第2話 それぞれの思惑
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「フッ、ハァッ、フッ…っく、」
「198、199、200!はい、お疲れーアデリナ」
「っ、はぁ、はぁ!」
汗を拭い水を渇ききった喉に流し込む。
「…ありがと、」
「あなた、そうまでしなくても充分仕上がってるのに。腕立て200回なんてもういいんじゃないかい?それに腹筋に懸垂にスクワット…その他諸々…」
ほっそい体のどこに何がつまってんの?とハンジがアデリナの体を凝視する。
「…脱いだら凄いのよ?それに鍛えて損はないわ。筋肉は裏切らないってね」
「そんな筋肉キャラだったっけ?」
「やめてくれる?変なキャラ付けするの」
不満そうにしたアデリナを見てハンジは笑う。
「それか富裕筋肉女子」
「苛めかしら?」
「冗談だよ!ほら!向こうでモブリットにちょっかい出しながら一緒に休憩しようよ」
挑発的な笑みを浮かべたアデリナの事をさらりと流し、水分補給中のモブリットを指差した。
「ねー!モブリット!アデリナのあだな富裕筋肉でピッタリだと思わないかい!!?」
声を張り上げながら、モブリットに手を降り近づいていくハンジにモブリットは嫌そうな顔をした。
それはハンジの後ろからアデリナの不穏な笑みがチラチラと覗いていたからだった。
「まだその話引きずるのハンジ?ぴったりなんて言ってみなさい、一生その口利けなくしてわるわ」
「言いません!!絶対に!!」
「ダメだよアデリナ。脅迫は反則だよ」
「冗談だと言ったことを人に言い振り回さないでくれるかしら?」
モブリットを挟んで座ったアデリナとハンジに頭を抱えた。
勿論、2人とも頭も回り腕の立つのだから尊敬はしている。
だが、この2人が揃うとモブリットは大半疲れて帰ることになる。
「あの、どうして富裕筋肉何です?アデリナ班長ってお金持ちなんですか?」
そういえば、とモブリットが首をかしげる。
そこは気にしなくていいのよ、というアデリナの言葉を押し退けてハンジが身を乗り出した。
「モブリットは知らなかったね。私たち同期の間では知れた話なんだ。アデリナはウォールシーナ出身のお嬢様なんだよ。きらびやかな服を着て優雅に暮らしていたんだよ!」
「ええ!?そうなんですか!?よくこんな所に来ましたね…。危険だし汚れるし、忙しいし、いつも予算に煮詰まってるし…」
「調査兵団も随分な言われようね。もともとあなた達が思っているほど良い生活はしていないわよ。自由もなく籠の鳥同然よ」
つまらなさそうに溜め息を吐くと、アデリナはもう一度喉を潤した。
「お金持ちはお金持ちで大変なんですね…」
「そうね。ないものねだりだと言われてしまえばそこまでなのだけど。けど、調査兵団に入ったことは1度も後悔したことないわ。不謹慎かもしないけど、壁の外に出て、馬を飛ばしたときの解放感は何度経験しても気持ちが良いの」
「ああ。分かるよ。私も何度壁の外へ出ても新鮮で、気持ちよくて!この世界がどんな風になっているのか知りたくて堪らない」
エヘヘ、と涎を垂らしながら興奮し出したハンジか怪しく笑う。
「……。さ、そろそろ戻りましょう」
怪しいものを見るようにハンジに視線を向けてから立ち上がったアデリナに続き、ハンジとモブリットも立ち上がる。
「この後あの子達の訓練だっけ?君も大変だね」
「でも、結構気に入ってるの。あの人達の教育係」
「確かに…アデリナ班長、ここ最近生き生きしてますよね」
「それなりの能力も持ち合わせているし、物覚えも良いし、何より強がりばっかりで面白いわ」
見てて飽きないわよ、と楽しそうに笑うアデリナを見てモブリットは困ったように口角を上げる。
「ああ、アデリナはサディスティックな面があるらね。興味があるならモブリットも苛めてもらえば良いよ」
「へ!?」
「あら、ハンジ。あなたそんなに苛めてもらいたかったなのなら言ってくれれば良かったのに。取り敢えずお風呂に5時間くらい浸からせて全身ふやけてしまえば良いわ」
「えっ、怖っ!!」
余計なことを言うからですよハンジさん、とモブリットは恐ろしいと自分の体を抱いた。
「まぁ、冗談は置いておいて、急がないと。シャワー浴びてから行きたいから、じゃあまたね。ハンジ、モブリット」
アデリナは2人に手をふると荷物を抱えて走っていってしまった。
「本当にアデリナさん忙しそうですね」
「フラゴン分隊長が全部アデリナに押し付けてるんじゃない?」
実力で言えばアデリナの方が上なのは明らかだが、経験数と年齢だけは抗えず、分隊を持たずフラゴン班の班長を勤めていた。
実力社会ではあるものの、多少の年功序列も考慮されているのも事実だった。
「それでも飛び級で班長の役職だもん。団長だって教育係にしたくなるよね。私たちには応援するくらいしか出来ないね」
「そうですね」
すっかり小さくなったアデリナの背中を2人で見送った。