Never let you go....?
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「おおっ!」
半助が感嘆の声を漏らす。
子どもたちの膂力 には目を瞠るものがあった。
筋トレで培った虎若のずば抜けた腕力や元々のしんべヱの怪力は知っていたが、他の者も予想以上に健闘している。
そうでないと、目の前で少しずつ引き千切れていく鼻水の説明がつかない。
教科はどのクラスよりもどんじりだけど、実践に強い一年は組は体力だけはピカイチなのだ。
(みんな、ちゃんと成長しているなぁ……!)
今日は特に涙腺の緩い半助とは対照的に、空は前後からの強烈な張力に耐えるのに必死だった。
(ぐ、ぐるじい……)
それでも、半助との距離が徐々に開いていくのを見れば、何とか持ちこたえることができた。
(みんな……頑張って!)
(でも、なんかひんやりするなぁ……て、ああ!)
身体のある一点を見て、空は顔を引きつらせる。
肩のあたりがやけにスース―すると思ったら、いつの間にか服が破れていたのだ。
一見、両者の力は拮抗しているかに思われたが、わずかに半助側の力が勝っている。
そのため、前方からの張力に空の服の方が持ちこたえられなくなり、ついには破れてしまったのだ。
裂け目は徐々に大きくなっていく。
制服だけなら仕方ないと目を瞑るつもりでいたが、鼻水が浸透した肌着まで千切れかかっているのを見れば、このまま手をこまねいているわけにもいかない。
空が真後ろにいる庄左エ門に慌てて言った。
「庄左エ門君、おねがい!今すぐ引っ張るのやめて!後ろのみんなにも伝えて!」
だが、庄左エ門は聞く耳持たず、
「何言ってるんですか!せっかく上手くいっているのに、ここに来てそれはできません!」
と断られた。
(ええ!ちょっと待って、このままじゃ……)
ここから起こりうる展開に空は焦りを募らせる。
だが、悪いことは重なるもので、ここに来て乱太郎が
「みんな!あともう少しだ!頑張れぇぇぇ!」
と発破をかけてきた。
それを受けて、選手全員が「オーエス、オーエス!」の掛け声とともに最後の力を振り絞る。
ネバァァァァァ……!
ビリビリビリィィィ!
二つの引き裂き音とともに、空と半助の身体が完全に離れた。
ドスン!
それによって、綱引き参加者全員がそれぞれ力をかけた方向に尻もちをついてしまう。
「いってぇ!」
「いててて!」
「いったぁ!」
痛みに呻く声が次々にあがる中、誰よりも先に起き上がったのは半助だ。
身体の四肢を動かし、自由になったことを確認している。
「おお、空君と身体が離れたぞ!ありがとう、乱太郎。これで心おきなく便所に行けるし、破廉恥教師と後ろ指を指されずに済む。いや~よかった、よかった」
涙ながらに喜ぶ半助は立案者の乱太郎に対し、手を握ってまで感謝の意を表した。
だが、乱太郎は黙って空の方を見ている。
しかも、その表情はあまり芳しくない。
血の気が失せ、全身がわなないている。
「どうしたんだ、乱太郎?」
「空さん、ごめんなさい!」
「ん?なんで空君に謝ってるんだ?」
半助が不思議そうに空の方を見た。
「いっ!?」
次の瞬間、半助の目玉が飛び出そうになる。
「……」
空は上半身に何も着ていなかった。
恥ずかしそうに顔を赤らめ俯いている。
諸肌 が露出し、腕だけで胸を隠している姿は、何とも艶めかしい。
カーっと半助の体温が急上昇する。
慌てて明後日の方を向き、自分の上着を脱いだ。
未だ鼻水はついているが、着られないことはない。
それに、いつまでもそんな恰好をさせるわけにはいかない――という判断のもとに動いた。
「こ、これを空君に渡してくれっ」
「は、はい!」
隣にいたきり丸も状況を呑み込み、えらいこっちゃという顔で半助から着物を受け取る。
そのときだった。
「一年は組の皆さん、一体何事ですか!?うるさすぎて授業ができないじゃないですか!」
教室の戸口に現れた一年い組の担任、安藤夏之丞から激しい怒号が飛ぶ。
授業中に教室で綱引きなんてやっていれば、その喧 しさにクレームを入れたくなるのは当然だろう。
安藤はこの一喝だけでは気がすまないようで、フンと鼻を突き出し、目を瞑るという偉ぶった態度でなおも続けた。
「全く……成績優秀ない組に比べ、は組ときたら、ほ~んと迷惑ばかりかけて……こうして授業中の乱痴気騒ぎを許すだけでなく、しょっちゅう事件に巻き込まれるわ、変な人間を忍術学園に連れてくるわ……どれもこれも、担任である土井先生の監督不行き届きですかねぇ」
そう言って、嫌味ったらしく半助を見た。
ここでようやく安藤は違和感に気づく。
