第1話 調査兵団
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844年某日
「あ、あの…アデリナ班長?」
「何かしら?」
「何を、されておられるのですか?」
「ん?掃除だけど?」
「…班長自らされなくとも言ってくだされば私共が致します」
見ての通りよ、と答えたアデリナに兵士たちが顔を見合わせ、箒を受け取ろうと手を伸ばす。
だが、スッと避けられてしまう。
「いいのよ。あなた達には他にも仕事があるでしょう?」
「し、しかし…。それと、ここは今誰も使用していない部屋では?」
「多分ね、今日から使うことになるんじゃないかなーって思ってね。さ、私の事は気にしないで戻りなさい。エルヴィンが帰ってきたら怒られちゃうわよ~」
冗談ぽく笑ったアデリナに兵士達は再び顔を見合わせてから、綺麗な敬礼を残し戻っていった。
「さて、エルヴィンはどんな子を連れてくるのかしらねぇ」
地下街
男2人と少女が1人、エルヴィン率いる調査兵達によって拘束されている。
1人の男は抵抗したからか水溜まりに顔を押し付けられ、泥水を滴らせる。
「私の名はエルヴィン スミス。お前の名は」
エルヴィンは自分が汚れることも気にせず水溜まりに膝を付き、その男に近づき問いかける。
「………リヴァイ」
エルヴィンに向けられた視線は怒りそのもの。
「リヴァイ。私と取引しないか」
「…取引?」
「お前達の罪は問わない。代わりに力を貸せ。調査兵団に入団するのだ」
「「「…!?」」」
エルヴィンの思わぬ言葉に拘束された3人は目を開く。
だが、エルヴィンの瞳は真剣だった。
「…断ったら?」
「憲兵団に引き渡す。これまでの罪を考えれば、お前は元よりお前の仲間もまともな扱いは望めないだろう」
表情を弛めたエルヴィンが立ち上がり、リヴァイに背を向けゆっくりと距離をとる。
「好きな方を選べ」
そう言って振り返ったエルヴィン。
「…良いだろう。調査兵団に入ってやる」
睨み上げ答えたリヴァイに仲間の2人も驚きの表情を浮かべた。
「アデリナ班長!エルヴィン分隊長が戻られました!」
三角巾を外しジャケットを羽織直した所で声を掛けられアデリナは振り返る。
「了解。片付けだけお願い」
「はっ!」
掃除道具を兵士に預け、アデリナはエルヴィンが帰ってきたであろう部屋へ向かう。
軽い足取りのまま扉を開くとエルヴィンの後ろに地下街で拘束してきた3人を見た。
「"それ"があなたが見つけてきた人達?」
「ああ。そうだ」
「何だこのアマ!それって何だよ!」
調査兵に拘束されている少女が、アデリナに食って掛かるが、ガシャンと手錠の鎖が鳴っただけでどうすることも出来ない。
「あら、威勢の良いお嬢さんね。初めまして。私はアデリナ オイレンブルク。よろしくね」
アデリナは全く動じることなくにっこりと笑顔を浮かべた。
「あなた達、名前は何て言うのかしら?」
3人一人一人に目を向け、優しく問いかける。
だが、3人は睨み付けたまま一向に名乗る気配はない。
「名前を、聞いているの。答えられない?」
アデリナの口許は依然弧を描いているが、スッと瞳から輝きが消えた気がした。
その場の空気が凍りついたかのように、背筋がゾクりと震える。
「い、イザベルだ…」
「…俺はファーラン」
「リヴァイ……」
調査兵に囲まれ、手錠もされたまま。
そんな状態で抵抗したところでこの女に敵わないと悟った3人はボソりと答えた。
「君はどう思う、アデリナ」
「うん。良いんじゃないかしら?それに、あなたの判断なら信用できるわ」
再び、にこやかな表情に戻ったアデリナはエルヴィンを見上げた。
「そう言ってもらえると助かる。他の者にも伝えねばならん。アデリナ、一緒に来てくれるか?」
「ええ。勿論よ。ミケ、この人達に部屋を用意したから案内してあげて。場所は近くの兵士に班長が掃除してた部屋はどこ?って聞けば分かると思うわ」
「承知した」
ミケと呼ばれた調査兵は3人を連れて出ていった。
「ミケったらまた匂いを嗅いでいたわね。あれだけ汚れていてもその人の匂いって分かるのかしら」
エルヴィン達が地下街で何をしていたのかアデリナ知らないが、泥塗れになった3人の姿を見て一悶着あったことは容易に想像がつく。
「さあな。本人に聞いてみれば良い。さあ、会議室へ行こう」
エルヴィンと2人になったところで、アデリナたちも部屋を出て上層部達が揃う会議室へ足を進めた。
「エルヴィンはどんな匂いって言われた?」
「ふむ、そう言えば聞いたことないな」
「私は危険な香りがするって言われたわ。それってどんなのだと思う?毒蛇とか毒キノコとか火薬の匂いとかだったらどうしよう。それって臭い匂いよね、きっと」
ペラペラと喋り続けるアデリナをエルヴィンは歩きながら見下ろす。
随分と小柄だが、かなり腕の立つ人材である。
詳しい年齢は知らないが、エルヴィンよりかなり若いはずだ。
「今日はいつも以上に機嫌が良いな」
「そうかしら?…まぁ、新しい人達が面白そうだったし。特にあの目付きが悪い男の人」
「リヴァイか」
「そう。中々良い目をしていたわ」
クスっと笑ったアデリナに、エルヴィンもフッと笑みを溢す。
「同意見だ。これから我が同士達を説得せねばならん。君も手伝ってくれ」
「そうするつもりよ。エルヴィン分隊長」