第2話 それぞれの思惑
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月が昇り、辺りはすっかり薄暗くなった。
エルヴィンに声を掛けられたアデリナは寝間着の上から軽い羽織物をしたまま、2人で物陰で息を潜めた。
「あそこ、あなたの執務室よね」
「ああ。そうだ。奴らは数日前からああやって俺の部屋を探っている」
アデリナとエルヴィンの視線の先には、リヴァイ達3人の姿があった。
リヴァイとイザベルが周囲を警戒し見張り役を勤め、ファーランがカチャカチャとエルヴィンの部屋の扉を弄り、簡単に扉の鍵を開けてしまった。
ファーランが首でリヴァイ達に合図を送ると、ファーランをその場に残しリヴァイとイザベルが静かに中へと吸い込まれていく。
今度はファーランが見張り役をするらしい。
「何をしているのかしら?」
「大方、ニコラス ロヴォフが躍起になって探しているこの資料を探し回っているのだろうな」
スッと懐から取り出したのは芯棒に巻き付けられ厳重そうに紐で封をなされた書類。
カタカタと揺らすエルヴィンにアデリナは目を見開く。
「…あなた意外と意地悪なのね」
フッと笑ったエルヴィンが再び書類を懐に収納する。
「私、ハンジに良くサディスティックだと言われるのだけど、私から見ればエルヴィンの方がよっぽどドSだと思うわ」
「私は別に奴等を苛めたくてしているわけではない。簡単に渡せるものではない、と言うだけだ」
「私と2人の時にあなたが"私"という一人称を使うのは心からの言葉でないときよ」
腕を組み、アデリナもフッと笑みを溢す。
「……君には全てお見通しということか。だが、奴らに渡せないというのは本当だ」
「まぁ、そうよね。…ねぇ。もし私が今3人の前に飛び出していったらどんな顔をすると思う?」
エルヴィンがとんでもないことを言い出すな、と笑い飛ばそうとチラリとアデリナの顔を見ると真顔だったことに驚いた。
そして冗談ではなかったのかと身震いした。
「出来れば、やめてくれないか。下手すれば刺されるぞ」
「…何を真剣に言ってるのよ。冗談に決まってるでしょ?」
思っていた反応と違ったのか、キョトンとした顔でアデリナはエルヴィンを見上げた。
「………君の、冗談はとても分かりにくい…」
「そうかしら?でも、エルヴィンは私が3人と対峙したら負けると予測したわけね」
「君は丸腰だ。恐らく奴らは武器を隠し持っている。それを想定すれば予測できない事態ではない」
「私はそれでも負けない自信あるけど…」
そこまで言って、アデリナは口をつぐんだ。
「ごめんなさい。つい、どうでもいいことで話を広げちゃったわ…」
「いや、退屈な思いをさせてすまない。だが、君には知っておいてもらいたかった」
ほとんどアデリナの監視下にあると言っても良い3人。
アデリナは彼らの行動把握とその目的を知った上で警戒を怠るなという意図と理解した。
「で?どうするの?」
「少なくとも次の壁外調査にはいてもらわなくてはならないからな。もう少し踊っていてもらおうか」
エルヴィンの執務室から出てきたリヴァイとイザベルがファーランと合流したのを見届けてほくそ笑む。
リヴァイが首を振りファーランに見つからなかったことをアピールした。
「……黙ってる私の身にもなって頂戴。いつも一緒にいるのは私なんだから」
「そうだな。すまないなアデリナ」
エルヴィンがポンっとアデリナの頭に手を置き子供にするようにする。
「ちょっと、やめてよエルヴィン。私は子供ではないのよ」
ムスっとしてエルヴィンの手を払う。
「君はこの事実を知ったとしても奴らに対する態度は変わらないだろう。分け隔てのないその人柄には感服している。それと何を聞かれてもポーカーフェイスが得意だろ」
ハハハ、とリヴァイ達に気づかれぬよう静かに笑うエルヴィン。
そうでもないわよ、と言いながらアデリナは扉の前でしきりに目を動かし、リヴァイ達を先に行くよう誘導するファーランに視線を向けた。
「行ったようだな」
退散したリヴァイ達を確認してエルヴィンが物陰から踏み出す。
「随分念入りに探したようね」
「今日は俺がここに戻ってくるのは深夜を過ぎるというのを数日前から奴らに匂わせておいた」
「まぁ…。私にこれを見せるためにわざわざそんなことわしていたの?お陰さまですっかり冷えちゃった」
自分の体を抱き震えるアデリナを見てエルヴィンがジャケットを貸そうと肩を外したが、アデリナは大丈夫よ、と手で止める。
「ならば肩を抱いてやろうか?」
「その手の冗談はあなたには似合わないわね」
眉1つ動かさずに答えたアデリナにエルヴィンも思わず苦笑いする。
「では私の執務室でお茶でもお淹れ致しましょう」
「ええ。その方が良いわね。早く行きましょ」
わざと恭しく頭を下げ手を差し出すとアデリナは視線を上げてその上にそっと手を重ねた。
少々口調は強めだが、柔らかなその動作は貴族出身だと納得させるだけの気品さがあった。