「ん?土井先生……あなた、どうして教室で制服を脱いでいるのですか?あれ……?」
違和感は徐々に膨らみ、安藤の視線が半助からせわしく移動する。
目の端に捉えていたきり丸が半助の服を抱えていて、さらにその奥に居る人物の佇まいを見て――
刹那、安藤の身体が石のように硬直する。
「……」
神聖な教室にミスマッチな半裸の女性――という空前絶後の光景を視界に収めたときの衝撃といったらもう。
この安藤のショックが影響を与えたのか知らないが、同時刻に太陽系で名もなき惑星が大爆発していたのだった。
「……」
安藤が絶句している間に、空はきり丸から服を手渡され、手早く羽織った。
頬がじんわりと熱い。
綱引きの最中に服が破れていることに気づいたのは自分だけのようだったから、終わった直後にすぐ胸を隠して間一髪は免れたけど、恥ずかしいことこの上ない。
(土井先生に見られてないよね……)
空はチラリと半助を見る。
すると、いきなり目が合ってしまい、慌てて両者目線をそらす。
空もひどいが、それ以上に半助は狼狽していて、耳まで真っ赤だった。
(と、とにかく無事に空君と身体が離れてめでたしめでたし、かな?)
(ちょっともったいないような気もするけど……)
なんてラブコメ特有の甘酸っぱい空気に身を浸している場合ではなかった。
気付けば、安藤が剣吞な目つきで睨んでくる。
互いに制服を脱ぎ合って、その上片方は肌着すら身に着けていない。
今の空と半助を見れば、安藤の脳内で勝手にストーリーが作られていくのが容易に想像できた。
「土井先生……」
絶対零度の冷え切った声。
安藤がこの状況を曲解しているのが見て取れる。
「あ、安藤先生……お騒がせしてすみませんでした。しかし、こういうことになったのには理由がありまして、疚しいことは一切なく、」
だが、半助の言葉はここで途切れてしまう。
意外なことに、安藤が突如として号泣しはじめたのだ。
「あ、安藤先生!?」
「うぅぅ……土井先生……私は悲しいですっ。初めて忍術学園で会ってからというもの……なんとなくあなたは今まで苦労の多い人生を歩んできたのだと同情し、陰ながらに見守ってきました。最初はぎこちなかったけど、生徒と交流していくうちに、いつしか教師らしい顔つきになっていて……その成長を近くで感じ取り、我が喜びとしていました」
「……」
「それなのに……空さんという、か弱き女性職員を生徒の前で手籠めにしていたなんて、言語道断!今日、私はあなたにどれだけ失望したことか……こんな嘆かわしいこと……忍術学園では絶対に起こってはいけなかった。これは、全て私の責任。ならば……」
そこまで言って、急に安藤の顔が引き締まった。
「かくなる上は、あなたを殺して私も死にます!これが私の責任の取り方です。土井先生、覚悟ぉぉぉっ!」
そう言って、懐に隠していた短刀を上段から一気に振りかざしてきた。
半助がそれを真剣白刃取りで受け止める。
「わーわー、安藤先生待ってください!私は安藤先生が思うようなことは一切していません!」
「この期に及んで、何を言う!絶対に許さんそ(酸素 )、窒素 、水素 !この色情狂の破廉恥教師めぇぇぇ!」
周囲が鼻白 むようなダジャレを炸裂させながら、安藤主導の戦いは続く。
「安藤先生、落ち着いてくださーい!」
「うるさい、うるさい、うるさぁい!あなたを殺して私も死ぬぅぅぅ!」
今の安藤の錯乱ぶりといったら。
まるで、痴情のもつれを経て無理心中を強要するメロドラマの登場人物のようである。
「……」
先程までのラブコメの雰囲気が跡形もなく消失し、一気に修羅場と化した一年は組の教室。
口を挟む隙がないほどの驚きの連続だった忍たまたちがようやく言葉を発した。
「よ、よくわかんないけど、安藤先生にあんなに怒られるなんて、土井先生も大変だね」
「うん」
生徒たちが何ともいえない表情で事の成り行きを見守る中、しんべヱだけは空に近づいていく。
自分の鼻水のせいで、空に迷惑をかけたことに責任を感じていたのだ。
「あのぅ、空さん……ボクのせいで大切な服が破れちゃってごめんなさい~」
「気にしないで、しんべヱ君。私なら全然大丈夫だから」
空が微笑みで返した。
やけに弾んだ声と笑顔なのが、しんべヱには引っかかる。
「あれ?空さん、なんだかすごく嬉しそうですね~」
「そ、そう?そんなこと、ないけど……」
誤魔化すように笑う空だったが、実のところはしんべヱの言う通り。
内心では、宙に浮いてしまいそうなほどの嬉しさに沸いていたのだ。
(あんな姿見られたのは恥ずかしいけど……でも、そのおかげで土井先生の服貸してもらえちゃった)
(十分に堪能してから、洗濯して返そうっと!)
