Lesson 1
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「一体どういうことなの、彼氏って!」
そう切り出せば、ユキは顔と顔がくっつくくらい、空の方へ前のめりになった。
「やだ、ユキちゃん!そんなに大声で言わないでよ。彼氏だなんてぇ!」
「……」
空の舞い上がっている様子からするに、冗談ではなく本当のようだ。
一刻も早く詳細を聞きたい。
そういうときに限って、午前中は新入生オリエンテーションという名目で体育館やら特別教室へと移動させられて、DVD視聴と教師たちの説明に延々と付き合わされたのだ。
休み時間に質問攻めにしたくても、空とグループが別になってしまい、行動を共にすることができなかった。
待ちに待ったランチの時間になれば、ユキはもう我慢できないと空に食らいついて……というのが冒頭のやり取り。
ユキだけでなく、トモミ・シゲも同様痺れをきらしている。
「そうよ、空。昨日何があったの?」
「昨日と言えば……確か空さんは夕方家庭教師の先生と顔合わせをするって言ってましたよね」
シゲが思い出したように言うと、空が大きく首肯した。
「って、ことは……まさかそれが運命の出会いであり、家庭教師の先生が彼氏ってこと!?」
そう尋ねられれば、校庭に咲く桜のごとく空の頬が染まった。
「し、信じられないけど……つまりは一目惚れってことよね?」
「うん。見た瞬間、身体中が痺れるくらいの衝撃を受けて……気づいたときには自分から相手に告白しちゃってた」
「「こ、告白!?」」
「うん。びっくりしたのが相手も同じように私に一目惚れだったみたいで……即座にOKもらっちゃった」
「……」
空はさらりと言ってのけるが、まるで漫画のような出来事に親友たちは言葉も出ない。
いや、例外がいる。シゲだ。
シゲだけはうんうんと頷いて納得している風である。
「わかります、わかりますわ、空さん!私もしんべヱ様を紹介されたときはそうでしたもの!」
「「ええっ!?」」
身近にこんなにも一目惚れ経験者がいるとは。
驚きが大きすぎて、ユキもトモミも返す言葉が見つからない。
あなたたちの驚きはわかります――と、ユキたちに意味深な微笑で伝える。
ややあって、シゲは遠い目で語り出した。
「親同士の紹介だったとはいえ……私もとある料亭で初めて福富屋の御曹司こと、しんべヱ様にお会いした日、空さんと同じようにショックを受けていたんです。まるで雷に撃たれるくらいの……」
「……」
「ショックで頭がぼーっとしたかと思えば、気づいたときにはポケットから取り出して、しんべヱ様のお鼻を噛んでいたんです。しんべヱ様が「ありがとう」とお礼を伝えてくださったとき、感激のあまりその場に立てなくなってしまうほどで……そんな眩暈を覚えた私をやさしく介抱してくださるしんべヱ様……ああ、あのとき甘酸っぱいやりとり……、思い出すだけで胸がキュンキュン切なくなってしまいますわぁ!」
「「そ、そうなんだ……」」
途中、鼻を噛むくだりが今一つ理解できないけど……と首を傾げるユキとトモミなのだった。
「それにしても、びっくりよ。まさか親友中ふたりが一目惚れで、しかも恋人同士になっちゃうなんて!ねぇ、ユキちゃん」
「ほーんと、ほんと。信じられない!いくら第一印象が良くても、よくもまぁ、その場で告白なんて突拍子もないことできるわね」
「私も不思議に思って調べてみたのですが、一目惚れ、つまり本能的に惹かれ合うというのは、一説には遺伝子同士が共鳴しているという科学的な仮説があるみたいですよ」
「遺伝子?共鳴?」
「遺伝子というのは生物を特徴づける設計図のことで、よくDNAという言葉で耳にすることが多く、正式名称はデオキシリボ核酸と言いまして……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って、おシゲちゃん!おシゲちゃんってそんなにサイエンティフィックなキャラだったっけ!?」
