第5話 すれ違い
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エルヴィンはアデリナに誘われるがままに兵舎を出て街を歩いていた。
「どこに行くんだ?」
「ご飯を食べに行こうって言ったじゃない」
首をかしげて見上げるアデリナに、それは分かっていると苦笑いする。
だが、アデリナはどんどん人気の少ないほうへと歩いていく。
エルヴィンは周りを見渡しながら眉を潜めた。
「店を決めているのか聞いたんだ」
「勿論よ。あそこ」
アデリナが指を指した先は、血の気の多い男衆が集まるような酒場だった。
「冗談か?」
割りと綺麗めな格好をしてきた2人には不釣り合いな場所だ。
「いいえ、本気よ。ダメかしら?」
「いや……うーん……」
流石のエルヴィンも言葉が詰まる。
身なりの綺麗な人間を連れて入るだけでもかなり危険な場所と言える。
そこに気になる女性をわざわざ連れて入ろうとは思えない。
正直言って何をされてもなかなか文句も言えないようなところだ。
「他の店じゃいけないか?危険そうだが……。それに、まともな食事が出来ると思えないが……」
「おつまみくらいあるでしょ?周りの目を気にせず飲みたいの。駐屯兵とかも流石にこんなところまで見に来ないでしょ?私は平気だけど、あなたは割りと顔が知られてる」
「女性がいてるだけで目立ちそうだが……」
「ふふ、本当は静かに飲みたくないだけ!ここならあなたと2人で騒いだって誰にも怒られないもの!」
そう言って悪戯っぽく笑うとエルヴィンが制止をする間もなく、軽やかに駆けていくとスイングドアを押し開けて店の中に入っていった。
慌ててエルヴィンはアデリナの背中を追いかける。
「アデリナ!」
店に入るとすでにカウンターから1番遠い席に座っていた。
血相を変えて追いかけてきたエルヴィンを見てアデリナはクスクスと笑っている。
周囲には荒々しい見掛けの男達が何人か酒を楽しんでいた。
その中で1人だけ人懐っこい笑顔を浮かべているアデリナは異質に見えた。
男達は明らかに卑しい目付きでアデリナを見ていた。
「ワインくださーい!」
右手を綺麗に掲げたアデリナに更に注目が行く。
エルヴィンは早足でアデリナの隣に座った。
「お嬢さんも隣のお連れさんも随分と綺麗な身なりをしてるね」
店の男がアデリナの前にグラスを置きながら、ニヤリと笑い舐めるようにアデリナを見た。
「そうかしら?少し歩けば、これくらいの服を着てる人なんて五万といるでしょう?」
「ハハハ!そりゃあ、そうさな!お連れは何するんだ?あ?」
「……同じものを貰おう」
柄の悪い男に対して怯む様子もなくアデリナはいつも通りの調子で返す。
エルヴィンだけが心配そうにため息をこぼした。
「なあ、お嬢ちゃん。俺達と一緒に飲まねぇか?お堅そうなそいつより楽しませてやれる自信があるぜ?なあ、お前ら」
がさつな笑い声が響く中、エルヴィンの鋭い視線が男を捉える。
「いっちょ前に睨んでやがるぜ!」
「良い図体はしてるがな、どうだかな!」
男達はエルヴィンを馬鹿にするようにして笑い転げている。
まだ昼間だと言うのに皆かなりの量を飲んでいるらしい。
「アデリナ、」
もう出ようと言おうと振り返った時にはアデリナのグラスは空になっていた。
ついでにエルヴィンに出されたはずのグラスに手をつけている。
「ダメよからかっちゃ。図体だけじゃないわよ、ね?」
アデリナを隠すように座っていたエルヴィンから顔を覗かせて男達に告げる。
余計な一言だと認識しての事かは分からないが、アデリナは楽しそうに笑った。
「ほお、そうかい。なら勝負でもしてみるか?俺が勝ったらそのお嬢ちゃん貸してくれよ」
「何を馬鹿な。アデリナは景品ではない」
「あら、面白そう」
「アデリナ!」
またもエルヴィンが目を離した隙に新たに注がれたグラスを傾けていた。
いつの間にやら、ボトルごと置かれていた。
「何故煽るようなことをするんだ」
エルヴィンは子供を叱るようにアデリナの腕を掴む。
「え、だって面白そうだもの」
キョトンとしたアデリナの目はあなたもそう思うでしょ?と同意を求めているようだった。
あまりの危機管理能力のなさにエルヴィンは項垂れた。
何故今まで壁外調査で生き延びてこれたのか不思議で仕方がない。
「じゃあ、私たちが勝ったらお代を払ってね。それと血生臭いのは嫌だから腕相撲対決にしましょ!」
「おう!良いぜ、面白い。お嬢ちゃんも参加するんだろ?」
「えー!女を相手にするのー?」
こんな話をしている最中にもアデリナはグラスを離さず飲み続けている。
「そうだな、確かに不公平だ。ならお嬢ちゃんと対戦するときは指2本でやろう。俺が相手してやる。男の方はこいつとだ」
今いる者の中で1番体が大きくいかにも喧嘩慣れしてそうな男が前へ出た。