Never let you go....?
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「「土井先生!」」
「慌ててるようだけど、どうしたんだ?しんべヱなんか顔から全部出してるし……。空君なんて向こうの木に隠れているけど」
「「え!?」」
伊作としんべヱは愕然と空を見た。
半助の言った通り、空はやや離れた木の影からじっとこちらを見つめている。
さっきまで伊作たちの隣にいたはずなのに、その敏捷性といったら。
一流忍者を凌ぐほどであった。
(ど、土井先生には絶対にこんな姿見られたくないもん!)
乙女のプライドが許さなかった。
お願いだから早く通り過ぎ去ってと、木陰から半助に念を送っている。
「な、なんかあったの……空君?随分険しい目つきでこっちを睨んでるけど」
「土井先生……実はですねぇ……かくかくしかじかで」
「なるほど、そういうことか」
事情を聞けば、半助は空の心情がありありと理解できた。
自分だって、しんべヱの鼻水を制服につけられたことは一度や二度ではない。
みずぼらしい姿をさらして顰蹙を買ったことはザラにある。
ましてや、空は女性。
外見に人一倍気を配る女性だからこそ、今の自分の姿が恥ずかしいのだろう。
尤も、それが他の男ならここまで過剰に恥じらわないことを半助は知らない。
なぜ、自分が声をかけたとき、空が目を瞠るほどの遁術を披露したかを考えれば、彼の片思いは即座に成就するのだが……。
そう、ふたりは両片思い中だった。
(よっぽど恥ずかしいんだな……)
目が合っては木陰に隠れる空を見て、思わず半助の頬が緩む。
恥じらう空の姿が、恋する男の瞳には一際可愛く映った。
だが、いつまでも遠巻きに見られるのは、やはり悲しい。
空を近くで見たい。会話したい――
半助がそうと決めたら、次の瞬間には空の正面までいた。
急に視界にあらわれて、空がドギマギする。
「空君。さぁ、行こう。そんなところに居たままだと、風邪引くよ」
「土井先生……」
「しんべヱの件、大変だったな」
そう言って、手を差し伸べてきた。
思わぬ展開に空は心臓が飛び出しそうになる。
(どうしよう~!ま、まさかこんな形で土井先生と手を繋ぐチャンスがあるなんて……!)
頬を染めつつ一歩前に出て、差し出された手を取ろうとする。
そのときだった。
「土井半助ぇ!覚悟ぉぉぉっ!」
恨みのこもった声とともに、半助と空のふたりに襲い掛かってくるのは、忍者の武器の代名詞。
鋭利な四方手裏剣だ。
「危ないっ!」
半助は咄嗟に空を抱きしめ、かばう。
手裏剣はすべて空が隠れていた木に突き刺さった。
「ちっ!しくじったか……」
空たちの前に現れたのは、悔しそうに舌打ちする青年。
年齢的には十九と大人なのだが、くりっとした珠のような瞳に少年のようなあどけなさが残っている。
半助に対し、並々ならぬ執着心と敵愾心 を抱くこの男は、タソガレドキ忍者の諸泉尊奈門であった。
「さぁ、土井半助。今日こそは絶対に勝つ!勝って私の方が上だと思い知らせてやる!」
「尊奈門君!百歩譲って私に挑みたい気持ちはわかるが、せめて関係ない人間を巻き込むのはやめてくれ。この娘 は忍者ではない、普通の人なんだぞ」
「うるさぁぁい!俺だってそんなつもりはなかったんだ!お前を狙っていたら、たまたま近くにその女がいただけだ。俺は悪くない!」
「いや、お前が悪い」
突如、尊奈門の横に躍り出た人物が彼の顔面に裏拳を打ち込んだ。
「ぐぇっ……」
押しつぶされた蛙のような鳴き声を出して、尊奈門が大地に沈んでしまう。
「全く。頭に血が上ったばかりに、状況判断を怠るとは……情けない」
顔から全身にかけて包帯を巻いた忍者が呆れたように呟いた。
「ああ!あれはクソタレガキ忍者のちょっとこなもんさんだ~!」
「違うよ、しんべヱ。タソガレドキ忍者の雑度昆奈門さんだよ。お~い、雑度さ~ん!」
そう言って、伊作がうれしそうに駆け出した。
雑度は伊作に軽く手を挙げて応えると、改めて半助に振り向き直った。
「土井殿、会って早々うちの部下が失礼した。そちらのご婦人……確か名は空さん、だったよな。彼女に怪我はないだろうか?」
「はい、私がかばったのでこの通り無事で……て、空君?」
見れば、空の目の焦点が合っていない。
このとき、空は完全に自分の世界に入っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――
(きゃあああ!どうしよう……わ、私……今、土井先生に抱きしめられてる……)
(そりゃあ、土井先生に抱きしめられたこと、これが初めてってわけじゃないけど……)
(手裏剣から守ってくれた土井先生、本当王子様みたいで素敵……)
(はぁ……なんだか朝の夢みたい……こうして抱きしめられて……え、ちょっと待って……!?夢の通りなら、あの後土井先生って私に愛の告白を……?)
