第4話 心の変化
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「それで、ハンジさんのお考えは?」
「え?」
話の先を促そうとしたモブリットに何が?とハンジはキョトンとした顔でモブリットを見た。
「え!?いや、人を一定以上近づけない様にしてる説ですよ!」
「ああ!あれは私の勝手な説だよ」
「いや、分かってますよ。けど、気になります!」
自分の知っているアデリナはそんな影のある人ではない。
付き合いのあるハンジだからこそ分かる何かをここまで聞いてしまった以上気になるのは仕方がない。
「私もあまりアデリナの過去の事は知らないんだけど、幼い頃から女性らしさを高めるための英才教育を受けて社交界にも出ずっぱりだったそうでね。上辺だけの付き合いは得意なんだよ。笑顔でいれば愛想良く見られてなんとかなる。別に本当に楽しくて笑ってる訳じゃないんだね」
いつも笑顔なのは本心を隠してる証拠。
そうハンジは捉えていた。
「では、あの歩き方は?」
「あれは兵士になってからの癖だね。多分だけど、今までみたいに笑顔だけじゃ乗りきれなくなったんだよ。鳥籠の中以外の世界を知って少しずつ色んな感情が出てきたんだろうね」
「お嬢様だった頃の自分をアデリナ班長は好きじゃなさそうですもんね」
「そう。その頃は自分の感情も分からないままただ言われた通りに暮らしてたんだ。感情を表に出したことのないアデリナは人に自分の心を知られるのが嫌だったのかなーって。いつも楽しそうにしておけば、機嫌良く見られるしいつもの感じだねって周りも流してくれる。無意識に隠そうとしてやってるんだと私は思ってたよ」
あくまでも勝手な想像だよ?と念を推すようにハンジは言った。
「でもそう言われると何だかしっくり行くような気もします。アデリナ班長の考えが読めない時が多々あるので…」
「それは君が未熟だからだよ!」
「ええ!?否定は出来ませんけど…」
冗談を言って1人けらけらと笑うハンジにモブリットは肩を落とした。
「どんな理由であれいつも仏頂面よりにこにこしてる方がいいです」
「あははは!それはそうだ!アデリナに睨まれたらモブリットなんかチビっちゃうでしょ!」
「ち、ちびりませんよ!」
「ああ見えてキレたら怖いよ~」
茶化すようにハンジはニヤニヤとしてモブリットに指を向ける。
「き、キレたことあるんですか…」
単純に興味が湧いた。
「ンフフ…それは内緒。グフッ」
ただハンジはモブリットの反応見て楽しんでいるだけのように見えた。
「ミケも言ってたよ。あいつは危険な匂いがするって」
「えっ、ミケさんって匂いの感想…言われるんですか…」
「アデリナしか聞いたことないけどね。さて、私も先に失礼。もう1人の困ったさんのところに行ってくるよ」
残りの水を胃の中に流し込み、包みを手に待つとハンジはウインクをした。
モブリットはもう1人の困ったさんが分からず首をかしげたが、すぐに昨日アデリナとエルヴィンが喧嘩(?)していたのを目撃した事を思い出し納得する。
お疲れ様です、と一言添えてハンジを見送った。
執務室に籠ってるであろうエルヴィンに包みにしたサンドウィッチを手土産に向かった。
ドンドンと激しくノックしたあと、私だよーと声をかけると中からため息が聞こえてきた。
「そんな、ため息つくことないじゃーん」
返事を待つことなく扉を開けたハンジは口を尖らせながらエルヴィンの執務室に遠慮なく侵入していく。
「扉越しに私だよ、と言われても分からない」
「分かったからため息溢したんでしょ?」
売り言葉に買い言葉。
埒が明かないとエルヴィンは口をつぐんだ。
「はい。お昼ごはんまだでしょ?お土産だよ」
「ああ。すまない。わざわざこの為だけに来たのか?」
普段そんなことをするわけでもないのに、とハンジを見る。
「あらら、そんなこと言って。ガールフレンドと仲直りできたのは誰のお陰かなー?んー?」
「……感謝する。だが、ガールフレンドでは、ない…」
「今は、ってか」
「そんなことは一言も言っていない」
僅かに頬を染めたエルヴィンが目を逸らす。
それをハンジは面白がって見ていた。
「まあでも、早急に仲直りできて何よりだよ。あのまま気まずい感じになられちゃうとこっちが困るからね」
すまない…と眉を下げるエルヴィン。
「嫉妬するくらいならもっと自分から構ってもらいに行けばいいじゃん」
「……いや、それは…」
「照れ屋さんだなぁ。アデリナなら相手してくれるよ?ていうかちょっと前に夜中に仲良く2人で密会してたじゃないか」
ハンジの言う密会はエルヴィンがリヴァイ達の悪事をアデリナに見せた日の事。
「忘れていたんだと思っていたが…」
エルヴィンは密かに分隊長と班長のスキャンダルが兵団を駆け巡る事を恐れていたのだが、次の日はいつもと変わりのない穏やかな日常が流れたことに安堵していた。
「まさか、忘れないさ。多分アデリナは冗談で言ってたんだろうけど、エルヴィンが誘いだしたんだろう?あなたは本気だと思ったけど?」
「いや、違う。そうじゃない。仕事の話をしていただけだ」
「真夜中に?2人とも私服で?」
「それには事情があってだ…」
「下心なしで?」
「当たり前だ」
「でも、腕をからめられて嬉しかったんでしょ?」
「いや、………それは、…そう、かもしれない…」
口ごもったエルヴィンにハンジはニヤニヤと笑った。
「まあ、とにかく。その様子じゃあ、アデリナとはなんとかなったみたいで安心したよ。それを確認したかっただけだから」
「そうか。心配を掛けてすまなかった」
2人とも笑い、各々仕事へ戻っていった。