第1話 杖の導き
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「……何も分からんのに攻め立てるような事をしてすまなんだ」
半月眼鏡の奥の瞳が優しく細められる。
先程までの切羽詰まった様子からあまりにかけ離れていてリョウは静かにはい、としか答えられなかった。
「わしはアルバス ダンブルドアじゃ。このホグワーツ魔法魔術学校の校長を勤めておる。そして、隣にいるのが副校長でグリフィンドールの寮監の」
「ミネルバ マクゴナガルです」
マクゴナガルの警戒する瞳は変わらず居心地悪かった。
「あの、私……。状況がつかめてなくて、ただ家に帰りたいだけで……」
「それは出来ん」
ダンブルドアによって一刀両断され、リョウの肩が揺れる。
「脅かして悪いがの、そう簡単には帰れん事情が出来たのじゃ」
「帰れない事情?」
「先程君から受け取った杖は1981年から10年間行方不明とされていた。それが突然、君を連れてやって来たのじゃ。これは我々にとってとても重要な意味がある」
「そんな……」
それはそちらの都合でリョウには関係のない話。
それで帰せないと言われても困る。
「そしてもう一つ、君が持っていた光るその四角いものが教えてくれたよ」
「え?スマホの事ですか?」
バックライトをつけるといつもの画面が光る。
日付と時間が書かれたそれをダンブルドアは指をさす。
「今日は1991年9月2日。つまり、君は未来から来たことになる」
本当にここが今、1991年であるならスマホに書かれた日付は20年以上も先になる。
「え?まさか、そんな……(ハリーポッターが入学した翌日…)」
普通に考えれば、あり得ない話。
だが、この世界がかの有名な"ハリーポッター"の小説の中の世界であることが何故かしっくりと頭の中に収まった気がした。
「アルバス…そんなことがあり得るんでしょうか……」
「あり得たのじゃろう。少なくとも今はそう捉えるしかない」
「帰る方法がないのですね」
そう呟いたリョウにダンブルドアは深く頷いた。
「リョウが持っていた杖はポートキー、つまり瞬間移動装置のようなものであった。あれは本来時間移動出来るものではない。それが時を越えこのホグワーツへ送られたのだとすると、ちと話がややこしくなるのじゃよ」
「そうですか……」
大好きだったハリーポッターの世界に来られたと言うのに、嬉しさなんてこれっぽっちもなかった。
このまま家にも帰れず、両親や友人とも会えないままになるのかもしれないと不安が募る。
「わしも元の世界に戻れる術があるのか調べるつもりじゃが、いつになるかは分からない。すぐに分かるかもしれんし何年もかかるやもしれん。最悪、戻れぬ可能性もある。かといって、一つ目の理由から君を野放しにする訳にもいかんのだよ」
「事が解決するまでは、あなたはホグワーツの生徒としてここで過ごしていただきます。あなたはこのホグワーツが引き取ります」
今まで口を閉ざしていたマクゴナガルがリョウを見据えた。
「あなたの身を守るため、あなた自身も力をつけるのですよ」
「はい……。よろしくお願いします」
嫌ですと答えたところで帰る場所もなければ生き方も分からない。
寝食を与えられるだけ、良かったのかもしれない。
そう前向きに捉えるしかなかった。
「あの、そう言えば私、魔法を使えるのかどうかすら分からないのですが」
「それは大丈夫じゃ」
「この杖の持ち主があなたに書き換えられているようです。杖は持ち主を選びます。マグルを選ぶことはないので、あなたが魔女である証にもなります」
マクゴナガルの手から桜の彫刻が美しい杖をリョウの手に乗せられる。
じんわりと掌に温もりを感じた気がした。
「昨日新一年生の入学式がすんだところでの。リョウはその1年生たちと一緒になってもらおうかの。1日遅れではあるが…」
「……1年生に見えますか?だいぶ浮きそうですけど…」
1年生ということは周りは11歳。
子どもたちに囲まれた学生生活とはなかなか居心地が悪そうだ。
「……むしろ1年生にしか見えんが?」
眼鏡をずらして顔を近づけてくるダンブルドアから顔をそらしマクゴナガルを見る。
私にもそう見えます、とマクゴナガルは首を立てに振った。
「私、17歳なんですが……」
そんなまさかと苦笑いをこぼしたリョウに2人は顔を見合わせる。
「ご覧なさい」
マクゴナガルから手鏡を渡され、良く分からないまま覗き込む。
「え、…っと……私?」
鏡に写った姿は2人が言うように、どう見ても10歳そこらの子どもだった。
そして過去のアルバムに写っていた幼少時の自分と同じ顔をしていた。
「これは何かの魔法がかかった鏡ですか?」
「いいえ。これは、普通の鏡です。マグルと同じ」
「ということは……縮んでますね」
もういろんな事が一気に起こりすぎてこの驚きと戸惑いをどう表せば良いのか検討もつかなかった。
「……まあ、何はともあれちょうど良かったの。新一年生として晴れて入学じゃ。おめでとう」
「あ、ありがとう、ございます?」
こうしてトントン拍子に事は進んでいった。