第1話 出会いと始まり
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「…どうしましょうかね」
流暢な言葉を話す赤ん坊が塀の上で顎に手を当て悩んでいた。
背の低い彼にとって、はるか上空―背の高い木―を見上げている。
そんな後ろ姿を少し遠くから学校帰りの女子高生が見ていて声をかけようかと迷っていた。
「ねえ君?」
迷った挙句、少女は少し目線が上にある赤ん坊に声をかけることにした。
「はい…?」
「あ、ごめんね?何か困っているようだったから」
知らない子どもに声をかけるのもどうなのか…と考えていたが、やはり困っている人を放ってはおけないと声をかけることにしたのだ。
「いえ、その。上で猫が下りれなくなっているようでして…。助けようにもこの体では抱き下ろすのが難しいので…」
確かに木のてっぺんの方の細い枝の上で猫が震えているのが見えた。
「(抱く以前に木に登ることが出来ないんじゃ……)」
むしろどうやって塀に登ったのだろうと疑問に思った。
見た目よりもしっかりした子は赤い中国服に身を包み長い髪を後ろでお下げに結っている。
首からはおしゃぶりが小さく揺れていた。
困った顔をしている赤ん坊を見て少女は心を決めた。
…いいわ、私が猫ちゃんをおろしに行くわ」
「え?しかし…!き、危険です!」
「大丈夫よ。私、木登りは得意なの」
少女は赤ん坊を心配させまいと冗談ぽく笑って見せた。
カバンを地面に置いて塀に登る。
「ちょっと待っててねー」
猫に微笑みかけて髪を耳に掛ける。
「スカートだから見ないでね?ふふ」
赤ん坊の頭を数回撫でると木に足をかけて上り始める。
赤ん坊はというと頬を赤らめ木に背を向けた。
がさがさと木の葉の揺れる音が聞こえて、猫の鳴き声がする。
まもなくして少女は猫を抱えて下りてきた。
猫は少女を見上げ一度だけ「にゃあー」と鳴くと、するりと腕の中から抜け出して去っていった。
「あの、ありがとうございました」
「いいえ。猫ちゃんが無事で良かったわね」
「はい、本当に…」
動物が大好きな優しい子なんだと少女は思った。
「##NAME1##!あなた何してるの!?」
塀の下から少女と同じ制服を着た女子高生が驚きに目を見開いていた。
「あら。なんでもないわよ。よいしょっと」
##NAME1##は軽がるく飛び降りると赤ん坊に向かって手を振った。
「気をつけて帰ってね」
「何してたのよ?」
「ううん。ちょっと猫をね」
「猫?もう無茶しないのよ?」
…うん。大丈夫よ。ねえ、ケーキ食べに行かない?黒曜に新しいお店が出来たみたいよ」
「そうなの?えー行こうかなぁ」
「行きましょうよ!」
同じ制服を着た友人と出会いそのまま歩いていってしまった。
赤ん坊がそんな姿を見えなくなるまで見つめていた事も知らずに……
「おい、風」
「…リボーン」
いまだ塀の上で立ち尽くしていたお下げの赤ん坊、風(フォン)はボルサリーを深く被った赤ん坊、リボーンを見下ろした。
「おしゃぶりが光ったから近くにいるんじゃねえかと思ってな」
「ほ、本当ですね。気がつきませんでした」
自分のおしゃぶりを見下ろして風は言った。
「…ツナんちに来るか?」
「しかしイーピンがいるので…」
「心配するな。今日は京子の家に泊まりに行ってるぞ。お前は今日ツナんちに泊まっていけ。どうせ宿も決めてないんだろ?」
「はい…。では、お言葉に甘えて…」
「ああ。遠慮するなよ」
「あなたも居候の身でしょう…」
風はいつも行き当たりばったりの旅をするため、今回も同様宿も決めることなく中国より日本に訪れた。
そんな時の古い友人からの誘いは嬉しかった。