短編
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「いらっしゃませ〜」
私は今、夏祭りの会場で林檎飴を売っている。
訳を話せば長くなるのだが…。まあ今は関係ない事、思考を切り替えて売る事だけに専念する。
しかし、もうすぐで花火が上がるのか、屋台周りの人集りがどんどん減っていく。…花火か〜。見たいが、私は此処を離れる訳にはいかないのでそれは叶わない。
折角花火大会だから、という理由で滅多に着ないような模様の着物も着てみたが、おそらく見せる相手はお客さんだけのようだし。…別に見せたい相手はいないんだけどね。
「よう。林檎飴、一つくれ」
どこかで聞いた事があるような声の持ち主から注文を受け、林檎飴を手に取る。机に置かれた代金を確認した後、受け渡そうと目の前を向いた私とお客さんの目が合った。
「…宇髄さん?」
すぐにはわからなかったが、よくよく見るとその人が知り合いだった事がわかる。
いつもと違い、髪を下ろしている姿だったので結びつけるのが遅くなってしまった。…いや、しかし顔が整っている。…コホン!
「なんでお前まだこんな所に居るんだ? もうすぐで花火、上がるぞ?」
「…店番があるので、花火見られないんです。宇髄さん、楽しんできてくださいね」
心底不思議そうに尋ねられた疑問に、代金整理をしながら淡々と答える。…私が楽しめない代わりに、宇髄さんに楽しんでもらう。それが一番良いだろう。
「…ほら、行くぞ」
宇髄さんから目を離していた私は、背後から伸びて来る手に気づかず、宇髄さんのされるがままに屋台から連れ出された。急な出来事だったので、私も対応できず固まったままであったものの、急いで取り直し宇髄さんに疑問をぶつける。
「あの、宇髄さん? 私、店番があるんですけど、早く戻らなきゃいけ…」
続くはずの言葉は私が宇髄さんの背中にぶつかった所で消えてしまった。
急に止まった宇髄さんを不審に思うも、目の前を宇髄さんの背中で塞がれた私には向こう側を見ることができない。仕方ないかと宇髄さんの隣に並んだ私の目に写り込んだのは、夜空一杯に広がる花火だった。
「…綺麗」
思わず声が出てしまった。
きっと今の私の顔はキラキラとしているだろう。でもそれもきっと花火には叶わない。
「そうだな、派手に綺麗だ」
「そうですよね! …あの連れてきてくれてありがと…」
「お前がな」
「…え」
「…あ〜言い忘れてたが、浴衣、似合ってるな」
……前言撤回。今の私は花火と同じぐらい、熱いのかもしれない。
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