わたしの軍師さま ~長屋の一日編~
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「お、おかえりなさい、天鬼様。ドブ掃除大変でしたよね……お疲れさまでした」
「……」
案の定、天鬼は眉根に皺を寄せて帰って来た。
この様子だと、隣のおばちゃんに相当こき使われただろう。
空は不機嫌度MAXの天鬼に対し、着替えを用意したり、お茶を淹れたり、甲斐甲斐しく天鬼の世話を焼き続けた。
しばらくすると、
「あのご婦人は苦手だ……」
とぼそっと返って来た。
「……」
こんなにやつれた表情をする天鬼にはそうお目にかかれない。
進んで他者と交流しない天鬼と話好きで人懐っこい隣のおばちゃんは、対極の位置にある。
天鬼が苦手意識を持つのも無理はなかった。
「……」
空はさりげなく天鬼の横に腰を下ろす。
わずかに天鬼にもたれながら、ゆっくりと口を開いた。
「隣のおばちゃん、半助さんのことがお気に入りなんです。私がここに住む前から、何かにつけて食事や洗濯といったお世話を焼いてたみたいで。本当の息子のように可愛がってるんですよ」
「……」
「噂好きで、人との距離が近いところがあるから、天鬼様は苦手に感じてしまうかもしれませんが……とても気さくで良い人なんです。だから……」
そう言って、天鬼を見た。
次の瞬間、空はわずかに眼を大きくする。
その能面のように無感情な顔の下に、親に叱られたような子どもの表情が確かに見えたからだ。
「一応言っておくが、別に嫌いというわけではない。あの強引さに舌を巻いただけだ」
それだけ言うと、天鬼は顔を前に戻した。
視線を合わせようとしないのは、彼なりに照れを感じているのだろう。
愛おしくて、つい逞しい腕に自分の腕を絡めた。
天鬼も満更ではないようで、空の好きな様にさせている。
「……」
天鬼の温もりを感じているうちに、空の顔がみるみる上気していく。
(ああ、幸せだな……陽の高いうちからこうして天鬼様と一緒に居れるなんて……)
(ん?まだ陽が高い……てことは……!)
急に何かを思い立ち、空は顔を輝かせる。
真横にいる天鬼に向かって言った。
「天鬼様!ちょっとお願いがあるのですが……」
「ん?なんだ?」
天鬼が視線だけを空の方へ滑らせる。
見れば、もじもじとした様子で言い淀んでいる空の姿があった。
「もし天鬼様がお疲れじゃなければ……その……こ、これから町へお出かけ……なんていうのはどうでしょうか?ほ、ほら、こんな時間に天鬼様がいらっしゃるなんて珍しいですし……欲しいものとかあればお買い物できますよ……」
それだけ言い終えると、空の頬が鮮やかな桜色に染まった。
「ふむ。外出か……」
そう言われても、特段欲しいものなどない。
天鬼としては、空と一緒に居られればそれで十分だから、このまま家で過ごしてよいとも思っていた。
だが、精一杯の勇気を振り絞り、自分を逢引 へ誘う空を見ていると断ることなんかできなかった。
恋人らしいことをしたい――そんな空の乙女心が透けて見えてしまったのだ。
「承知した」
天鬼が首を折ると、強張っていた空の顔が忽ちに綻んだ。
「そうと決まれば、早速行こう」
天鬼が立ち上がる。
だが、それに待ったをかけたのは空だった。
「あ、待ってください!行くなら行くで少し時間をください。着替えもしたいし、化粧もまだ終わってなくて……日焼け止めしか塗ってないんです」
言うなり、空は奥の部屋へすっ飛んでいった。
直後、戸がピシャンと閉まる。
「……いつもはどんくさいのに、こういうときだけ俊敏だな」
皮肉を言う相手を失った天鬼は、もう一度その場に腰掛ける。
待つ間、先ほどの空を思い出しては口許に微笑を浮かべる。