―――――――――――――――――――――――――――
「ま、ま、ま、待ってください……!私まだ心の準備ができてません!」
途中から、空は自分の想いを声に出して叫んでいた。
「……」
想像の世界に入り込む空を見て、半助、しんべヱ、伊作は口をあんぐり。
あの雑度ですら言葉を失っている。
しかし、流石は最強を誇るタソガレドキ忍軍の忍頭。
唖然とした空気の中、いち早く冷静さを取り戻していた。
「その様子だと、問題なさそうだな。お嬢さん」
いきなり視界に見慣れない顔が飛び込んできたものだから、妄想の世界はこれにて終了となった。
空は慌てて我に返る。
「あれ?あなたは確か以前医務室でお会いして……タソガレドキ城の……雑度昆奈門さんですよね?」
「覚えていてくれて光栄だ。それより、うちの部下がすまなかった。危険な目に遭わせてしまって……非礼を詫びよう」
「あ、いえ、そんな……」
寧ろ彼のおかげで土井先生と密着することができて感謝しています、なんて絶対に言えない空なのだった。
「空君、尊奈門君はそこで伸びているから、もう大丈夫だよ。だから、その……」
ほんのり頬を赤らめた半助が申し訳なさそうに言う。
ここでようやく、空はこれ以上半助にしがみつく理由がないことに気づいた。
「ど、土井先生ごめんなさい!今すぐ離れますから!!」
言い終えて、空は勢いよく飛びのいた。
だが、次の瞬間身体に強い反発力を感じ、再び半助の胸元へ戻されてしまう。
「あ、あれ……?身体が離れない……?」
空は怪訝そうに自分と、続いて半助の身体を見た。
ふたつの身体を繋げているのは、何と鼻水。
元々水あめのようにどろっとしたしんべヱの鼻水だが、時間の経過につれ水分が蒸発し、形状が餅のように変化している。
その鼻水が、まるでボンドのような役割を果たしていた。
伊作と雑度が粘着物をまじまじと見た。
「うわぁ、これ相当強力ですよ……!」
「並みの鳥黐 以上だな。そぎ落とすのにかなりの時間がかかるだろう」
この言葉に、半助の顔が引き攣った。
「そ、そんなぁ!もうすぐ午後の授業が始まるんですよって……ああ!」
半助が驚愕の声をあげる。
半助の目は、鐘楼に昇っていくヘムヘムの姿をとらえていたのだ。
あと数分で鐘が鳴る。
最早一刻の猶予もない。
しかし、空と抱き合った格好で授業に出るわけにもいかない。
そんなことをすれば、周りから破廉恥教師としての烙印を押されてしまう。
「土井先生、最近遅刻に関してかなり口うるさく注意してましたもんね~。だから、先生が遅刻したら、は組のみんなから非難囂々の嵐ですよ~」
しんべヱの言葉の通りだった。
しかも、前回注意したとき、半助はこんな捨て台詞を吐いていたのだ。
「いいか!次遅刻したら、褌姿で校庭100周だからな!」
褌一丁でランニングは絶対に勘弁してほしい。
かと言って、こんな姿を生徒の前に晒すわけにはいかない。
どうしよう、どうしよう……。
刻一刻と破滅へのカウントダウンは近づいている。
焦った半助が頭をむしゃむしゃと掻きむしっているときだった。
「そうだ、土井先生……これを使うのはどうでしょう~?この前パパにもらったんです!」
「おお、しんべヱ!何か策があるんだな!」
半助だけでなく、空や伊作、雑度の視線がしんべヱに集中する。
しんべヱは某アニメに登場する四○元ポケットのごとく、懐からある物を取り出した。
「これは……」
「今度、一年は組のチャンチキ宴会で使おうと思ってたんです~」
目の前に現れた品を一同見つめている。
説明を聞かずとも、どういう使い方をすればいいのか、大体見当がつく。
「や、やるしかないんだよな……」
半助がゴクリと唾を飲む。
覚悟と諦めの入り混じった声が冬の風に虚しく流れた。
「慌ててるようだけど、どうしたんだ?しんべヱなんか顔から全部出してるし……。空君なんて向こうの木に隠れているけど」
「「え!?」」
伊作としんべヱは愕然と空を見た。
半助の言った通り、空はやや離れた木の影からじっとこちらを見つめている。
さっきまで伊作たちの隣にいたはずなのに、その敏捷性といったら。
一流忍者を凌ぐほどであった。
(ど、土井先生には絶対にこんな姿見られたくないもん!)
