第5話 すれ違い
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アデリナから逃げるように走ってきたイザベルは言葉通りリヴァイのところへ向かった。
箒を手にしたリヴァイが突然部屋に入ってきたイザベルを見た。
「ハァ、ハァ……ああ!疲れた!」
「オイ、イザベル。埃を立てるんじゃねぇ」
「ご、ごめん兄貴……」
そう言いながらも黙って水を用意し、腰掛けたイザベルに差し出す。
イザベルは嬉しそうにそれを受けとると一気に喉の奥へと流し込んだ。
「ぷはぁ!あーうめぇ!!」
「お前、訓練所に行ってたんじゃねぇのか」
「うん。でももう終わったよ」
両腕を頭の後ろで組み、椅子を傾けながらゆらゆら揺れるイザベルの顔をちらりとリヴァイは見る。
「上手くいかなかったのか?」
「え?」
「辛気臭ぇ面しやがって他の野郎に出し抜かれたか」
イザベルは隠していたつもりたったのだろうが、リヴァイは小さな表情の変化も見逃すことはなかった。
「……そんなんじゃねぇって!辛気臭い顔なんかしてない!」
「いいや、てめぇはすぐ顔に出る」
どっかりとイザベルの向かい側に腰を掛けたリヴァイがイザベルの顔を指差す。
言い返せなくなったイザベルは顔を歪める。
「……」
本人が話したくなければ無理に引き出す必要はないと思い直したリヴァイはイザベルの頭をくしゃりと撫でた。
「……リヴァイの兄貴はさ、誰かに認められたいとか、考えたことある……?」
不意に聞かれた質問にリヴァイの手が止まる。
イザベルの頭から手を退け、再び箒を手に取る。
「……ねぇよ」
リヴァイは一言そう呟くと箒を動かした。
「……そっか」
その間は何か思い当たる節があったに違いなかったが、イザベルは気にしないようにした。
「オレさ、地上の居住権を手に出来たらみんなで街に買い物に出掛けて、いーっぱい美味いもの買ってさ!あの時みたいにパーティーみたいなのしたいんだ!」
「ああ……、そうだな」
リヴァイは箒を置き、水が張られたバケツを床にまく。
空になったバケツを持ち上げながら窓から見える青い空を見上げた。
澄みきった空には鳥が羽ばたいている。
あの鳥のように自由に外の世界を飛んでみたい、そんな思いが巡る。
「うおっ!なんだこりゃ!」
帰ってきたファーランが濡れた床に驚き、足と声を上げた。
「見りゃ分かるだろ。清掃だ。お前らも手伝え」
「ええ!!」
「俺、訓練から帰ってきたばっかだぞ!」
「文句は受け付けねぇ」
リヴァイは問答無用で雑巾を2人に投げて寄越す。
「ったく、リヴァイの潔癖症には頭があがらねぇよ……」
言ったところで聞かないのは目に見えている。
仕方なくファーランとイザベルも雑巾を手に掃除を手伝った。
「……お前ら、俺は今度の壁外調査の時に狙うのが適正じゃないかと思ってる」
「え?書類の奪還のことか?」
「ああ。そうだ」
掃除の手は休めないままリヴァイは答える。
「エルヴィン スミスとアデリナ オイレンブルクは共に行動する。必ずどちらかが握ってるはずだ」
「やっぱ、班長も絡んでくるよな……」
「あの2人は取り分け親しいようだからな。視野にいれておくのがベストだろうぜ」
「……オレ達の目的には気づいてないんだろ?書類さえ奪えりゃあ班長まで殺す必要はないよな?」
アデリナを信じたいと思い始めたばかりのイザベルにとって、これは一番の問題だった。
「余計な死人を増やしたくはないが、書類を手に入れるのに邪魔になるなら殺す」
「っ……」
そう言われ、わかっていた事だがなかなか気持ちの整理がつかない。
「イザベル。気持ちは分かるが俺たちのためだ。覚悟を決めておけよ」
ファーランも神妙な面持ちでイザベルの頭に手を置いた。
「う、うん……」
リヴァイは信じるかどうかは自分で決めることだ、と言ってしまった事を後悔していた。
結果的にイザベルはアデリナを信用し、自分の目的を遂行するのに足枷をつけるようなことになってしまった。
「判断を誤るなよ」
そう言いつつ、余計な者を手に掛けずに済むことをリヴァイ自身も祈っていた。