第1話 杖の導き
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「いいか、ここが漏れ鍋だ。おい、リョウ?」
「え?、ああ、ごめんなさい」
ハグリッドに名前を呼ばれて、自分がボーッとしていたことに気がつく。
リョウの前を歩くルビウス ハグリッドはリョウの2倍以上ある大きな体を揺らしながら「こっちだ」と先を促す。
初めてロンドンに連れてこられ、回りを見渡せば目鼻立ちがくっきりとした外国人ばかり。
右を見ても左を見ても日本とはまるで違う建物や街並み。
放置されていた新聞には02.09.1991の数字。
やはり自分のいた時代とは違うらしい。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫……」
リョウはハグリッドを見上げて笑みを浮かべる。
考えても仕方ないのだし、他の人には黙っておくよう言われている。
数十分前――
「良いか、リョウ。君が別の世界、未来からやって来たことは皆には内緒じゃ。知っているのはわしとマクゴナガル先生だけじゃ。そして、杖の事じゃが、今は少し姿を変えてもらう。」
「姿を変える?」
「見た目を変えるだけじゃ。使用するのに問題はなかろう。これの存在が公になるのは不味い事情があっての。それについてはいずれ話す時が来ようの」
ダンブルドアが自分の杖を懐から出し、リョウの杖に向かって緩やかに弧を描いた。
六角形であった杖から丸い杖に変わり、桜の花弁の彫刻は消え、つるりと磨き上げられ、持ち手の部分は指がかかりやすく波打った形へと変えた。
同じ杖とは到底思えなかった。
姿を変えた杖を持たされ、大急ぎで入学の準備をせねばとダンブルドアが呼んだのがハグリッドだった。
「ハグリッド。この子は今日1年生として入学することが急遽決まったんでの。一緒にダイアゴン横丁で必要なものを揃えてきてほしいのじゃ。杖以外をの」
「はい、先生。また突然入学だとは、お前も大変だな」
事情の知らないハグリッドは肩を竦めてリョウを見下ろした。
そして今に至るわけだ。
「やあ、ハグリッド。また来たのか?」
「少し用事があってな。リョウ、こっちへ来い」
ハグリッドは小ぢんまりとしたパブの奥へと進むと、煉瓦の壁の前に立ち、手に持っていた傘の先を煉瓦に向かって迷わせた。
「何度やっても数えなきゃなんねぇ……ここだ」
3ヶ所ほど煉瓦をコツコツと叩くと、周囲の煉瓦から順にカタカタと小さく震え始めた。
震えた煉瓦たちは器用にその場で向きを変えながらハグリッドが少し屈めば入れそうな大きさまで穴が広がり、アーチ状の入り口が完成した。
「本で見たのと同じだ………」
驚きと共に感動と戸惑いが入り交じる。
夢にまで見た事なのに、現実に目の前で起こると素直に喜べないものだなぁとリョウは思わずため息をつく。
ハグリッドが頭を屈めてアーチの向こうへと入って行くのに続き、リョウも先の道を進んだ。
「ここがダイアゴン横丁だぞ。必要なものは全部ここで揃う」
「すごい……」
そこは先程までとは打って変わり、長いローブがあちこちでははためき、とんがり帽子が行き交い、杖が人の手によって様々な動きを見せていた。
どこを向いても魔法使いらしい人たちばかりだった。
「杖は持ってると言ったな」
「は、はい」
リョウは頷く。
「制服の寸法を測りに行こう。すぐにと頼んでもちょっとばかりは掛かりそうだしな」
ハグリッドはひとりで納得したように歩き出した。
「お前さんは…んん、親がいないと聞いたが、どうやって暮らしていたんだ?」
「え?あ、そうか…。両親は、ええっと、つい最近の事だから…普通に…。そうこうしてるう内にホグワーツの入学が決まって…」
ちょっと無理のある嘘だったかもしれないが、ハグリッドは信じてくれたようでばつが悪そうな顔をした。
「そうか、すまんな…。入学が遅れたのはそれもあったんだろうな」
そうとってくれたのならありがたい。
「ここだ、マダム・マルキンの洋服店。皆ここで制服を買うんだ」
「あ、私お金持ってない」
ポケットをまさぐってハグリッド見上げる。
「何を言っとる?俺がダンブルドア先生から預かっとるさ」
「え!(全額負担してくれるの!?)」
と言っても、稼ぎようもないのだが。
ここは素直に甘える他ない。
店内に入ると、店員が意気揚々と出迎え、ハグリッドがリョウを自分の前に押し出した。
「この子のホグワーツの制服を作ってやってくれ。大急ぎで頼む」
「今日は混んでるからね。急いでも夕方になるよ」
「いや、それで構わん」
「そうかい?じゃあ、お嬢ちゃん。台の上に乗って」
店員に促され台の上に立つと、水平に腕をあげるように言われる。
それに従うとスルスルとメジャーが勝手にリョウの体を測定し始めた。
急な出来事にリョウの肩はびくりと震えた。
「珍しい日に来られましたね。始業式は昨日でしょう?」
「事情があって今日から入学することになって…」
リョウは苦笑いする。
その事情が大きすぎて困ってるんですよねーとは言えない。
「そうですか。いい学校ですからね、頑張って!はい、終わりですよー。夕刻辺りに学校に届けるようにしますからね」
「ありがとう」
リョウは台から下りると外で待機していてくれたハグリッドのところへ戻っていった。