第3話 喧嘩の原因
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遠くでアデリナがエルヴィンに手を引かれ歩いている姿が見えた。
いや、アデリナの方はエルヴィンの歩幅に着いていけず、ほとんど引き摺られているように見える。
周りの兵士もいつもと様子の違う2人にただ、呆けるしかなかった。
エルヴィンとは調査兵団に入団して以来、殆どまともに顔を合わせたことがないリヴァイだったが、彼の様子がいつもと違うことは分かった。
ファーランやイザベルとの情報交換の中でも、取り分けあの2人が仲が良いことは知られていたはずだ。
不穏な空気を醸し出す2人に牽かれるようにリヴァイはこっそりと後を着けた。
「あいつは確か…ハンジ ゾエ、とか言ったか」
途中で合流したハンジを見て、変な奴だった、と言うことは思い出した。
自分達の中ではあまり話題には上がらない人物だったが、やり取りからはそれなりの関係性があることは見て取れた。
「チッ、良く聞こえねぇ…」
もっと隠れるか、端の方で話をしてくれる方が余程盗み聞きしやすかったと言うのに、アデリナたちは人の行き交う広場のど真ん中で繰り広げていた。
リヴァイは無関心を装い、目立たぬよう端の方で耳をすませるが会話までは聞き取れない。
「もう少し近づくか…」
例の物に関する情報が少しでも聞ければラッキーだ、と少し距離をつめた。
「っ、限界か…」
ハンジの視線が微かにこちらの方向に向いた気がした。
安全を期してこれ以上は難しいと判断する。
リヴァイが思っていた以上にハンジは勘が鋭いようだ。
バレる前に少し距離を取り遠目で見る他ない。
「だが、俺たちの話をしていたのは間違いねぇようだな」
アデリナの声でファーラン――と言ったのが聞こえた。
昨日ファーランがアデリナの執務室へ入ったことは聞いていた。
リヴァイたちが例の書類を探していることが勘づかれているのだとすれば正直ややこしい話になる。
敢えてファーランを招き入れることで何かを探っていたのかもしれない。
その報告か?
思考を巡らせながら、声が聞こえない分表情や仕草を観察する。
「――――!―――!」
アデリナの声が少し大きくなり周りがどよめいている。
どんな話をしているのかリヴァイには分からなかったが、初めのエルヴィンの態度や今のアデリナの雰囲気からただの報告だとは思えない。
揉めている?仲間割れか?
バッと踵を返したアデリナが走り去り、残されたエルヴィンとハンジが何やら話を続けている。
ハンジが仲裁に入っていたのだろうか。
こちら側には大した進展はなさそうだと判断したリヴァイは静かにアデリナの後を追いかけた。
だが、途中で見失ってしまい、キョロキョロと目だけを動かし周りを確認しながら歩調を緩めた。
ドンッ――
「っ!」
突然の体への衝撃に思わず苦い声が漏れる。
正面衝突した相手からも小さく悲鳴が上がった。
「てめぇ…」
イラッとして溢れた言葉と同時に顔を見る。
その相手は紛れもなく探していたアデリナだった。
顔を合わせるつもりはなかったのだが、いつの間にか本人を追い越してしまい角を曲がった時に運悪く出くわしたようだ。
「っ、リ、ヴァイ…」
「あ?…泣いてんのか?」
自分の名前を呼ぶ声が震えているのに気が付く。
良く見れば瞳は濡れ、頬にも涙の後が見えた。
アデリナはバツが悪そうに顔を背け慌てて涙を拭っていた。
この様子から見て、やはり何らかの理由で揉めていたのだろう。
「(それも俺たちに関わる何かでな。少し派手に動きすぎたか)」
ここ数日はほぼ連夜、エルヴィンの部屋へ侵入していた。
勘づかれた可能性も十分に考えられる。
その場を去ろうとしたアデリナの腕をつかみ引き留めた。
「待て。何故逃げる。その汚ねぇ面でどこへ行くつもりだ?」
無理やりこちらを向かせる。
文字通り、酷い面をしている。
一丁前に睨みを利かせるのは得意らしかったが、基本的には嘘も含めて笑うことしか知らないような女が見たことのない顔をしていた。
「…離して。あなたには関係ないわ」
そう言って顔を逸らすアデリナを壁に押しやり、濡れた頬をハンカチで強く擦った。
別に引き留めたところで何か聞き出せるとは思っていなかったし、そのまま行かせればよかったのだが、濡れた瞳がひどく居心地悪く我慢ならなかった。
「い、痛いっ!」
「まあ、少しはマシか」
リヴァイは睨み文句を言うアデリナを無視して1人「この方がこいつらしい」と思った。
お前でも泣くことあるんだな、と嫌味を込めて指を顔に突きつける。
見事に嫌味と捉えたアデリナが更に文句を言うがリヴァイはさらりと流した。
遠くでエルヴィンが周囲を見回しながら歩いているのが僅かに見え、リヴァイはすぐにその場を去ることにした。
リヴァイが離れてからすぐにアデリナとエルヴィンが互いを認識し言葉を交わしているのを息を潜ませ見ていた。
「チッ、面倒なことに巻き込みやがって」
結局何の成果もなく時間の無駄だったと、仲直りをしたらしい2人に悪態をつきながらリヴァイは宿舎へと帰った。
第3話 了