無防備な彼女
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バンッと音を荒げて戸が閉まった瞬間、ピリピリとした空気が部屋に充満し、空は息苦しさを覚えていた。
「あ、あの……半助さん?」
わけがわからなかった。
いつものように洗濯をしていただけなのに、どうして半助は顔面に怒りを散らしているのだろう。
「空」
「は、はい……何でしょう?」
低く絞り出された声を聞けば、嫌でも身体が震える。
「ここ最近、そういう格好で洗濯をしていたのか?」
「へ?そういう格好って……」
「それ」
半助に指されたところを見れば、まだ小袖の裾をたくし上げたままの、露出の多い自分の姿に気づいた。
「きょ、今日はじめてですよ。いつもはその……洗濯板を使って洗ってますけど、花代ちゃんたちが踏み洗いしているのを見ると、ああいうやり方もあるんだなって……」
「……」
「だって、最近暑いじゃないですか!何をしても暑いなら、ちょっとでも涼めるやり方の方がいいな、って思ったまでで、、」
「……」
「半助さん?」
「……」
半助は息をすぅっと吸い込むと、堪えていた怒りを吐き出すように一気に言った。
「君は年頃の女性なんだ!あんな風に人目に肌をさらすなんて、みっともないったらありゃしない!もう二度とやらないでくれ!」
「……」
凄まじい剣幕に空が呆気にとられる。
けれど、言われたことを理解していくうちに、沸々と理不尽な思いが湧き上がって来た。
「そうはいいますけど、私がいた世界ではあれくらいの丈の着物を着た女性はザラにいましたよ!半助さんこそ、ちょっと頭が固すぎやしませんか?」
ミニスカートやショートパンツを当たり前に着こなしている現代人からの感覚からすれば、半助の注意が非常に堅苦しく聞こえた。
まるで生活指導の先生かのような口振りに、文句のひとつも返したくなる。
ただ自分が言い返したことで、半助の顔つきはさらに険しくなり、彼の不興を買ったようだ。
「ほ~う。それなら、ずっとその格好でいてもらおうか」
「え」
「だ・か・ら、今日一日、ずーっと脚を出したままでいてくれる?暑いんだろう?」
「えっと、それは……」
あのときは傍にいた友達も同じ格好をしていたし、涼みたい一心だったから何とも思わなかったけど、朝とはいえ薄暗い家の中、恋人の前で素肌をさらしているのが急に恥ずかしくなってきた。
となると、自分の主張に矛盾が生じてきて次第に心もとなくなってくる。
おまけに、半助がじっくりと下半身を凝視してくるものだから、違う意味で熱くなってきた。
「そ、そういえば、まだ洗濯途中でした。早く戻って仕上げないと……皺になっちゃうといけないし……」
空は話を逸らして半助の横をすり抜けようとした。
けれど、忍者の彼に軽々と動きを見切られてしまい、通せんぼされてしまう。
「逃がさない」
半助が覆いかぶさるように空を抱きしめた。
「ひゃぁっ……」
空の口から一際高い声が漏れたのは、急に密着したことに驚いただけでない。
背後に回った大きな手が太腿をいやらしく撫でてきたからだ。
「は、半助さんっ……やだ……ちょっと!」
「……空は全然わかってないなぁ」
「え……?わかってない……て何をですか?」
空がそう尋ねると、太腿を撫でてくる手の力がピタリと止まる。
「……」
少しの間のあと、半助が悲しげに溜息を漏らした。
「長屋の男たちが密かに君に憧れている……そう話しているのを聞いたんだ」
「……」
「その助平な男たちが一様に鼻の下を伸ばして君の艶姿を拝んでいたよ」
「……」
それっきり、部屋に沈黙が広がってゆく。
全然知らなかった。
そして、このときやっと半助が怒っている理由に気づいたのだ。
嫉妬していたのだと。
(半助さん……)
身体の奥底から嬉しさがせり上がってくる。
その反面、半助の心境を理解できると五寸釘を打たれたように胸が痛んだ。
「半助さん、あの……そうとは知らず、ごめんなさい」
「……」
