第5話 すれ違い
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「おーい!班長!」
走ってきたイザベルがアデリナの横に並ぶと満面の笑みで見上げる。
リヴァイ達が調査兵団に来てから数ヶ月。
壁外調査もすぐそこまで差し迫っていた。
イザベルやファーランは持ち前の明るさと人当たりの良さを存分に発揮し、少しずつ兵団に馴染んできているように見えた。
「なぁなぁ!さっきの見てた!?あいつの顔見た!?あの悔しそうな顔!笑えるぜ!」
だが、負けず嫌いな面と"目的"を果たすために馴れ合いは必要ないと言うリヴァイの考えもあってか、本当に馴染んでいるとは言えなかった。
だが、良くも悪くも素直なイザベルは常日頃共に行動してきたアデリナには懐いているようだった。
誉めてくれよとでも言いたげに笑顔を崩さないイザベルを横目に睨む。
冷ややかな目に肩を揺らしたイザベルは押し黙り視線を下げた。
「イザベル。手柄を立てるために巨人と戦っているようじゃ駄目だと言っているでしょう。仲間を押し退けてまでして討伐数を稼ぐの?」
拗ねているのかイザベルは下を向いたまま歩みを止める。
それに合わせてアデリナの足も止まる。
「あなたの敵は調査兵団ではなく巨人なのよ。もし、押し退けた相手が怪我でもしたら?怪我ですまなかったら?その場で巨人の餌になりかねない。相手も、あなたもよ。1人でも多くの兵士が必要なこの時代に失っていい兵士は1人も――」
「んだよ!!別にオレは怪我させようなんて思ってねぇよ!オレはただ、班長や兄貴に……。それに!班長は"オレたち"の命じゃなくて"兵士"の命が大事なんだろ!?」
「何を言ってるのイザベル。私の話を聞きなさい」
声を張り上げるイザベルの目が揺れている。
落ち着かせようとアデリナが肩を掴むが、振り払われる。
「離せよ!兄貴達のとこ行ってくる……」
そう言い残し、イザベルはアデリナに背を向けて走り去っていった。
振り払われて行き場をなくした手を静かに下ろした。
「アデリナ」
「……見てたのなら助けてよ。エルヴィン」
「助けが必要だったか?」
背後から現れたエルヴィンに目を向けることもなく、アデリナはイザベルが消えた方向を見ていた。
「どうも私は子守が下手みたい。彼女が何を求めているのか分からない」
「君はウォールシーナの出身だったな」
アデリナはつまらなさそうに自分の髪を指に巻き付けながらやっとエルヴィンを振り返った。
「だったら何?お金持ちのお嬢様には理解できないだろうって?」
「いいや。逆だ」
「逆?」
「ああ。何不自由なく暮らしてきた君と、不自由すぎる暮らしをしてきた彼らと、君達は同じ夢を追いかけたのだ」
エルヴィンが空を見上げる。
それを真似てアデリナも見上げてみた。
青い空に白い雲が浮かび、鳥が羽ばたく。
「同じ夢、ね。……少し厳しすぎるのかもしれないとは思うけれど、実践に出たときの事を考えると怖くて……あの子達はまだ本物の巨人を知らない。それがどれだけ恐ろしいことか分かっていないのよ」
「君はそれでいい。人類のため、そして我が身のために理解しなければならない。彼らが向いている方向は少しずれているようだ。君はそれを修正しようとしてくれている。君は間違っていないよ、アデリナ」
エルヴィンの大きな手がアデリナの頭に乗せられる。
間違っていないと言われるだけで、肩の荷が下ろされたように軽くなる。
いつもなら払い除ける手をアデリナはそっと握る。
「エルヴィンは、次の壁外調査でカタをつけようとしているのね」
「ああ。3人の目的を利用し、奴の首を取るつもりだ」
「……そう」
「私のやり方は気に入らないか?」
俯くアデリナにエルヴィンが問う。
「……本当の事を知ったとき、辛い思いをさせるかもしれない。だけどこの方法が今は最善であることも分かるわ。だから、あなたも間違いじゃないのよ」
「そうか。理解のある部下で助かるよ」
その後会話は続かず、立ち尽くす2人。
少ししてからアデリナの方が沈黙に堪えきれなくなり、小さくエルヴィンの袖を引っ張った。
「……エルヴィン。ちょっと街に出てごはん食べに行きましょう?」
「珍しいな。君から誘ってくるとは」
「今日は午後からお休みだし、良いでしょう?たまには。勿論、エルヴィンの奢りで」
「………」
「何で黙るのよ」
「…仕方ない。今回は特別だぞ」
「次回も楽しみにしているわ」
「………ああ」
「……冗談よ」
困った顔をしたエルヴィンを見てアデリナは眉を下げた。