一触即発⁉な家庭訪問
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地球上のありとあらゆるものが茜の光に照らされる夕暮れの時間。
そこかしこの家から湯気がもくもくと立ち上り、食欲をそそる香ばしい匂いが家じゅうを満たしている。
勿論、とある町の長屋の一角からも――
「よし。今日も完璧だな」
お玉でひと掬いした出汁を啜れば、半助の顔に満面の笑みが広がる。
半助はきり丸に頼まれた子守、内職、犬の散歩のバイトを終わらせれば、休む間もなく夕餉の支度にとりかからなければならなかった。
同居人のふたり、空ときり丸は夕方まで外に働きに行っているからだ。
炭櫃 からパチパチと炭の燃える音が響く。
そこでは隣のおばちゃんからお裾分けしてもらった、獲れたばかりの岩魚 を串焼きにしていた。
裏返ししたばかりのそれに焦げがつくまで焼けば、食べごろだろう。
「汁物よし、焼き物よし、あとは……あ、漬物を切るのを忘れていた!」
半助は急いで俎板 を広げて、小甕から薄黄色に染まった沢庵を一本取り出した。
トントンと小気味良い音を響かせながら、愛しい人たちのことを思う。
(空、きり丸……きっと腹を空かせて帰ってくるだろうな……今日は朝早くにここを発ったし……)
半助が最後の一枚を慎重に切り終えたときだった。
まるで鼻先からゴールする走馬のようにきり丸が敷居を跨いできた。
「ただいまぁ!」
「おかえり」
続いて、行儀よく手で簾をめくりながら、空が入ってくる。
「半助さん、ただいま」
「うん、おかえり」
これで夕餉の役者は揃った。
全員帰って来たことだし、開けっ放しの木戸を締めようと思ったときだった。
「どこんじょぉぉぉ!!!」
鼓膜を突き破りそうなほどの馬鹿でかい声だった。
この声主は雄鶏の鶏冠 を連想させる髪型の男。
額には白い鉢巻を巻いている。
目に入れるなり、半助はうっかり包丁を落としそうになった。
「お、大木先生!?」
「久しぶりだな、土井先生。今日はここに厄介になるぞ!」
「はっ?厄介とは……いったい?」
思いがけない来客。
どういうことだ?と、半助は空たちに目顔で問う。
「じ、実は今日のバイトで偶々大木先生にお会いまして……」
「そうそう。そしたら、帰りがけに今日はここへ泊まるっていきなり言うもんだから……ねぇ、空さん」
「うん」
そう言って、空ときり丸は視線を合わせる。
ふたりの戸惑った様子からするに、大木が突然言い出したのは本当なのだろう。
そういう突発的に行動するところが、少し学園長に似ていると思った。
「はぁ、うちに泊まるのは全然構いませんが……それにしても急に来たからびっくりしましたよ」
と家主として普通の感想を零しただけなのに、大木は過剰に反応した。
「なんだなんだ!はるばる杭瀬村からやってきたというのに……文句あるのか!?」
そう言うと、顔と顔がくっつきそうな距離にまで詰め寄られた挙句、据わった眼で睨んできた。
「いえ、そんな、文句だなんて……とんでもない!」
「なら、いい。今日はあちこち町を回っていたんだが、ふと忍術学園のことが気になってのう。元教職員としてかわいい 後輩のお前がきちんと教師を務められているか、じっくり話を聞こうと思っておる。早速ご相伴にあずかるぞ」
そう言うと、大木はずかずかと居間へ上がり込んでしまった。
炭櫃 の前でどかっと胡坐をかけば、なんだか、自分よりも家長らしい振舞である。
「……」
このもやもやした感情はなんだろう。
口ではかわいい後輩なんて言っているが、態度は憮然としているし……。
親睦を深めにきたというよりは、道場破りをしにきたという方がしっくりくる。
「……」
半助はしばらく物申したい顔で大木を眺めていたが、
「ああ、腹減った……土井先生、ご飯できてますか?」
と草鞋を脱ぎ、用意していたすすぎで足を洗うきり丸にそう言われて、はたと我に返った。