半助と安藤の狂騒で教室中が騒然となる中、空だけが相好を崩している。
恋の街道を猛爆進中の乙女は、今日ほどしんべヱの鼻水に感謝したことはないだろう。
顔から火が吹き出そうなほどの恥ずかしい思いをしたが、それと引き換えに半助の着物をゲットできたので、結果オーライ。
怪我の功名というやつだ。
(土井先生の服に包まれるなんて、幸せ……。ああ、良い匂いがする……)
そんな幸せに浸る主人公の同空間でしょうもない争いは続く。
「この破廉恥教師ー!待てぇい!待たんか ー!」
などと言いながら、安藤は(どこから取り出したのかは知らないが)担架をかついでいる。
くだらないダジャレを連発する安藤。
結局、破廉恥教師呼ばわりされてしまう半助。
以上のふたりによるしょうもないイタチごっこ。
この話のラストを飾るのには相応しいのかもしれない。
「うわぁ、こんな結末、絶対に納得いか ーん!!」
そう言う半助の手に握っているのは……いつ海で漁ってきたのかと首を傾げたくなる、イカ。
おあとがよろしいようで。
半助が感嘆の声を漏らす。
子どもたちの
筋トレで培った虎若のずば抜けた腕力や元々のしんべヱの怪力は知っていたが、他の者も予想以上に健闘している。
そうでないと、目の前で少しずつ引き千切れていく鼻水の説明がつかない。
教科はどのクラスよりもどんじりだけど、実践に強い一年は組は体力だけはピカイチなのだ。
(みんな、ちゃんと成長しているなぁ……!)
今日は特に涙腺の緩い半助とは対照的に、空は前後からの強烈な張力に耐えるのに必死だった。
(ぐ、ぐるじい……)
それでも、半助との距離が徐々に開いていくのを見れば、何とか持ちこたえることができた。
(みんな……頑張って!)
(でも、なんかひんやりするなぁ……て、ああ!)
身体のある一点を見て、空は顔を引きつらせる。
肩のあたりがやけにスース―すると思ったら、いつの間にか服が破れていたのだ。
一見、両者の力は拮抗しているかに思われたが、わずかに半助側の力が勝っている。
そのため、前方からの張力に空の服の方が持ちこたえられなくなり、ついには破れてしまったのだ。
裂け目は徐々に大きくなっていく。
制服だけなら仕方ないと目を瞑るつもりでいたが、鼻水が浸透した肌着まで千切れかかっているのを見れば、このまま手をこまねいているわけにもいかない。
空が真後ろにいる庄左エ門に慌てて言った。
「庄左エ門君、おねがい!今すぐ引っ張るのやめて!後ろのみんなにも伝えて!」
だが、庄左エ門は聞く耳持たず、
「何言ってるんですか!せっかく上手くいっているのに、ここに来てそれはできません!」
と断られた。
(ええ!ちょっと待って、このままじゃ……)
ここから起こりうる展開に空は焦りを募らせる。
だが、悪いことは重なるもので、ここに来て乱太郎が
「みんな!あともう少しだ!頑張れぇぇぇ!」
と発破をかけてきた。
それを受けて、選手全員が「オーエス、オーエス!」の掛け声とともに最後の力を振り絞る。
ネバァァァァァ……!