乙女のプライドが許さなかった。
お願いだから早く通り過ぎ去ってと、木陰から半助に念を送っている。
「な、なんかあったの……空君?随分険しい目つきでこっちを睨んでるけど」
「土井先生……実はですねぇ……かくかくしかじかで」
「なるほど、そういうことか」
事情を聞けば、半助は空の心情がありありと理解できた。
自分だって、しんべヱの鼻水を制服につけられたことは一度や二度ではない。
みずぼらしい姿をさらして顰蹙を買ったことはザラにある。
ましてや、空は女性。
外見に人一倍気を配る女性だからこそ、今の自分の姿が恥ずかしいのだろう。
尤も、それが他の男ならここまで過剰に恥じらわないことを半助は知らない。
なぜ、自分が声をかけたとき、空が目を瞠るほどの遁術を披露したかを考えれば、彼の片思いは即座に成就するのだが……。
そう、ふたりは両片思い中だった。
(よっぽど恥ずかしいんだな……)
目が合っては木陰に隠れる空を見て、思わず半助の頬が緩む。
恥じらう空の姿が、恋する男の瞳には一際可愛く映った。
だが、いつまでも遠巻きに見られるのは、やはり悲しい。
空を近くで見たい。会話したい――
半助がそうと決めたら、次の瞬間には空の正面までいた。
急に視界にあらわれて、空がドギマギする。
「空君。さぁ、行こう。そんなところに居たままだと、風邪引くよ」
「土井先生……」
「しんべヱの件、大変だったな」
そう言って、手を差し伸べてきた。
思わぬ展開に空は心臓が飛び出しそうになる。
(どうしよう~!ま、まさかこんな形で土井先生と手を繋ぐチャンスがあるなんて……!)
頬を染めつつ一歩前に出て、差し出された手を取ろうとする。
そのときだった。
「土井半助ぇ!覚悟ぉぉぉっ!」
恨みのこもった声とともに、半助と空のふたりに襲い掛かってくるのは、忍者の武器の代名詞。
鋭利な四方手裏剣だ。
「危ないっ!」
半助は咄嗟に空を抱きしめ、かばう。
手裏剣はすべて空が隠れていた木に突き刺さった。
「ちっ!しくじったか……」
空たちの前に現れたのは、悔しそうに舌打ちする青年。
年齢的には十九と大人なのだが、くりっとした珠のような瞳に少年のようなあどけなさが残っている。
半助に対し、並々ならぬ執着心と
「さぁ、土井半助。今日こそは絶対に勝つ!勝って私の方が上だと思い知らせてやる!」
「尊奈門君!百歩譲って私に挑みたい気持ちはわかるが、せめて関係ない人間を巻き込むのはやめてくれ。この
「うるさぁぁい!俺だってそんなつもりはなかったんだ!お前を狙っていたら、たまたま近くにその女がいただけだ。俺は悪くない!」
「いや、お前が悪い」
突如、尊奈門の横に躍り出た人物が彼の顔面に裏拳を打ち込んだ。
「ぐぇっ……」
押しつぶされた蛙のような鳴き声を出して、尊奈門が大地に沈んでしまう。
「全く。頭に血が上ったばかりに、状況判断を怠るとは……情けない」
顔から全身にかけて包帯を巻いた忍者が呆れたように呟いた。
「ああ!あれはクソタレガキ忍者のちょっとこなもんさんだ~!」
「違うよ、しんべヱ。タソガレドキ忍者の雑度昆奈門さんだよ。お~い、雑度さ~ん!」
そう言って、伊作がうれしそうに駆け出した。
雑度は伊作に軽く手を挙げて応えると、改めて半助に振り向き直った。
「土井殿、会って早々うちの部下が失礼した。そちらのご婦人……確か名は空さん、だったよな。彼女に怪我はないだろうか?」
「はい、私がかばったのでこの通り無事で……て、空君?」
見れば、空の目の焦点が合っていない。
このとき、空は完全に自分の世界に入っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――
(きゃあああ!どうしよう……わ、私……今、土井先生に抱きしめられてる……)
(そりゃあ、土井先生に抱きしめられたこと、これが初めてってわけじゃないけど……)
(手裏剣から守ってくれた土井先生、本当王子様みたいで素敵……)
(はぁ……なんだか朝の夢みたい……こうして抱きしめられて……え、ちょっと待って……!?夢の通りなら、あの後土井先生って私に愛の告白を……?)
