが、会わなかった。朝早いんだなと思いつつ学校へと向かった。教室のドアを開けると、いつも一緒にいる女子達がこちらを向いて驚いている。その内の1人が俺を指差して、手鏡を渡してきた。
「戸上、目の下にくま出来てるよ」
借りた手鏡で目の下を確認すると、あんまりよくわからなかった。
「ん?そうか??」
「まぁ…ほんのり、って感じだからパッと見ではわからないでしょ」
「ほんのりとなら、良しか」
そう言うと彼女は机を叩いた。なんでそうなるのよ!!と怒りながら。
「顔良いんだから少しは気にしなよ〜!好きな子出来た時に困るから!くまは!!個人的に!!」
「うっ……そうか、ありがとう。気を付けておくよ」
「どういたしまして!」
彼女との会話を終え、窓際にある自分の席へ座って頬杖をついた。好きな子が出来た時…それがどうしても気になってしまう。こんな顔で浅桐に会えば、どんな顔をするのだろうか。心配する?何もない?いくら考えても答えは出ない。モヤのかかった俺の心とは裏腹に、ふと見上げた空は眩しい程に、雲ひとつない晴天だった。いつかこんな日が来るのだろうか。そんな風に思いながら、眩しすぎる光を隠すように手で覆った。この行動が浅桐にしている事と似ている。そんな考えが浮かんだ時、決心がついた。
「……必ず、向き合ってみせる」
騒めく教室、誰にも聞かれない声で、1人呟いた。
太陽の光で照らされたノートと目が