第5話 すれ違い
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「……アデリナ、大丈夫なのか?」
もう引き下がれない状況に陥っていることを理解しているエルヴィンは、何かあったらすぐにアデリナを抱えて逃げようと覚悟をきめた。
「大丈夫よ。だってあなた強いでしょ?」
そう言ってエルヴィンの腕を撫でた。
跳ね上がった心臓を誤魔化すようにエルヴィンは立ち上がる。
「……受けて立とう」
こんなきな臭い奴らにアデリナを渡してたまるかと心の中で悪態をつく。
他の客も面白がって群がり賭けが始まった。
エルヴィンの相手がかなりの強者であると知っていた客たちは大半が蛮衆に掛けた。
勿論、指2本とはいえアデリナが勝つなんて殆どの人間が思っていない。
「ようし、行くぜ。よーい、ファイ!」
店主の掛け声でエルヴィンは渾身の力を込めた。
「頑張ってエルヴィン!!」
瞬殺されると思っていた男達は意外な展開に場は盛り上がる。
「押してるわ!いけー!」
「ハァああ!!」
ドン!と鈍い音をたててエルヴィンは相手の腕を叩きつけた。
「キャー!やった!エルヴィン凄いわ!」
飛び跳ねながら抱きつくアデリナに、ほんのり頬を染める。
「おい、兄ちゃんやるじゃねぇか!驚いたぜ!」
「こいつぁ、すげーや!」
エルヴィンを馬鹿にしていた男たちも称賛の声をあげていた。
「よし、次は私よ!」
「チッ、こうなったらやるしかねぇな。女だからって容赦しねえぞ。そんで相子になったら俺ともう一戦しろ」
言い出した男はエルヴィンを指差した。
アデリナは眼中にないようだ。
「大丈夫。私負けないから。何だったら指2本じゃなくてもいいわよ」
「はっ、大見得きってやらぁ。そんなに言うなら普通にやってやる。あとで泣いても知らねぇぜ?」
流石のエルヴィンも慌ててアデリナの肩を掴む。
「アデリナ、流石に無理がある。相手は男だぞ!」
「あなたが相手にした人より弱そうよ。それにハンジに富裕筋肉とあだ名をつけられた私よ。負けてたまるもんですか」
ウインクをしたアデリナ。
「後悔するなよ……!お嬢ちゃん」
「よーい、ファイ!」
ゴッ!
鈍い音が響き渡る。
あまりに一瞬の出来事過ぎて店はシーンと静まり返る。
「フン、女を舐めるんじゃないわよ」
「う、嘘だろ!?」
「すげーー!!どうなってんだ!?」
倒された相手はあまりの衝撃に仲間に揺さぶられても固まったまま拍子抜けしている。
周りは歓喜に包まれ、アデリナとエルヴィンを取り囲み、称えあげた。
「ありがとう。じゃあ、約束通り奢って貰うわね。ご馳走さま!」
にこやかに手を振るアデリナ。
「さ、エルヴィン帰るわよ!」
楽しそうに笑うとエルヴィンの手を握り、空いた方の手で新しいボトルを1本抱えて走って店を出た。
最初に出されたボトルは空になった状態で店の中に放置されていた。
「あはは!楽しかったー!ね!エルヴィンも楽しかったでしょ!」
人気のある方へ戻ってくると、くるくると回りながらエルヴィンの腰に腕を巻き付ける。
「はぁーー……」
大きくため息をついたエルヴィンはギュッとアデリナの背に腕を回し力を込めた。
アデリナの柔らかい髪に顔を埋める。
「酔っているのか?」
薄暗くて店では気がつかなかったが、アデリナの顔がほんのり赤らんでいた。
「無謀すぎるぞアデリナ」
「腕相撲って力だけじゃ勝てないの。手首の捻りとかで相手の力を分散させてね上手くやれば勝てるのよ」
「例えそうだとしても、俺の心臓がいくつあっても足りない」
「えー?楽しくなかった?」
「………いや、楽しかった」
本当のところ、その時は楽しくなかった。
アデリナを危険な目にあわせまいと気を張りつめていただけで、結局酒も一滴も飲んでいない。
だが、無事にアデリナを連れて帰れた事とアデリナの楽しそうな笑顔を見れただけで、楽しかったと言うことにしておく。
「だが、もう二度とあんなところには行かせないからな」
フワフワと何処かに飛んでいってしまいそうなアデリナを見兼ねてエルヴィンはアデリナの手を握る。
「ねぇ、疲れちゃったわ。抱っこして」
駄々っ子のように手を広げてぴょんぴょんと跳ねる。
エルヴィンは深呼吸すると特別だぞ、と声をかける。
男として試されているのだろうか、とどう見てもそうは思えない考えが浮かんだ。
エルヴィンは掴まりやすいよう屈み込み、片腕で抱き上げる。
「まあ!すごく高いわ!エルヴィンっていつもこんな素敵な景色を見てるのね」
「立体起動装置でもっと高い景色を見ているだろう?」
「それとはまた違うもの。あなたと同じ景色が見れるのが楽しいの」
「……君は男をその気にさせるのが上手いな」
「え?どう言うこと?」
「いいや。何でもない」
右腕にアデリナを抱え、左手に酒瓶を持つ。
自分の体が火照っていくのを気づかないふりをして歩く。
この妙な姿に周囲の視線が刺さるが、エルヴィンは敢えて堂々と歩き宿舎へと帰っていった。
「帰ったらちゃんとした食事を取ろう」