ビリビリビリィィィ!
二つの引き裂き音とともに、空と半助の身体が完全に離れた。
ドスン!
それによって、綱引き参加者全員がそれぞれ力をかけた方向に尻もちをついてしまう。
「いってぇ!」
「いててて!」
「いったぁ!」
痛みに呻く声が次々にあがる中、誰よりも先に起き上がったのは半助だ。
身体の四肢を動かし、自由になったことを確認している。
「おお、空君と身体が離れたぞ!ありがとう、乱太郎。これで心おきなく便所に行けるし、破廉恥教師と後ろ指を指されずに済む。いや~よかった、よかった」
涙ながらに喜ぶ半助は立案者の乱太郎に対し、手を握ってまで感謝の意を表した。
だが、乱太郎は黙って空の方を見ている。
しかも、その表情はあまり芳しくない。
血の気が失せ、全身がわなないている。
「どうしたんだ、乱太郎?」
「空さん、ごめんなさい!」
「ん?なんで空君に謝ってるんだ?」
半助が不思議そうに空の方を見た。
「いっ!?」
次の瞬間、半助の目玉が飛び出そうになる。
「……」
空は上半身に何も着ていなかった。
恥ずかしそうに顔を赤らめ俯いている。
カーっと半助の体温が急上昇する。
慌てて明後日の方を向き、自分の上着を脱いだ。
未だ鼻水はついているが、着られないことはない。
それに、いつまでもそんな恰好をさせるわけにはいかない――という判断のもとに動いた。
「こ、これを空君に渡してくれっ」
「は、はい!」
隣にいたきり丸も状況を呑み込み、えらいこっちゃという顔で半助から着物を受け取る。
そのときだった。
「一年は組の皆さん、一体何事ですか!?うるさすぎて授業ができないじゃないですか!」
教室の戸口に現れた一年い組の担任、安藤夏之丞から激しい怒号が飛ぶ。
授業中に教室で綱引きなんてやっていれば、その
安藤はこの一喝だけでは気がすまないようで、フンと鼻を突き出し、目を瞑るという偉ぶった態度でなおも続けた。
「全く……成績優秀ない組に比べ、は組ときたら、ほ~んと迷惑ばかりかけて……こうして授業中の乱痴気騒ぎを許すだけでなく、しょっちゅう事件に巻き込まれるわ、変な人間を忍術学園に連れてくるわ……どれもこれも、担任である土井先生の監督不行き届きですかねぇ」
そう言って、嫌味ったらしく半助を見た。
ここでようやく安藤は違和感に気づく。
「ん?土井先生……あなた、どうして教室で制服を脱いでいるのですか?あれ……?」
違和感は徐々に膨らみ、安藤の視線が半助からせわしく移動する。
目の端に捉えていたきり丸が半助の服を抱えていて、さらにその奥に居る人物の佇まいを見て――
刹那、安藤の身体が石のように硬直する。
「……」
神聖な教室にミスマッチな半裸の女性――という空前絶後の光景を視界に収めたときの衝撃といったらもう。
この安藤のショックが影響を与えたのか知らないが、同時刻に太陽系で名もなき惑星が大爆発していたのだった。
「……」
安藤が絶句している間に、空はきり丸から服を手渡され、手早く羽織った。
頬がじんわりと熱い。
綱引きの最中に服が破れていることに気づいたのは自分だけのようだったから、終わった直後にすぐ胸を隠して間一髪は免れたけど、恥ずかしいことこの上ない。
(土井先生に見られてないよね……)
空はチラリと半助を見る。
すると、いきなり目が合ってしまい、慌てて両者目線をそらす。
空もひどいが、それ以上に半助は狼狽していて、耳まで真っ赤だった。
(と、とにかく無事に空君と身体が離れてめでたしめでたし、かな?)
