第3話 喧嘩の原因
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「アデリナ。ちょっと来なさい」
「ちょっと、痛いわ!」
ファーランを部屋に招き入れた次の日、突然背後からやって来て、アデリナの腕を掴み無理やり引いて歩くのはエルヴィンだった。
「どうしたのよ!」
抗議の声を上げるアデリナも、周囲の不思議そうな視線も全て無視してエルヴィンは前を見据えたまま進んでいく。
「あれ?エルヴィン?…どうしたんだい?」
「ハンジ、助けて」
たまたま通りかかったハンジに助けを求め、エルヴィンに掴まれていない方の腕を伸ばす。
「ちょ、ちょ、エルヴィン。アデリナが困ってるじゃないか。どうしたんだい?あなたらしくないよ?」
「退いてくれ、ハンジ。俺はアデリナと話がしたいだけだ」
「話なら、ここでしてちょうだい。っつ…」
アデリナの言葉が気に食わないのか、一層腕を握る手に力がこもる。
「エルヴィン加減してあげて!細い腕が折れちゃうよ!」
アデリナの顔が歪んだのを見てハンジが慌ててエルヴィンの腕を掴む。
「は……、す、すまない…」
我に還ったエルヴィンは慌ててアデリナの腕を離す。
「だ、大丈夫よ…」
アデリナは痛む手首を反対の手で撫でる。
「珍しいね、あなたが理性を失うなんて」
諭すようなハンジの声をエルヴィンは目を逸らしながら聞いていた。
「私、何かやらかしたのかしら…」
「アデリナ。1人の時に、奴らを部屋にいれないでくれ…」
「…え?」
エルヴィンの大きな体とは裏腹に、独り言のように出た小さな声にアデリナは首をかしげた。
「奴らって?」
ハンジも横目にどこかへ視線を向け、再びアデリナに視線を戻し戸惑いながらアデリナに答えを求めた。
「もしかしてファーラン、リヴァイ、イザベルのこと?」
「ああ。そうだ」
「それってアデリナの部下たちの事だろ?部屋に入れたりなんて、仕方がないんじゃないかい?」
ハンジの言う通りだ。
必要であれば呼び出すことだってある。
「ファーランを部屋に入れていたな」
「ああ…それは昨日の事かしら。ただ、お茶しただけだけど…」
「それをやめてくれないか。奴らは、犯罪者だ。自分の利益のためなら躊躇なく人を殺すような連中だ」
エルヴィンの言葉にアデリナは目を見開く。
そして、怒りを抑え込むように眉を寄せ、歯を食い縛る。
「彼らは仲間よ…。あなたが連れてきた仲間じゃない…。確かに今はまだ心を開いてもらえていないし、彼らに目的があることも知ったわ……。だけど!これから苦楽を共にして壁の外でのうのうと生きる巨人を一掃して外の世界を自由に歩くのを一緒に目指す人たちよ!私たちが歩み寄ればきっと彼らも答えてくれるわ!」
エルヴィンからそんな言葉を聞くことになるなんて思ってもいなかったアデリナはショックを受けたようだった。
「それに、私だって何も考えなしにやったわけじゃない」
自ら部屋に招き入れ、内部を見せることで彼らの探す例のものがない事をアピール出来ると思っていた。
涙を溢さないようエルヴィンを見上げていたアデリナの顔がそっぽを向き、そのまま振り返ることなく足早にその場を去っていった。
「……エルヴィン。あなたは、」
恐らくエルヴィンの言葉と感情には偽りがあった。
リヴァイたちが犯罪者であったのは確かだが、足を洗わせ仲間に加える事を提案し実行したエルヴィンが、彼らをただの犯罪者とは思っていないはずだ。
もう、仲間として受け入れている。
彼らが本当に調査兵としての自覚を持つようになるのも、立場を理解出来るようになるのも時間の問題だと分かっている。
「今さら私が言う必要はないのだろうけど、一応言っておこうか。アデリナの気持ちをそっちのけで自分の感情をぶつけちゃだめだよ。それとアデリナに怪我を負わせるようなようなことは許さないよ!…と、まあ、これくらいかな?」
眼鏡の位置を調整しながらハンジは微笑んだ。
「あとはあなたの心の方が良く分かっているだろう?」
ハンジがエルヴィンの胸板をノックするように軽く叩く。
「…私らしくないか、ハンジ」
「そうだね。けど、今はいつものあなただ」
「そうか…」
フッと自傷を含んだ笑みがエルヴィンから溢れる。
「どうやら嫌われたらしい」
「…大丈夫だよ。アデリナは頭が良い。すぐにエルヴィンの気持ちも理解するさ。それとも、知られたくはないかい?」
ハンジは少し茶化すように肘で小突いた。
「…自分でもあからさまだったと思うよ」
「ハハハ!この私でも気づくよ。好きなんでしょ、アデリナのこと」
ニヤニヤと頬を弛ませるハンジを見て、エルヴィンは小恥ずかしくなり顔を隠す。
「……ああ、そうだ…」
「意外と素直に白状したね。エルヴィンでも嫉妬とかするんだー」
「本当に心配はしている。アデリナに限って万一はないと信じているが、奴らも殺り慣れているは間違いないからな。…ただ、そうだな。8割ほどは君の言う通りだ」
人間らしいとこを見れたから何だか安心したよ、とハンジはエルヴィンの背中をバンバンと強く叩いた。
励ましだと理解したエルヴィンは乱れた髪を整えながら、ありがとうと答えた。
「こうなったら、あとは決まってるよね。ほら、早く追いかけな」