「半助さんが心配して守ってくれたのに、無神経なことばかり言って反省してます……」
だが、どんな謝意の言葉を並べても、嫉妬の炎を燃え上がらせる半助にはもう遅かった。
「あ、んっ……」
半助は汗ばんた首筋に齧り付きながら、ふたたびいやらしく太腿を撫で回してくる。
「ああ、最悪だ……誰にも見せたくなかったのに。私しか知らなかったのに……!」
「あっ……いゃぁ……半助さんっ」
「今頃あいつらの頭の中では凄いことになってるよ……こうやって撫でれば、こんな風に可愛い声で鳴くだろうとか……」
「ゃあ、ん……ま、待ってっ……待ってくださいっ」
空が身を捩って哀願しても、半助は聞く耳持たず、猥褻な手つきで下半身を執拗に撫で回した。
空の抵抗が弱くなったところで、不意に身体を屈めてくる。
股間のすぐ前に半助の顔があるのがたまらなく恥ずかしい。
「やだ……お願いだから……離して!」
「この柔らかい太腿だって……想像の中で男たちに美味しそうに食べられてさ……」
そう言って、半助がはむっと太腿を甘噛みしてくると、全身を微弱な電流が走り抜けた。
「ぅんっ……は、半助さん、もうやめてっ」
半助の肩に手を置いて引き剥がそうとした。
けれど、なおも太腿に齧りつかれると、思うように腕に力が入らない。
「そうだ。今日はずっとこの格好でいてくれるんだろう?じゃあ、私のものだって皆に教えておこう。いい機会だ」
半助が太腿に顔を埋めて、もち肌を強く吸う。
「あぁっ!」
鼻から抜けるような甘ったるい声を発して、空が仰け反った。
身体がぶるっと甘く震え、白い肌に半助の跡が残る。
「ほら、見てごらん。綺麗な脚に鮮やかな花が咲いたよ。これからもっと増えていくから、あとで皆に見てもらおう」
半助は微笑んでいる。
けれど、眼は笑っていない。
暴力の匂いすら感じられるような、こんなに狂気じみた半助を空は見たことがない。
今の半助が無性に怖かった。
同時に、こんな風に半助を追い込んだ自分自身に心底後悔した。
「半助さん、お願いだから許してください……もうこんなはしたない格好で人前に出ません……絶対に約束しますから……」
しゃくりあげながらそう言うと、再び脚に下りてくるはずの半助の唇はいつまでたっても来なかった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
なりふり構わず、顔をくしゃくしゃにして、幼子のように泣いた。
そうしているうちに、半助がスっと立ち上がる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
呪文のように謝罪の言葉を繰り返していると、ふいに腕の中に閉じ込められる。
いい子いい子するように頭を撫でてくれた。
「……」
陽だまりのようなやさしい温もりが、空に落ち着きを取り戻させる。
ようやく顔をあげると、今度は半助の方が叱られた顔になっていた。
「すまない、私の方こそ頭に血が上りすぎていた……怖かったよな」
「半助さん……」
半助が苦々しげに額をおさえた。
「まいったよ、自分がこんなに嫉妬深いなんて……不甲斐ない男だ。君のことになると完全に我を忘れて……これでは、あの男たちと一緒だ……」
「それは違います!半助さんは悪くないです。悪いのは私です」
「空……」
「……半助さん、もう怒ってないですよね?」
「ああ」
半助がやさしく微笑む。
くりっとした瞳の奥は澄んでいる。
いつもの半助だ。
「よかった……」
空もつられて笑う。
ふたりはしばし微笑み合った。
けれど、ほっとした途端、急に足に力が入らなくなって、空はへなへなとその場に座り込んでしまった。
半助が気まずげに言う。
「あちゃー。もしかして……さっきので腰抜かしちゃった?」
「だ、だって、あまりにびっくりしたから……」
すぐさま半助に抱きかかえられ、空は居間へ下ろされる。
その際、半助がさりげなく乱れた着物を整えてくれた。
「空はここで待ってて。洗濯の続きは私がやるから」
「でも、」
「その調子じゃ洗濯なんてできないよ。ゆっくり休んでて」
