第4話 心の変化
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訓練終了後、アデリナと別れ汗を拭い水分の補給をする。
「なあ、班長の目真っ赤だったよな?」
不意に発せられたイザベルの言葉にリヴァイの眉がピクリと揺れた。
「ああ。俺も思った。寝不足…とか?」
ファーランは首をかしげながら、何となく聞けなかったと呟いた。
「……昨日、泣いていた。事情は知らんが、声を荒げてやがった」
「え……」
リヴァイの言葉にイザベルとファーランはお互いの顔を見た。
必要以上に調査兵の人間については興味も示さず、知っていても語らないリヴァイがそんな情報をくれるとは思ってもいなかった。
「揉めてたってことか?」
「恐らくな」
「意外だったな……。班長って怒りはするけど乱れるようなタイプじゃないと思ってた」
必要なときは注意されたり、叱られることもあったがすぐに笑顔で切り替えてファーランから見てもただ明るく、感情の起伏があまりないイメージが強かった。
「リヴァイの兄貴は、それを見てたの?」
リヴァイの機嫌を損ねないよう気にしながら、イザベルは話を詰めてみた。
「ああ、すぐ近くにいた。さっきも言ったが、事情までは分からねぇ。だが、すぐにあいつを追いかけた」
「え!?」
泣いているアデリナを追いかけるなんて、そんな面倒事に巻き込まれるような事に首を突っ込むとは。
ファーランもイザベルも予想外に驚きの声を上げた。
そんな空気を察してかリヴァイは舌打ちをした。
「揉めていた相手はあのエルヴィン スミスだ。揉めている今なら何か情報を引き出せるんじゃねぇかと思っただけだ」
「あ、そ、そうか…なるほど」
「それで、何か掴めたのか?」
「……いや、」
少し歯切れが悪く顔を反らしたリヴァイ。
「情報を聞き出す前に、解決しちまったらしい。暫くこの方法は使えねぇな」
「それは、随分短い仲間割れだったな……。まあ、それだけ元の関係が良かったんだろうな」
「……ああ、そうかもな」
これ以上詳しくは聞き出せないと判断したファーランはぎこちない笑顔を浮かべた。
「オレさ、別に肩入れしてるつもりはないけど、班長のことは信用していい気がする」
イザベルは視線を下げて言う。
リヴァイに怒鳴られるのを覚悟で言ったようだ。
「それはてめぇで感じて判断することだ。他人の押し付けで決めることじゃねぇからな。それで裏切られたとしても泣きごとは通用しねぇ。それだけは覚えておけ」
リヴァイの意外な言葉にイザベルは顔をあげた。
リヴァイの瞳はイザベルを写してはいなかったが、怒っているわけでもなくただ無表情に遠くを見ていた。
「(リヴァイは、何を見ている?)」
何か、過去に思いを馳せているのか。
ファーランにもイザベルにもその真意は分からないまま、リヴァイは静かに立ち上がった。
「先に戻る」
そのままリヴァイは2人の顔を見ることなく歩いていってしまった。
「なあ、兄貴って班長のことどう思ってんだろう……」
「あいつの考えてることは俺も良く分からない。正直言って、俺も自分がどう考えてるのか分からん」
アデリナがエルヴィン側の人間であることは確かだ。
エルヴィン スミスがどういう人物なのかも分からないまま、ただ言われた通り書類を奪うために殺す。
それが3人の目的であり、エルヴィンがどんな人なのかなんて関係のないことだった。
そして、アデリナはそんな目的を果たす最中にたまたま出会ったオマケのような存在。
邪魔になるならついでに殺してしまえばいいとすら思っていた。
だが、教育係とは言えかなり献身的に指導してくれているし、いつも気にかけてくれている。
歓迎会まで開いてくれた。
ちゃんと部下として、仲間として見てくれているのだと思わせてくれる。
アデリナにとっては敵味方は関係ないのかもしれない。
そもそもエルヴィンですらも自分達を敵と認識はしていないのかもしれない。
ただ一方的に敵と見なし命まで奪おうとしているのは自分達の方だ。
「あーあ……。何でこんなことになっちまったんだ…。俺たちはただ、ドブ臭い地下から出たかっただけなのに」
ファーランは自分が地上で生まれて普通に兵団に入っていれば、アデリナたちとも普通に仲間として楽しくやっていけたかもしれないのに、と悔しさが込み上げる。
「……全てが終われば、地上で笑って楽しく過ごせるんだよな?」
不安に染まった表情でイザベルがファーランの顔を見る。
勿論だと言ってやれない。
「……そう、だといいな」
願望を込めた言葉しか紡ぎ出せなかった。