わたしの軍師さま~きり丸との確執編~
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周囲に立ち上っていた煙が晴れると、庄兵衛とその手下たちの男は一様にある方角を向いていた。
男たちから数間離れた場所で、天鬼は慎太郎を担ぎ上げている。
「だ、誰だお前は!?」
頭から足先まで白一色の装束で覆った天鬼は、夜の闇にくっきりと輪郭を刻んでいる。
面妖な人物の登場に、只者ではないと警戒がどの顔にもあらわれている。
唯一、隼丸 という忍者だけは臆せず、針のように鋭い目つきで睨んできた。
天鬼はざっと周りを一瞥し、言った。
「悪いが、悪党に名乗る名は持ち合わせていない……庄兵衛と言ったな、お前の悪事にはもう調べがついている。慎太郎殿に渡した証文ならここにあるぞ。随分と手の込んだ手妻 を仕掛けたようだな」
「な、何を訳のわからんことを!」
「しらばっくれても無駄だ。証文をじっくり検分してみれば、金額を記す付近に、わずかにだが糊が付着していた。おそらくその部分だけ紙を二重にしていたのだろう。証文自体、やけに厚ぼったい紙なのは、上紙を貼っていることを悟られないようにするためだな」
天鬼に種明かしをされれば、庄兵衛の狸顔がみるみる真っ赤に染まった。
「ええい、お前ら、何をぐずぐずしておる!とっととあいつを殺れ!証文を取り返せ!」
天鬼は慎太郎を背後に回し、言った。
「慎太郎殿、ここから一歩も動かぬように」
庄兵衛の言葉を合図として、匕首 を握った男たちが猛然と走りかかってくる。
天鬼は直ちに木刀を握り、八双に構えた。
五人の男たちが扇形に広がり、秒間開けて次々に飛び掛かってくる。
いち早く突撃してきた右側の男を袈裟斬りで仕留めたものの、間髪入れずに左側から匕首 が振りかざされる。
しかし、天鬼は身を翻して避けた。
ガラ空きとなった背中に一撃を送り込めば、骨が折れた感触があった。
男の身体がガクンと崩れ落ちる。
息つく暇もなく、残りの三人が踏み込んできたが、それぞれの首や胴を的確に打ち込んで事なきを得た。
「マジかよ……」
残りの手下たちはすっかり戦意喪失している。
庄兵衛にぶら下げられた給金と比べると今の仕事は割に合わない、と思ったらしく、じりじりと後退り、やがて逃げ出した。
だが、そんな我が身可愛い彼らに手を下したのは、庄兵衛に仕える忍者・隼丸だった。
「無様なやつらだ」
隼丸の打った苦無が手下たちの腕や脚に突き刺さった。
男たちはその場で呻いている。
隼丸が刀をゆらりと構えた。
上背がそれほどなく細身な男だが、凄まじい殺気を放っている。
「貴公……かなりの使い手とお見受けする。真剣は使わんのか?」
「生憎、殺生は好まぬ」
「フン、その澄ました態度、いつまでもつかな」
今度は青眼に構えた。
隼丸も同じように構える。
正対する白と黒の忍者を、緊迫した空気が包んだ。
両者ひとしきり睨み合っていたが、風がそよぎ木立がざわめいた瞬間、隼丸が斬りかかってきた。
天鬼は正面からの一撃を受け返したものの、木刀にヒビが入る。
立て続けに来た横薙ぎを何とか打ち払えたが、真剣には敵わず、木刀は真っ二つに折れた。
隼丸が鼻をならす。
勝機を確信したのか、大きく踏み込んで、刀を振り下ろしてくる。
――先程よりも速い。
天鬼は素早く斜めに跳躍して避けたが、相手の刃が二の腕を掠った。
身体を素早く切り返し、隼丸の背後を捉えると、懐からあるものを取り出して、手裏剣代わりに打つ。
「ぐはっ」
低い呻きが漏れる。
隼丸が前にのめり、横転するように倒れた。
意識を失っている。
頸部に当てたのは出席簿だが、鋼仕込みだから威力は通常の手裏剣に相当する。
「さて」
天鬼がくるりと振り返る。
眼が合えば、庄兵衛は情けないことに腰を抜かしたらしい。
地面に尻もちしていた。
「わ、儂が悪かった!許してくれ!頼む……!」
