きっと運命
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長く重い闘いが終わり周に戻り、生き残った仙界の住人はひとまず人間界で過ごすことになった。
この日
私は雲霄三姉妹たちが金鰲の妖怪仙人たちを束ねて集会しているのを、乾いた洗濯物を両手で抱え運んでいる最中にたまたま見かけた。
「人間界で過ごすにあたって、人間の規則に従うべきです。まず第一に人間を食べてはいけません」
のんびり歩きながらビーナスの発言を聞いていたのだけど……人間のことをちゃんと考えてくれていて、三姉妹は妖怪仙人だけど人間に対してとても優しく、人間側の常識に理解があるように見える。
金鰲から生き延びた妖怪たちも彼女たちがしっかり束ねてくれてるなら、安心だ。
しかし、何十人かの妖怪たちがビーナスに罵倒混じりの抗議しはじめたのが聞こえた。充分すぎるほどに人間の事を気遣ってくれている三姉妹だ、私は気になって力になりたくて思わず「大丈夫?」と声をかけにいこうと振り返った。
しかし
「口ごたえは許しませんことよ!!」
なんとビーナスによる遠距離攻撃で数名の魂魄がドドーン!!と大きな音を立てて空へ飛んだ。
口ごたえした者達が最悪封神されてしまった光景に驚きを隠せず、腕から洗濯物が数枚こぼれ落ちる。目を丸くしていた私に、ビーナスが気づいた。
「あら華依さん!見苦しいところを見せてしまいましたわね。申し訳ありませんわ」
キャッと恥ずかしがるビーナスに思わず苦笑いで返してしまった私だ。
「に、人間界で慣れない生活だろうから、何か困ったことあったら相談して、ね?」
「まあ!楊戩さんの妻である華依さんに気にしていただいて恐縮ですわ」
妻と言われたのは初めてで、否定しようと思ったんだけどしかしこれはビーナスの性格なので、そのままにしておいた。彼女は自身が太公望のお嫁さんのつもりでいるし。
「誰の魂魄が飛んだかと思ったよ」
お次はデスク楊戩が目を通した巻物運びのお仕事。指揮を執るほどの能力はないのでもっぱら、雑用が私の仕事だ。
部屋には楊戩しかいなかったから、私はつい会話を振った。
「金鰲のみなさんは楊戩が通天教主さまの息子てこと知ってるの?」
「んー、どうだろうね」
間が空いたのち、首を傾ける。
別に知らなくても気にしないよと言う彼だ。
私は…実は内心ドキドキしながら通天教主の名を口にした。楊戩が妖怪仙人だっていうことにそりゃあ少しは驚いたけど、お父さんの事を話してくれた時のほうが驚いたのを覚えている。
私は身分の無い小娘だ。片や、やんごとない身分の方の御子息。
巻物をまとめながら考えていたら、ふと楊戩の視線を感じて振り向いた。なんだろう。
「華依は父上の名前、さま付けで呼ぶんだ?」
「へ」
数秒見つめ合ったあとに、クスっと笑った楊戩。間の抜けた声が出てしまった私は、とりあえず素直に気持ちを答えた。
「あーうん、なんて呼ぼうかなって一瞬考えたら…そうなった」
指で頬をすこし掻いて答えた私に楊戩が「ふふ、ちょっと可笑しいな。通天教主って呼んだらいいじゃない」とくすぐったそうに笑っている。
私はその後、楊戩に背を向けて静かに本棚の整理をしていた。
それにしても…楊戩が崑崙に来て、身分を隠したままでなかったら…この関係はなかったんだろうなと思う。
「通天教主さまと楊戩がもし何事もなく共に生きていたら、私が出会えなかったかもしれないのよね」
「その時は僕が恋を知らずに生きているだけかもね」
「いやいやそれはわからないでしょ」
ヘラヘラ笑って言っておいてなんだけど、楊戩が私以外のひとを想うのは想像でも嫌だな。
楊戩の済ませた仕事を棚にしまおうと振り返り、彼の側へ行ったのだけどこちらをじっと見てくる。
あ〜…「つれないこと言う」くらい言われるかしら。私どうにも愛の言葉関係には可愛い返答ができなくて。
「華依は僕以外の男に夢中になれるの?」
きょとんとした顔で楊戩節きかせてきた。
その返しドキッとしたからやめてほしい。
私は思わず本棚の方にからだの向きを変えてしまった。
後ろから「華依」と名前を呼んでくる。
楊戩が妖怪だってわかってからも、変わらず大事なひとだよ。
「んー……なれないよ」
「はい、それを僕の方見て言ってごらん」
すっごい小さい声で言ったけどちゃんと聞こえていた。
楊戩の嬉しそうな声が聞こえる。
もう……どれだけ夢中になってるか、わかってるのかしらこのひと。
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