第2話 それぞれの思惑
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あれ?アデリナ、エルヴィン夜遅くにどうしたの?」
「あら、ハンジ。あなたこそこんな遅くにどうしたの?」
夜分遅くに一人で返すのは気が引けると、エルヴィンはアデリナの荷物を代わりに抱え、部屋まで送ろうと兵舎の外を2人で歩いていた。
そこにまだ隊服を着たまま彷徨いているハンジと出会った。
「いやぁ、ちょっと巨人について考えていたら遅くなっちゃって」
「そう。もうお風呂に入って眠ったら?」
「うーん。もう疲れたから風呂はいいやー。で、君たちは何を?」
何気ないハンジの質問だったが、アデリナは表情に出さぬまま厄介だな、と思った。
「ふふ、ただの密会よ」
「オイ、アデリナ…君は本当に……」
アデリナはにっこり笑いエルヴィンの腕にぴったりと絡み付いた。
ピクリとエルヴィンの肩が揺れたがアデリナは気にせず頬を腕に寄せた。
「おお!何だ、エルヴィン!やるじゃないかぁ!このアデリナ様を射ぬくだなんて!」
「ほんとよね。中々落ちないのよ私」
「んーー、それは光栄だな」
エルヴィンは困ったように眉を下げながら取り敢えず言葉を取り繕う。
「青春だねー!じゃあお邪魔虫は退散するよ。お幸せに~!」
良いものを見たと嬉しそうに去っていくハンジをアデリナはヒラヒラと手を振って見送ると、エルヴィンを見上げペロッと舌を出した。
「ああ、本当に光栄だよアデリナ」
「さっきの冗談が頭に浮かんじゃって、そういう時って案外すらすらと言葉が出るのよね」
「…相手はあのハンジだぞ。絶対信じた」
「だから私は一人で帰れると言ったのに」
悪びれる様子もなくアデリナはエルヴィンから手を離した。
「それとこれとは別だ。明日が来るのが怖くなってきたよ」
「私、あなたのそういう所割りと好きよ(まぁ、ハンジの事だから本気には捉えてないでしょうけど)」
複雑な表情を浮かべるエルヴィンを見て、アデリナは楽しそうに笑う。
「さ、行きましょう。あなたも早く温かい布団の中で眠る方がいいわ」
「ああ。そうだな」
ほんの数分でたどり着いたアデリナの部屋。
エルヴィンから荷物を受けとり、両手が塞がったアデリナの代わりに扉を開けるとありがとう、と笑った。
「じゃあ、お休みなさい」
「遅くまですまなかったな」
「いいのよ。良い夢を」
「ああ」
悪戯な笑顔を浮かべる事の多いアデリナだが、人を気遣うときの笑顔はとても綺麗だった。
名残惜しい気もしたが、エルヴィンは悟られない程の間で扉を閉めた。
部屋の中からカチャカチャと陶器の当たる音を聞こえてきた。
茶でも用意しているのだろうか。
そんなことを考えながらエルヴィンは星空を見上げると、自分の部屋へと踵を返した。
「…ふぅ」
アデリナは紅茶をいれ、椅子に腰を掛けるとエルヴィンから預かったばかりの書類を広げる。
ニコラス ロヴォフの金の横領や不正利用など、公にされれば牢獄行きは免れない内容ばかり。
気が強い彼らのことだ。
弱味を握られてこの厄介事に巻き込まれ、それに加え報酬としてリヴァイ達が望む条件を突きつけたのだろう。
それぐらいの事は容易に想像がつく。
地下街に住まうものは皆地上での生活を夢見る。
彼らもその夢を利用されたわけだ。
それを憐れに思ったのかアデリナは眉を寄せた。
気を取り直すように紅茶で口を潤すと、ついでに渡された陣形の配置資料に目を通し、気になる箇所にマークをつけた。
黙々と作業を行いすっかり紅茶が冷めた頃、エルヴィンに渡されたもうひとつの書類を手に取った。
リヴァイ達3人の評価を記載しなければならないそれは、技能だけでなく、性格や傾向、日常の行い等あらゆる面を考慮しなければならない。
まるで学校の先生のような仕事だ。
エルヴィンはロヴォフの件を省いて評価しろと言った。
それはまた、アデリナにはとても難しい課題だった。
「嘘を書くわけにもいかないし…」
恐らく、あらゆる任務の配置や役割はこの評価も考慮された上で作り上げたもの。
その妨げになるような事は出来ない。
「駄目だわ…。とてもじゃないけど、こんな頭の回っていない状態で書けない…」
書類を端に寄せて大きく伸びをしてから立ち上がる。
「もう、寝よう…」
蝋燭の炎を蓋を被せ静かに消し、アデリナは眠りについた。
第2話 了