(ちょっともったいないような気もするけど……)
なんてラブコメ特有の甘酸っぱい空気に身を浸している場合ではなかった。
気付けば、安藤が剣吞な目つきで睨んでくる。
互いに制服を脱ぎ合って、その上片方は肌着すら身に着けていない。
今の空と半助を見れば、安藤の脳内で勝手にストーリーが作られていくのが容易に想像できた。
「土井先生……」
絶対零度の冷え切った声。
安藤がこの状況を曲解しているのが見て取れる。
「あ、安藤先生……お騒がせしてすみませんでした。しかし、こういうことになったのには理由がありまして、疚しいことは一切なく、」
だが、半助の言葉はここで途切れてしまう。
意外なことに、安藤が突如として号泣しはじめたのだ。
「あ、安藤先生!?」
「うぅぅ……土井先生……私は悲しいですっ。初めて忍術学園で会ってからというもの……なんとなくあなたは今まで苦労の多い人生を歩んできたのだと同情し、陰ながらに見守ってきました。最初はぎこちなかったけど、生徒と交流していくうちに、いつしか教師らしい顔つきになっていて……その成長を近くで感じ取り、我が喜びとしていました」
「……」
「それなのに……空さんという、か弱き女性職員を生徒の前で手籠めにしていたなんて、言語道断!今日、私はあなたにどれだけ失望したことか……こんな嘆かわしいこと……忍術学園では絶対に起こってはいけなかった。これは、全て私の責任。ならば……」
そこまで言って、急に安藤の顔が引き締まった。
「かくなる上は、あなたを殺して私も死にます!これが私の責任の取り方です。土井先生、覚悟ぉぉぉっ!」
そう言って、懐に隠していた短刀を上段から一気に振りかざしてきた。
半助がそれを真剣白刃取りで受け止める。
「わーわー、安藤先生待ってください!私は安藤先生が思うようなことは一切していません!」
「この期に及んで、何を言う!絶対に許さんそ(
周囲が
「安藤先生、落ち着いてくださーい!」
「うるさい、うるさい、うるさぁい!あなたを殺して私も死ぬぅぅぅ!」
今の安藤の錯乱ぶりといったら。
まるで、痴情のもつれを経て無理心中を強要するメロドラマの登場人物のようである。
「……」
先程までのラブコメの雰囲気が跡形もなく消失し、一気に修羅場と化した一年は組の教室。
口を挟む隙がないほどの驚きの連続だった忍たまたちがようやく言葉を発した。
「よ、よくわかんないけど、安藤先生にあんなに怒られるなんて、土井先生も大変だね」
「うん」
生徒たちが何ともいえない表情で事の成り行きを見守る中、しんべヱだけは空に近づいていく。
自分の鼻水のせいで、空に迷惑をかけたことに責任を感じていたのだ。
「あのぅ、空さん……ボクのせいで大切な服が破れちゃってごめんなさい~」
「気にしないで、しんべヱ君。私なら全然大丈夫だから」
空が微笑みで返した。
やけに弾んだ声と笑顔なのが、しんべヱには引っかかる。
「あれ?空さん、なんだかすごく嬉しそうですね~」
「そ、そう?そんなこと、ないけど……」
誤魔化すように笑う空だったが、実のところはしんべヱの言う通り。
内心では、宙に浮いてしまいそうなほどの嬉しさに沸いていたのだ。
(あんな姿見られたのは恥ずかしいけど……でも、そのおかげで土井先生の服貸してもらえちゃった)
(十分に堪能してから、洗濯して返そうっと!)
半助と安藤の狂騒で教室中が騒然となる中、空だけが相好を崩している。
恋の街道を猛爆進中の乙女は、今日ほどしんべヱの鼻水に感謝したことはないだろう。
顔から火が吹き出そうなほどの恥ずかしい思いをしたが、それと引き換えに半助の着物をゲットできたので、結果オーライ。
怪我の功名というやつだ。
(土井先生の服に包まれるなんて、幸せ……。ああ、良い匂いがする……)
そんな幸せに浸る主人公の同空間でしょうもない争いは続く。
「この破廉恥教師ー!待てぇい!待
などと言いながら、安藤は(どこから取り出したのかは知らないが)担架をかついでいる。
くだらないダジャレを連発する安藤。
結局、破廉恥教師呼ばわりされてしまう半助。
以上のふたりによるしょうもないイタチごっこ。
この話のラストを飾るのには相応しいのかもしれない。
「うわぁ、こんな結末、絶対に納得
そう言う半助の手に握っているのは……いつ海で漁ってきたのかと首を傾げたくなる、イカ。
おあとがよろしいようで。