「お前はこれまで数々の悪事を働いたそうだな。これまで身売りされた者たちのことを考えると、やはり裁きが必要だな」
殺すつもりはないが、威嚇用に匕首を拾う。
それを喉につきつけるだけで、庄兵衛は恐怖に達してしまい、白目を剥いて気絶した。
男たちから数間離れた場所で、天鬼は慎太郎を担ぎ上げている。
「だ、誰だお前は!?」
頭から足先まで白一色の装束で覆った天鬼は、夜の闇にくっきりと輪郭を刻んでいる。
面妖な人物の登場に、只者ではないと警戒がどの顔にもあらわれている。
唯一、
天鬼はざっと周りを一瞥し、言った。
「悪いが、悪党に名乗る名は持ち合わせていない……庄兵衛と言ったな、お前の悪事にはもう調べがついている。慎太郎殿に渡した証文ならここにあるぞ。随分と手の込んだ
「な、何を訳のわからんことを!」
「しらばっくれても無駄だ。証文をじっくり検分してみれば、金額を記す付近に、わずかにだが糊が付着していた。おそらくその部分だけ紙を二重にしていたのだろう。証文自体、やけに厚ぼったい紙なのは、上紙を貼っていることを悟られないようにするためだな」
天鬼に種明かしをされれば、庄兵衛の狸顔がみるみる真っ赤に染まった。
「ええい、お前ら、何をぐずぐずしておる!とっととあいつを殺れ!証文を取り返せ!」
天鬼は慎太郎を背後に回し、言った。
「慎太郎殿、ここから一歩も動かぬように」
庄兵衛の言葉を合図として、
天鬼は直ちに木刀を握り、八双に構えた。
五人の男たちが扇形に広がり、秒間開けて次々に飛び掛かってくる。
いち早く突撃してきた右側の男を袈裟斬りで仕留めたものの、間髪入れずに左側から
しかし、天鬼は身を翻して避けた。
ガラ空きとなった背中に一撃を送り込めば、骨が折れた感触があった。
男の身体がガクンと崩れ落ちる。
息つく暇もなく、残りの三人が踏み込んできたが、それぞれの首や胴を的確に打ち込んで事なきを得た。
「マジかよ……」
残りの手下たちはすっかり戦意喪失している。
庄兵衛にぶら下げられた給金と比べると今の仕事は割に合わない、と思ったらしく、じりじりと後退り、やがて逃げ出した。
だが、そんな我が身可愛い彼らに手を下したのは、庄兵衛に仕える忍者・隼丸だった。
「無様なやつらだ」
隼丸の打った苦無が手下たちの腕や脚に突き刺さった。
男たちはその場で呻いている。
隼丸が刀をゆらりと構えた。
上背がそれほどなく細身な男だが、凄まじい殺気を放っている。
「貴公……かなりの使い手とお見受けする。真剣は使わんのか?」
「生憎、殺生は好まぬ」
「フン、その澄ました態度、いつまでもつかな」
今度は青眼に構えた。
隼丸も同じように構える。
正対する白と黒の忍者を、緊迫した空気が包んだ。
両者ひとしきり睨み合っていたが、風がそよぎ木立がざわめいた瞬間、隼丸が斬りかかってきた。
天鬼は正面からの一撃を受け返したものの、木刀にヒビが入る。
立て続けに来た横薙ぎを何とか打ち払えたが、真剣には敵わず、木刀は真っ二つに折れた。
隼丸が鼻をならす。
勝機を確信したのか、大きく踏み込んで、刀を振り下ろしてくる。
――先程よりも速い。
天鬼は素早く斜めに跳躍して避けたが、相手の刃が二の腕を掠った。
身体を素早く切り返し、隼丸の背後を捉えると、懐からあるものを取り出して、手裏剣代わりに打つ。
「ぐはっ」
低い呻きが漏れる。
隼丸が前にのめり、横転するように倒れた。
意識を失っている。
頸部に当てたのは出席簿だが、鋼仕込みだから威力は通常の手裏剣に相当する。
「さて」
天鬼がくるりと振り返る。
眼が合えば、庄兵衛は情けないことに腰を抜かしたらしい。
地面に尻もちしていた。
「わ、儂が悪かった!許してくれ!頼む……!」
「お前はこれまで数々の悪事を働いたそうだな。これまで身売りされた者たちのことを考えると、やはり裁きが必要だな」
殺すつもりはないが、威嚇用に匕首を拾う。
それを喉につきつけるだけで、庄兵衛は恐怖に達してしまい、白目を剥いて気絶した。