「まぁ、まぁ、ユキちゃん。これは現パロなんだし」
「あ、そっか。ま、細かい話はさておき……とにかく一目惚れって言うのがあり得なくもない事象ってことなのは二人を通してわかったわ」
そう言うと、ユキがぼうっと心あらずな空に振り向き直る。
「おめでとう、空。せっかく今日朝イチで学園のイケメンを拝めたのに。彼氏ができて一抜けしたアンタとイケメンを追っかけられないのが残念だわ」
「ありがとう、ユキちゃん」
「んで、アンタの彼氏ってどんな人なの?R大生っていってたけど、写真はある?」
「あるよ」
そう言って、スマートフォンを準備する空をユキは複雑な胸中で見つめていた。
R大学と言えば、どの学部も偏差値六十以上はないと入れない難関大学。
となれば、そこには必然的にガリ勉君たちが集まる。
空がファッションも冴えない、根暗なインドアメガネ男の彼女に収まってしまったのは親友として少し悲しい。
(ま、蓼食う虫も好き好きというし、こればっかりはしょうがないわよね。両想いなら私の口を挟む隙はないし……)
(でも、R大生なら就活でも有利で稼ぎが良いのは間違いないし、未来を見据えれば悪いことばっかりじゃないわよね)
(きっと空の遺伝子はそう言う意味で優れた雄を選んだってことよね、うんうん)
と些か偏った考えではあるが、年齢の割に将来の先々まで見通している現実的なユキは、差し出されたスマートフォンを覗いて息を呑んだ。
左右に並ぶトモミとシゲも瞠目している。
「は!?こ、この人が……あんたの彼氏?」
「うん。素敵な男性 でしょう?」
そう返されれば、首を縦に振らざるを得ないほど、液晶画面に映る男は魅力的だった。
鼻筋の通った彫りの深い端整な顔立ち。
やさしげな瞳に年上ならではの包容力が溢れている。
髪はボサボサで整髪料などつけてなさそうだが、その無造作感がかえって良い。
画面には上半身しか映ってないが、綺麗めの紺のジャケットを羽織った装いからは清潔感をきっちりと感じられた。
スマートフォンを持つユキの手が震えている。
「な、な、な、何よこれ!超イケメンじゃない!?」
「ほんと、ほんと。街を歩いてたら、芸能事務所に声をかけられそうなくらいのイケメンね」
「空さんの捕まえた魚は大きかったですわね。まぁ、私のしんべヱ様ほどではないけど……」
「えへへ。ありがとうみんな」
「えへへ、じゃないわよ!も~う、なんで良い男は皆アンタにばっかり寄ってくるのよ!」
ユキがわしわしと頭を掻く。
中学生時代、その人形のように整った容姿を持つ空は相当モテた。
下駄箱にはラブレターが入っていることは日常茶飯事だったし、校内一の美形と称される男子生徒からも告白されていた。
だからと言って、自身の男性遍歴はそんなに自慢できるものではないが。
まるで火を吐くゴジラのように怒り狂うユキに、空が反論する。
「そうはいうけどさ、モテるっていっても良いことばかりじゃないよ。ユキちゃんも知ってるじゃない?告白されて付き合っても、一週間もたたないうちに相手から別れを切り出されるし……」
(そうだった、そうだった……)
空の悄気る顔を見て、ユキは冷静さを取り戻した。
モテる割にすぐに振られてしまうのも、空の特徴だった。
ある男は「やっぱり胸の大きい子の方がいいや」とヤリ目的だったことをカミングアウトするし、別の男も「ママより素敵な女はいないんだ!」とマザコンぶりを見せつけられた。
またある男は何かに怯えながら「僕はあなたに相応しくない」と言い捨てて去っていく。
「それにさ、ユキちゃんたちが思い描くほど、この三年間は恋人らしいことは……できないと思う」
