第3話 喧嘩の原因
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エルヴィンの元から逃げるように走って来たアデリナは人に見られないように物陰に隠れようとした。
「っ!」
「きゃっ!」
だが、下を向いて走っていたせいで人がいることに気が付かずそれは失敗に終わった。
「てめぇ…」
「っ、リヴァ、イ…」
最悪のタイミングで出会う形となったアデリナは言葉を詰まらせる。
「あ?…泣いてんのか?」
あなたたちの事が原因で、とはとても言えずアデリナは慌てて涙を袖で拭い顔を逸らした。
「ご、ごめんなさい…」
去ってくれそうにないリヴァイを避けるように体の向きを変えたアデリナの腕はリヴァイの武骨な手で握られ離さなかった。
「待て。何故逃げる。その汚ぇ面でどこ行くつもりだ?」
「…離して。あなたには関係ないわ」
「……チッ」
顔を逸らしたままのアデリナに舌打ちすると、リヴァイはアデリナの腕を引き体を壁に押し付けた。
「っ……!何す、」
背中に走った鈍い痛みに顔を歪めた。
そんなことに構わず、リヴァイは自分の持っていたハンカチで半ば無理やり涙を拭った。
「い、痛いっ!」
「まあ、少しはマシか」
「何するのよ。いくらなんでも、私を雑に扱いすぎよ」
強く擦られたせいで赤くなったであろう頬を手で多い、涙で塗れた瞳でリヴァイを睨んだ。
「そんな顔ができたのか」
「何の事よ」
アデリナの視線に臆することなくリヴァイはアデリナの鼻に指を突きつけた。
「てめぇはいつもニヤニヤと張り付けたような笑顔をしやがって、気持ち悪ぃ女だと思っていた。今の方が余程人間らしいじゃねぇか?なぁ、班長よ」
「…何それ、嫌味?」
「ああ、そうかもな」
「…涙流して損した気分だわ」
誰のせいでこんなことになったと思ってんのよ、と胸の中で吐き捨てる。
リヴァイはチラリと視線を動かすと静かに体の向きを変えた。
「どこ行くの?」
「てめぇには関係ねぇ」
「何よ。私には構ったくせに」
「迎えが来てる」
「え?」
リヴァイが顎で指すようにアデリナの背後に顔を向けた。
アデリナが振り返っている間にリヴァイはさっさと歩いて行ってしまう。
「アデリナ!」
離れすぎて小さかった人影が近づき、やっと面影が見えるようになった。
「…エ、ルヴィン…」
息を切らしながら走って来たエルヴィンの髪は乱れていた。
「ハァ、アデリナっ、」
「私を、探してたの?」
「ああ、そうだ…」
眉が下がった顔のエルヴィンがぎこちなく微笑む。
「アデリナ、すまなかった…。君の気持ちも考えずに…ハンジにどやされたよ」
「私の方こそ、ごめんなさい…。エルヴィンの言う通り、私の考えが甘かったの。勝手に自分の事まで否定された気分になっていたんだわ。…心配してくれてありがとう」
「い、いや……」
しょんぼりと肩を落とすアデリナにエルヴィンは狼狽えてしまう。
普段強気な姿しか見せないが、時折か弱いところを見てしまうとやはりまだ幼さを感じさせる。
「腕は、大丈夫か…?」
「え?腕?」
「先刻、手首を俺が強く握ってしまっただろう…。痛かった、な…」
アデリナの手を取り、自分が握った所を優しく擦る。
「平気よ。痛くも痒くもないわ」
「そうか、良かった。痣にならなくて、本当に」
エルヴィンは自分の仕出かした事に、内心腹を立て二度と傷付けまいと誓うようにアデリナの手を両手で包み込んだ。
「ホントに、今日は全然あなたらしくない」
「え?」
アデリナの手を見つめていたエルヴィンがアデリナの顔を見ると、優しく微笑んでいた。
「あなたはいつもみたく堂々として、言葉一つで人を動かしてると良いわ。私みたいな我が儘で馬鹿な兵士のために落ち込む必要も自分を攻める必要もないのよ。後ろさえ振り向かなければ、エルヴィンは私を、私たちを正しい方向に導けるの。そうでしょ?」
「フッ、君には私がそんな鬼のような人間に見えるか?」
「違うわ。きっと私たちがそういう人物に造り上げていくのよ。そういう兵士が必要になる。けど私は、あなたにだって後ろを振り向いてしまう弱さも、我が儘な兵士のために心を痛めるような優しさもあるんだって知っているから。それで良いと思うの」
アデリナの言葉が難しい。
つまりは、普段は鬼のような兵士であっても、例え正しい方向へ導けなくなるとしても本性を知っているアデリナの前だけでは本当の自分をさらけ出したら良い、そういうことだろうか。
「まるで、謎なぞでも解いている気分だ」
「簡潔に述べるのが苦手なのかも」
「だが君の気持ちは伝わった。感謝するよ」
エルヴィンの大きな手がアデリナの頭に乗せられる。
普段なら子供扱いしないで、と言いそうだが今日は素直に撫でられていた。