わたしの軍師さま ~長屋の一日編~
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人は腰を抜かすほど驚いたとき、平仮名五十音の内の「え」の一字しか発せなくなるらしい。
「え?え、え、ええ……えええ!?!?!?」
「……いつまで間抜けな顔をしているつもりだ」
目の前に不機嫌面した天鬼がいる。
いや、それはもう空にとって珍しくないことなのだが、今回の場合再会した「時」と「場所」がイレギュラーだった。
「だって、天鬼様が……長期休み中の、しかも朝にいらっしゃるなんて、すごく珍しいですし……」
空の言葉通り、現在忍術学園は長期休暇の真っ只中。
物干し竿に洗濯物が所狭しと並んでいく、朝の忙しい時間帯に天鬼が突如として現れたのだ。
濡れた着物を干しかけの空に、天鬼が言う。
「私にもよくわからない……ただ、あいつが『急いで私と代われ!』と泣きついてきて……気がついたらここにいた」
「あいつ……って半助さんのことですよね。一体どうしたんでしょうか?半助さん……」
空はしばし頭を捻った。
だが、その思考はある人物の登場で中断されてしまう。
「半助ぇぇぇ!見つけたわよっ!!」
長屋中を突き抜けそうな驚異の大音声 。
その声の持ち主は、互いの家を行き来するほど親しいご近所さんこと、隣のおばちゃんだった。
「と、隣のおばちゃん。おはようございます。何か怒っているようですけど、どうしたんですか?」
「空ちゃん、おはよう。今日はこれからドブ掃除があるのよ」
ドブ掃除。
その一言で、空は隣のおばちゃんの怒りの理由が手に取るようにわかってしまった。
(半助さん、確か……前のドブ掃除すっぽかしちゃったんだよね……)
話は遡ること二ヶ月前。
前回のドブ掃除の日、半助は町に帰省したが、その際プロ忍の利吉と出くわす。
その利吉から今依頼を受けている仕事を手伝ってほしいと急遽懇願され、手を貸したのはいいが、肝心のドブ掃除を忘れてしまったのだ。
「前回は参加しますと返事をもらっておきながら、見事にすっぽかされたからね。だから、今回は絶対に逃がさないわよ!」
隣のおばちゃんが天鬼の前で仁王立ちする。
(な、何なんだこの禍々しい闘気は……下手なドクタケ忍者より強そうだぞ……!)
鬼と見紛うようなおばちゃんの形相に、泣く子も黙る、あの天鬼ですら気圧されるほどだった。
じりじりと二人の距離が縮まっていく中、大慌てで空が間に入った。
「待ってください、隣のおばちゃん!私、ドブ掃除やります!天鬼様……じゃなかった半助さんには今日お家のことをやってもらおうと思ってて」
「ダメよ、甘やかしちゃ!ただでさえ男手が不足しているんだから。半助、さぁ、行くわよ!」
そう言うと、隣のおばちゃんは強引に天鬼の腕を掴み取った。
「お、おい、何をする!?」
「何ってドブ掃除に行くに決まってるでしょ!それにしても、今日の半助、やけに人相が悪いわねぇ……ずっと眠たそうな眼をしているし」
(隣のおばちゃんすごい……あの天鬼様を手玉に取ってる……)
下手に隣のおばちゃんに逆らったら、この長屋では生きていけない。
空はこれ以上天鬼に助け船を出すことはできず、消えゆく二つの背を見つめることしかできなかった。
「もしかして……半助さんが天鬼様と交代したかったのって、隣のおばちゃんが怖かったから……だったりして」
自身の発言に苦笑しつつも、妙に説得力があった。
「とりあえず、私は洗濯終わらせないとな……」
そう呟くと、空は今起こった出来事を全て忘れるように、濡れた着物をパンパンと仰いだ。
「え?え、え、ええ……えええ!?!?!?」
「……いつまで間抜けな顔をしているつもりだ」
目の前に不機嫌面した天鬼がいる。
いや、それはもう空にとって珍しくないことなのだが、今回の場合再会した「時」と「場所」がイレギュラーだった。
「だって、天鬼様が……長期休み中の、しかも朝にいらっしゃるなんて、すごく珍しいですし……」
空の言葉通り、現在忍術学園は長期休暇の真っ只中。
物干し竿に洗濯物が所狭しと並んでいく、朝の忙しい時間帯に天鬼が突如として現れたのだ。
濡れた着物を干しかけの空に、天鬼が言う。
「私にもよくわからない……ただ、あいつが『急いで私と代われ!』と泣きついてきて……気がついたらここにいた」
「あいつ……って半助さんのことですよね。一体どうしたんでしょうか?半助さん……」
空はしばし頭を捻った。
だが、その思考はある人物の登場で中断されてしまう。
「半助ぇぇぇ!見つけたわよっ!!」
長屋中を突き抜けそうな驚異の
その声の持ち主は、互いの家を行き来するほど親しいご近所さんこと、隣のおばちゃんだった。
「と、隣のおばちゃん。おはようございます。何か怒っているようですけど、どうしたんですか?」
「空ちゃん、おはよう。今日はこれからドブ掃除があるのよ」
ドブ掃除。
その一言で、空は隣のおばちゃんの怒りの理由が手に取るようにわかってしまった。
(半助さん、確か……前のドブ掃除すっぽかしちゃったんだよね……)
話は遡ること二ヶ月前。
前回のドブ掃除の日、半助は町に帰省したが、その際プロ忍の利吉と出くわす。
その利吉から今依頼を受けている仕事を手伝ってほしいと急遽懇願され、手を貸したのはいいが、肝心のドブ掃除を忘れてしまったのだ。
「前回は参加しますと返事をもらっておきながら、見事にすっぽかされたからね。だから、今回は絶対に逃がさないわよ!」
隣のおばちゃんが天鬼の前で仁王立ちする。
(な、何なんだこの禍々しい闘気は……下手なドクタケ忍者より強そうだぞ……!)
鬼と見紛うようなおばちゃんの形相に、泣く子も黙る、あの天鬼ですら気圧されるほどだった。
じりじりと二人の距離が縮まっていく中、大慌てで空が間に入った。
「待ってください、隣のおばちゃん!私、ドブ掃除やります!天鬼様……じゃなかった半助さんには今日お家のことをやってもらおうと思ってて」
「ダメよ、甘やかしちゃ!ただでさえ男手が不足しているんだから。半助、さぁ、行くわよ!」
そう言うと、隣のおばちゃんは強引に天鬼の腕を掴み取った。
「お、おい、何をする!?」
「何ってドブ掃除に行くに決まってるでしょ!それにしても、今日の半助、やけに人相が悪いわねぇ……ずっと眠たそうな眼をしているし」
(隣のおばちゃんすごい……あの天鬼様を手玉に取ってる……)
下手に隣のおばちゃんに逆らったら、この長屋では生きていけない。
空はこれ以上天鬼に助け船を出すことはできず、消えゆく二つの背を見つめることしかできなかった。
「もしかして……半助さんが天鬼様と交代したかったのって、隣のおばちゃんが怖かったから……だったりして」
自身の発言に苦笑しつつも、妙に説得力があった。
「とりあえず、私は洗濯終わらせないとな……」
そう呟くと、空は今起こった出来事を全て忘れるように、濡れた着物をパンパンと仰いだ。