「え?どういうこと?」
「実は、」
空はどうにもやるせない表情で、昨日の顛末を語り出した。
そう切り出せば、ユキは顔と顔がくっつくくらい、空の方へ前のめりになった。
「やだ、ユキちゃん!そんなに大声で言わないでよ。彼氏だなんてぇ!」
「……」
空の舞い上がっている様子からするに、冗談ではなく本当のようだ。
一刻も早く詳細を聞きたい。
そういうときに限って、午前中は新入生オリエンテーションという名目で体育館やら特別教室へと移動させられて、DVD視聴と教師たちの説明に延々と付き合わされたのだ。
休み時間に質問攻めにしたくても、空とグループが別になってしまい、行動を共にすることができなかった。
待ちに待ったランチの時間になれば、ユキはもう我慢できないと空に食らいついて……というのが冒頭のやり取り。
ユキだけでなく、トモミ・シゲも同様痺れをきらしている。
「そうよ、空。昨日何があったの?」
「昨日と言えば……確か空さんは夕方家庭教師の先生と顔合わせをするって言ってましたよね」
シゲが思い出したように言うと、空が大きく首肯した。
「って、ことは……まさかそれが運命の出会いであり、家庭教師の先生が彼氏ってこと!?」
そう尋ねられれば、校庭に咲く桜のごとく空の頬が染まった。
「し、信じられないけど……つまりは一目惚れってことよね?」
「うん。見た瞬間、身体中が痺れるくらいの衝撃を受けて……気づいたときには自分から相手に告白しちゃってた」
「「こ、告白!?」」
「うん。びっくりしたのが相手も同じように私に一目惚れだったみたいで……即座にOKもらっちゃった」
「……」
空はさらりと言ってのけるが、まるで漫画のような出来事に親友たちは言葉も出ない。
いや、例外がいる。シゲだ。
シゲだけはうんうんと頷いて納得している風である。
「わかります、わかりますわ、空さん!私もしんべヱ様を紹介されたときはそうでしたもの!」
「「ええっ!?」」
身近にこんなにも一目惚れ経験者がいるとは。
驚きが大きすぎて、ユキもトモミも返す言葉が見つからない。
あなたたちの驚きはわかります――と、ユキたちに意味深な微笑で伝える。
ややあって、シゲは遠い目で語り出した。
「親同士の紹介だったとはいえ……私もとある料亭で初めて福富屋の御曹司こと、しんべヱ様にお会いした日、空さんと同じようにショックを受けていたんです。まるで雷に撃たれるくらいの……」
「……」
「ショックで頭がぼーっとしたかと思えば、気づいたときにはポケットから取り出して、しんべヱ様のお鼻を噛んでいたんです。しんべヱ様が「ありがとう」とお礼を伝えてくださったとき、感激のあまりその場に立てなくなってしまうほどで……そんな眩暈を覚えた私をやさしく介抱してくださるしんべヱ様……ああ、あのとき甘酸っぱいやりとり……、思い出すだけで胸がキュンキュン切なくなってしまいますわぁ!」
「「そ、そうなんだ……」」
途中、鼻を噛むくだりが今一つ理解できないけど……と首を傾げるユキとトモミなのだった。
「それにしても、びっくりよ。まさか親友中ふたりが一目惚れで、しかも恋人同士になっちゃうなんて!ねぇ、ユキちゃん」
「ほーんと、ほんと。信じられない!いくら第一印象が良くても、よくもまぁ、その場で告白なんて突拍子もないことできるわね」
「私も不思議に思って調べてみたのですが、一目惚れ、つまり本能的に惹かれ合うというのは、一説には遺伝子同士が共鳴しているという科学的な仮説があるみたいですよ」
「遺伝子?共鳴?」
「遺伝子というのは生物を特徴づける設計図のことで、よくDNAという言葉で耳にすることが多く、正式名称はデオキシリボ核酸と言いまして……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って、おシゲちゃん!おシゲちゃんってそんなにサイエンティフィックなキャラだったっけ!?」
