第3話 喧嘩の原因
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ジャケットを脱ぎ、ファーランに武器である模擬ナイフを渡し自分も左手に模擬ナイフを持つ。
「あれ?班長って左利きでしたっけ?」
「ううん。ちょっとしたハンデになるかなって」
「ハハ、随分な自信っすね」
ファーランの笑い声が彼の自信を表すそのものだった。
だが、アデリナは気にする様子もなくいつもの笑顔のままナイフを構え一歩、片足を引いた。
「あくまで、左でいくつもり…ですか。……俺も舐められたもんだな」
ボソリと呟いたファーランの笑顔は引きつっていた。
どうやらプライドに障るらしい。
「さあ、始めるわよ」
「怪我、しないで下さい、よっ!」
模擬ナイフを構え向かってくるファーラン。
腕を素早く突きだしアデリナに斬りかかるがフラりと避けられ、腕を弾かれたかと思うと手首を捕まれる。
「くっ!」
ファーランは掴まれた腕からナイフを離し落ちたそれを逆の手でキャッチすると足を蹴り上げる。
アデリナが体を反らせて避けるとファーランが身体を捻り今度はアデリナの腹を狙う。
だが、腕を叩き落とされ痺れた手からナイフが滑り落ちた。
そのまま足を払われファーランはアデリナの手で地に伏した。
「チェックメイトってことで」
アデリナが持つナイフをファーランの首に宛がいそう言った。
「っ、まさか…左でこんな……」
この戦いで一度も利き手である右手を使わず、ナイフで手を塞がれているにも関わらずファーランから武器を奪って見せた。
「あー!いい運動になったわ!流石ファーランね。下手な兵士より随分と楽しめた」
「全く隙がない…こりゃあ、リヴァイでも怪しいかもな」
「リヴァイの方が強いの?」
「あ、ああ…。まともにやりあったことはないすけど、あいつの腕は確かだ。人の殺り方を叩き込まれてる」
アデリナが手を離すと、服の埃を払いながらファーランはゆっくりと立ち上がった。
手首をくるくると回して無事であることを確認している。
「大丈夫?痛めてない?」
「このくらい平気っすよ。あんたのこと、女でしかも小さいから舐めてた」
「結構小回りが利いて便利なのよ」
「そうっすね。今の戦いだけじゃあ、その小回りとやらは拝見できなかったけど」
ほとんど動いちゃいねぇもんなーとファーランは軽快に笑った。
「そろそろ行こうか。ごめんね、私のわがままに付き合わせて」
「いや、いいっすよ。お陰で平和ボケしてた頭が冴えました」
それぞれジャケットを羽織り、訓練場を後にする。
「付き合ってくれたお礼に紅茶いれて上げる。おいで」
アデリナはファーランを連れて自室へ向かった。
「紅茶って地上でも高級ですよね?」
「そうね。貴重なのは変わりないわ。地下街よりは少しばかりは手に入りやすいってくらいかしら」
カップを暖め茶葉を蒸らしながら答えるアデリナの後ろで部屋の中を見渡しながらファーランは椅子に座る。
「私だって誰彼構わず振る舞っているわけではないのよ」
「そうなんすか?」
「特別な人にだけ。どうぞ」
紅茶を差し出しながらウインクをした。
「あ、ありがとうございます…」
特別な人とはどういうくくりなのかファーランには検討もつかなかった。
「部屋の中が気になる?」
「え?あ、いや。…結構手狭なんですね班長の部屋って」
そう口では言うが、正直なところ 例の書類がどこかになかいかというのと部屋の中の構造、配置を頭に叩き込もうとしていた。
堂々と上司の部屋に入れるのはまたとないチャンスだ。
エルヴィンの部屋から見つからないとすれば、他の誰かが持っていてもおかしくはないのだから。
「そんないい部屋をもらってるとでも思った?班長と呼ばれようとこんなものなの」
本当に執務机がポツンと置かれ小さな本棚が壁に貼り付いているだけの簡素な部屋だった。
「分隊長たちの部屋は入ったことある?」
「あ、…い、いえ」
思わずはい、と言いかけたが恐らく気づかれない程度に誤魔化せた。
自分達がエルヴィンの部屋に潜り込んでいることを感づかれる訳にはいかない。
「分隊長の部屋の方が広いのよね。羨ましいわ」
「そう、なんですか…」
「それでも、紅茶を飲むのには充分でしょ?」
「はい。…ありがとうございます」
だが、当然エルヴィンの部屋に入り込んでいることを知っているアデリナはただカマをかけて遊んでいただけだった。
ボロを出しかけたけどギリギリセーフと言ったところかしら、なんて考えながら笑顔で紅茶を啜った。
軽く話をしてファーランは「では、また明日」と部屋をあとにした。