逢引ができると知ったときの空は、まるで主人に尻尾を振る犬のように喜んでいた。
それが可笑しくもあり、同時に愛おしくもあった。
「……」
案の定、天鬼は眉根に皺を寄せて帰って来た。
この様子だと、隣のおばちゃんに相当こき使われただろう。
空は不機嫌度MAXの天鬼に対し、着替えを用意したり、お茶を淹れたり、甲斐甲斐しく天鬼の世話を焼き続けた。
しばらくすると、
「あのご婦人は苦手だ……」
とぼそっと返って来た。
「……」
こんなにやつれた表情をする天鬼にはそうお目にかかれない。
進んで他者と交流しない天鬼と話好きで人懐っこい隣のおばちゃんは、対極の位置にある。
天鬼が苦手意識を持つのも無理はなかった。
「……」
空はさりげなく天鬼の横に腰を下ろす。
わずかに天鬼にもたれながら、ゆっくりと口を開いた。
「隣のおばちゃん、半助さんのことがお気に入りなんです。私がここに住む前から、何かにつけて食事や洗濯といったお世話を焼いてたみたいで。本当の息子のように可愛がってるんですよ」
「……」
「噂好きで、人との距離が近いところがあるから、天鬼様は苦手に感じてしまうかもしれませんが……とても気さくで良い人なんです。だから……」
そう言って、天鬼を見た。
次の瞬間、空はわずかに眼を大きくする。
その能面のように無感情な顔の下に、親に叱られたような子どもの表情が確かに見えたからだ。
「一応言っておくが、別に嫌いというわけではない。あの強引さに舌を巻いただけだ」
それだけ言うと、天鬼は顔を前に戻した。
視線を合わせようとしないのは、彼なりに照れを感じているのだろう。
愛おしくて、つい逞しい腕に自分の腕を絡めた。
天鬼も満更ではないようで、空の好きな様にさせている。
「……」
天鬼の温もりを感じているうちに、空の顔がみるみる上気していく。
(ああ、幸せだな……陽の高いうちからこうして天鬼様と一緒に居れるなんて……)
(ん?まだ陽が高い……てことは……!)
急に何かを思い立ち、空は顔を輝かせる。
真横にいる天鬼に向かって言った。
「天鬼様!ちょっとお願いがあるのですが……」
「ん?なんだ?」
天鬼が視線だけを空の方へ滑らせる。
見れば、もじもじとした様子で言い淀んでいる空の姿があった。
「もし天鬼様がお疲れじゃなければ……その……こ、これから町へお出かけ……なんていうのはどうでしょうか?ほ、ほら、こんな時間に天鬼様がいらっしゃるなんて珍しいですし……欲しいものとかあればお買い物できますよ……」
それだけ言い終えると、空の頬が鮮やかな桜色に染まった。
「ふむ。外出か……」
そう言われても、特段欲しいものなどない。
天鬼としては、空と一緒に居られればそれで十分だから、このまま家で過ごしてよいとも思っていた。
だが、精一杯の勇気を振り絞り、自分を
恋人らしいことをしたい――そんな空の乙女心が透けて見えてしまったのだ。
「承知した」
天鬼が首を折ると、強張っていた空の顔が忽ちに綻んだ。
「そうと決まれば、早速行こう」
天鬼が立ち上がる。
だが、それに待ったをかけたのは空だった。
「あ、待ってください!行くなら行くで少し時間をください。着替えもしたいし、化粧もまだ終わってなくて……日焼け止めしか塗ってないんです」
言うなり、空は奥の部屋へすっ飛んでいった。
直後、戸がピシャンと閉まる。
「……いつもはどんくさいのに、こういうときだけ俊敏だな」
皮肉を言う相手を失った天鬼は、もう一度その場に腰掛ける。
待つ間、先ほどの空を思い出しては口許に微笑を浮かべる。
逢引ができると知ったときの空は、まるで主人に尻尾を振る犬のように喜んでいた。
それが可笑しくもあり、同時に愛おしくもあった。