「まぁ、まぁ、ユキちゃん。これは現パロなんだし」
「あ、そっか。ま、細かい話はさておき……とにかく一目惚れって言うのがあり得なくもない事象ってことなのは二人を通してわかったわ」
そう言うと、ユキがぼうっと心あらずな空に振り向き直る。
「おめでとう、空。せっかく今日朝イチで学園のイケメンを拝めたのに。彼氏ができて一抜けしたアンタとイケメンを追っかけられないのが残念だわ」
「ありがとう、ユキちゃん」
「んで、アンタの彼氏ってどんな人なの?R大生っていってたけど、写真はある?」
「あるよ」
そう言って、スマートフォンを準備する空をユキは複雑な胸中で見つめていた。
R大学と言えば、どの学部も偏差値六十以上はないと入れない難関大学。
となれば、そこには必然的にガリ勉君たちが集まる。
空がファッションも冴えない、根暗なインドアメガネ男の彼女に収まってしまったのは親友として少し悲しい。
(ま、蓼食う虫も好き好きというし、こればっかりはしょうがないわよね。両想いなら私の口を挟む隙はないし……)
(でも、R大生なら就活でも有利で稼ぎが良いのは間違いないし、未来を見据えれば悪いことばっかりじゃないわよね)
(きっと空の遺伝子はそう言う意味で優れた雄を選んだってことよね、うんうん)
と些か偏った考えではあるが、年齢の割に将来の先々まで見通している現実的なユキは、差し出されたスマートフォンを覗いて息を呑んだ。
左右に並ぶトモミとシゲも瞠目している。
「は!?こ、この人が……あんたの彼氏?」
「うん。素敵な
そう返されれば、首を縦に振らざるを得ないほど、液晶画面に映る男は魅力的だった。
鼻筋の通った彫りの深い端整な顔立ち。
やさしげな瞳に年上ならではの包容力が溢れている。
髪はボサボサで整髪料などつけてなさそうだが、その無造作感がかえって良い。
画面には上半身しか映ってないが、綺麗めの紺のジャケットを羽織った装いからは清潔感をきっちりと感じられた。
スマートフォンを持つユキの手が震えている。
「な、な、な、何よこれ!超イケメンじゃない!?」
「ほんと、ほんと。街を歩いてたら、芸能事務所に声をかけられそうなくらいのイケメンね」
「空さんの捕まえた魚は大きかったですわね。まぁ、私のしんべヱ様ほどではないけど……」
「えへへ。ありがとうみんな」
「えへへ、じゃないわよ!も~う、なんで良い男は皆アンタにばっかり寄ってくるのよ!」
ユキがわしわしと頭を掻く。
中学生時代、その人形のように整った容姿を持つ空は相当モテた。
下駄箱にはラブレターが入っていることは日常茶飯事だったし、校内一の美形と称される男子生徒からも告白されていた。
だからと言って、自身の男性遍歴はそんなに自慢できるものではないが。
まるで火を吐くゴジラのように怒り狂うユキに、空が反論する。
「そうはいうけどさ、モテるっていっても良いことばかりじゃないよ。ユキちゃんも知ってるじゃない?告白されて付き合っても、一週間もたたないうちに相手から別れを切り出されるし……」
(そうだった、そうだった……)
空の悄気る顔を見て、ユキは冷静さを取り戻した。
モテる割にすぐに振られてしまうのも、空の特徴だった。
ある男は「やっぱり胸の大きい子の方がいいや」とヤリ目的だったことをカミングアウトするし、別の男も「ママより素敵な女はいないんだ!」とマザコンぶりを見せつけられた。
またある男は何かに怯えながら「僕はあなたに相応しくない」と言い捨てて去っていく。
「それにさ、ユキちゃんたちが思い描くほど、この三年間は恋人らしいことは……できないと思う」
「え?どういうこと?」
「実は、」
空はどうにもやるせない表情で、昨日の顛末を語り出した。