「ああ、できてるよ。すぐにご飯にしよう。隣のおばちゃんから美味しい岩魚を頂いたよ」
「やったぁ!」と顔を綻ばせるきり丸と空を見れば、どうして大木が我が家を訪れたかなんて、考える時間がもったいない。
今はふたりの腹を満たすのが最優先だと、半助は配膳を急いだ。
そこかしこの家から湯気がもくもくと立ち上り、食欲をそそる香ばしい匂いが家じゅうを満たしている。
勿論、とある町の長屋の一角からも――
「よし。今日も完璧だな」
お玉でひと掬いした出汁を啜れば、半助の顔に満面の笑みが広がる。
半助はきり丸に頼まれた子守、内職、犬の散歩のバイトを終わらせれば、休む間もなく夕餉の支度にとりかからなければならなかった。
同居人のふたり、空ときり丸は夕方まで外に働きに行っているからだ。
そこでは隣のおばちゃんからお裾分けしてもらった、獲れたばかりの
裏返ししたばかりのそれに焦げがつくまで焼けば、食べごろだろう。
「汁物よし、焼き物よし、あとは……あ、漬物を切るのを忘れていた!」
半助は急いで
トントンと小気味良い音を響かせながら、愛しい人たちのことを思う。
(空、きり丸……きっと腹を空かせて帰ってくるだろうな……今日は朝早くにここを発ったし……)
半助が最後の一枚を慎重に切り終えたときだった。
まるで鼻先からゴールする走馬のようにきり丸が敷居を跨いできた。
「ただいまぁ!」
「おかえり」
続いて、行儀よく手で簾をめくりながら、空が入ってくる。
「半助さん、ただいま」
「うん、おかえり」
これで夕餉の役者は揃った。
全員帰って来たことだし、開けっ放しの木戸を締めようと思ったときだった。
「どこんじょぉぉぉ!!!」
鼓膜を突き破りそうなほどの馬鹿でかい声だった。
この声主は雄鶏の
額には白い鉢巻を巻いている。
目に入れるなり、半助はうっかり包丁を落としそうになった。
「お、大木先生!?」
「久しぶりだな、土井先生。今日はここに厄介になるぞ!」
「はっ?厄介とは……いったい?」
思いがけない来客。
どういうことだ?と、半助は空たちに目顔で問う。
「じ、実は今日のバイトで偶々大木先生にお会いまして……」
「そうそう。そしたら、帰りがけに今日はここへ泊まるっていきなり言うもんだから……ねぇ、空さん」
「うん」
そう言って、空ときり丸は視線を合わせる。
ふたりの戸惑った様子からするに、大木が突然言い出したのは本当なのだろう。
そういう突発的に行動するところが、少し学園長に似ていると思った。
「はぁ、うちに泊まるのは全然構いませんが……それにしても急に来たからびっくりしましたよ」
と家主として普通の感想を零しただけなのに、大木は過剰に反応した。
「なんだなんだ!はるばる杭瀬村からやってきたというのに……文句あるのか!?」
そう言うと、顔と顔がくっつきそうな距離にまで詰め寄られた挙句、据わった眼で睨んできた。
「いえ、そんな、文句だなんて……とんでもない!」
「なら、いい。今日はあちこち町を回っていたんだが、ふと忍術学園のことが気になってのう。元教職員として
そう言うと、大木はずかずかと居間へ上がり込んでしまった。
「……」
このもやもやした感情はなんだろう。
口ではかわいい後輩なんて言っているが、態度は憮然としているし……。
親睦を深めにきたというよりは、道場破りをしにきたという方がしっくりくる。
「……」
半助はしばらく物申したい顔で大木を眺めていたが、
「ああ、腹減った……土井先生、ご飯できてますか?」
と草鞋を脱ぎ、用意していたすすぎで足を洗うきり丸にそう言われて、はたと我に返った。
「ああ、できてるよ。すぐにご飯にしよう。隣のおばちゃんから美味しい岩魚を頂いたよ」
「やったぁ!」と顔を綻ばせるきり丸と空を見れば、どうして大木が我が家を訪れたかなんて、考える時間がもったいない。
今はふたりの腹を満たすのが最優先だと、半助は配膳を急いだ。