―――――――――――――――――――――――――――
「ま、ま、ま、待ってください……!私まだ心の準備ができてません!」
途中から、空は自分の想いを声に出して叫んでいた。
「……」
想像の世界に入り込む空を見て、半助、しんべヱ、伊作は口をあんぐり。
あの雑度ですら言葉を失っている。
しかし、流石は最強を誇るタソガレドキ忍軍の忍頭。
唖然とした空気の中、いち早く冷静さを取り戻していた。
「その様子だと、問題なさそうだな。お嬢さん」
いきなり視界に見慣れない顔が飛び込んできたものだから、妄想の世界はこれにて終了となった。
空は慌てて我に返る。
「あれ?あなたは確か以前医務室でお会いして……タソガレドキ城の……雑度昆奈門さんですよね?」
「覚えていてくれて光栄だ。それより、うちの部下がすまなかった。危険な目に遭わせてしまって……非礼を詫びよう」
「あ、いえ、そんな……」
寧ろ彼のおかげで土井先生と密着することができて感謝しています、なんて絶対に言えない空なのだった。
「空君、尊奈門君はそこで伸びているから、もう大丈夫だよ。だから、その……」
ほんのり頬を赤らめた半助が申し訳なさそうに言う。
ここでようやく、空はこれ以上半助にしがみつく理由がないことに気づいた。
「ど、土井先生ごめんなさい!今すぐ離れますから!!」
言い終えて、空は勢いよく飛びのいた。
だが、次の瞬間身体に強い反発力を感じ、再び半助の胸元へ戻されてしまう。
「あ、あれ……?身体が離れない……?」
空は怪訝そうに自分と、続いて半助の身体を見た。
ふたつの身体を繋げているのは、何と鼻水。
元々水あめのようにどろっとしたしんべヱの鼻水だが、時間の経過につれ水分が蒸発し、形状が餅のように変化している。
その鼻水が、まるでボンドのような役割を果たしていた。
伊作と雑度が粘着物をまじまじと見た。
「うわぁ、これ相当強力ですよ……!」
「並みの
この言葉に、半助の顔が引き攣った。
「そ、そんなぁ!もうすぐ午後の授業が始まるんですよって……ああ!」
半助が驚愕の声をあげる。
半助の目は、鐘楼に昇っていくヘムヘムの姿をとらえていたのだ。
あと数分で鐘が鳴る。
最早一刻の猶予もない。
しかし、空と抱き合った格好で授業に出るわけにもいかない。
そんなことをすれば、周りから破廉恥教師としての烙印を押されてしまう。
「土井先生、最近遅刻に関してかなり口うるさく注意してましたもんね~。だから、先生が遅刻したら、は組のみんなから非難囂々の嵐ですよ~」
しんべヱの言葉の通りだった。
しかも、前回注意したとき、半助はこんな捨て台詞を吐いていたのだ。
「いいか!次遅刻したら、褌姿で校庭100周だからな!」
褌一丁でランニングは絶対に勘弁してほしい。
かと言って、こんな姿を生徒の前に晒すわけにはいかない。
どうしよう、どうしよう……。
刻一刻と破滅へのカウントダウンは近づいている。
焦った半助が頭をむしゃむしゃと掻きむしっているときだった。
「そうだ、土井先生……これを使うのはどうでしょう~?この前パパにもらったんです!」
「おお、しんべヱ!何か策があるんだな!」
半助だけでなく、空や伊作、雑度の視線がしんべヱに集中する。
しんべヱは某アニメに登場する四○元ポケットのごとく、懐からある物を取り出した。
「これは……」
「今度、一年は組のチャンチキ宴会で使おうと思ってたんです~」
目の前に現れた品を一同見つめている。
説明を聞かずとも、どういう使い方をすればいいのか、大体見当がつく。
「や、やるしかないんだよな……」
半助がゴクリと唾を飲む。
覚悟と諦めの入り混じった声が冬の風に虚しく流れた。