「すみません……」
「じゃ、行ってくる」
半助が立ち上がろうとしたが、空はあることを思い出すと、咄嗟に半助の腕を掴んだ。
「あ、あの……待ってください!やっぱり洗濯は後で私がやります。だから、半助さんはここにいてください!」
「ええ!どうして?もう薪割りは済んだし、遠慮しなくていいんだぞ」
「そうじゃないんです!その……半助さんがひとりで洗濯してたら、きっと花代ちゃんや奥様たちに話しかけられます……」
「空……?」
「私だって……半助さんと同じで、嫉妬深いんですよ」
極度に恋人を心配する半助だが、当の本人がその魅力を自覚していない。
自分の居ないところで見目の良い半助と会話を交わせば、長屋の奥様たちは言うまでもないが、仲の良い友達までもが女の表情をしているだろう。
それがたまらなく嫌だった。
空が眉根を寄せてじっと懇願すると、半助がふっと頬を緩ませる。
どうやら気持ちは通じたらしい。
「わかった。じゃあ、こうしよう」
「え?」
半助はもう一度空をお姫様抱っこした。
「は、半助さん?」
「一緒に井戸まで行こう。私が洗濯をしている間、空は近くの日陰に座ってればいい。それなら安心だろう?」
「で、でも、この体勢で外に出るのは、恥ずかしいです……」
「恥ずかしいって言っても、歩けないんだから仕方ない。それに、私たちの仲を見せつける、いいチャンスだと思うけど……ダメ?」
そう言って、半助は空をじっと見た。
八の字の眉に甘えたな眼。
こういうときだけ自分の強みをよく知っているんだから、と空は胸中で舌打ちした。
「わ、わかりました。もう『なるようになれ』です……」
「ハハッ。よーし。そうと決まったら、急いで洗濯にとりかかろう」
「はい」
半助は歩き出した。
が、何を思ったのかすぐに足が止まる。
「えっと……その……」
ちらちらとこちらを窺ってきては、口をもごもごさせている。
何故か顔が赤らんでいた。
「どうしたんですか、半助さん?」
「あのさ……洗濯終わったら、やっぱりさっきの続きをしない?仲直りもかねて。今度はちゃんと優しくするから」
「え」
***
「あらぁ、土井さんったら……可愛い可愛い恋人の空ちゃんと一緒にお洗濯ですか~?」
「お洗濯中も傍に置いておくなんて……今日が特に暑いのは、きっと二人のせいね。あぁ、暑い暑い!」
奥様たちが通りがかる度に投げてくる冷やかしの言葉だ。
少し離れた木陰で、空は発熱したように顔を赤くしている。
半助はというと、「はぁ」とか「ええ」などの曖昧な返事とともに、人工的な笑顔でそれらを受け流していく。
ふと半助と眼が合った。
すると、さっきの作り笑いとは一転して、向日葵のように輝く極上の笑顔を向けてきた。
その際、半助の口がわずかに動く。
――待ってて。すぐに終わらせるから。
読唇術を会得していなくても、半助がそう言ったのがわかった。
ただでさえ紅潮した空の顔がますます赤くなっていく。
『今度はちゃんと優しくするから……』
この言葉を聞いて以降、空の胸には荒波が立ちっぱなしだった。
(あ、あれって……やっぱりそういうことなんだよね……)
半助の唇が触れた太腿がジンと熱をもつ。
空は思わず天を仰いだ。
うだるような暑さから少しでも逃れたいのに、これから自分は激しく汗を流す恋人同士のスポーツに耽ることになりそうだ。
真逆のことをやろうとする自分がなんだか可笑しい。
それでも、このあと訪れる半助とのひとときを思えば、胸の鼓動は高まる一方だった。
「あ、あの……半助さん?」
わけがわからなかった。
いつものように洗濯をしていただけなのに、どうして半助は顔面に怒りを散らしているのだろう。
「空」
「は、はい……何でしょう?」
低く絞り出された声を聞けば、嫌でも身体が震える。
「ここ最近、そういう格好で洗濯をしていたのか?」
「へ?そういう格好って……」
「それ」
半助に指されたところを見れば、まだ小袖の裾をたくし上げたままの、露出の多い自分の姿に気づいた。
「きょ、今日はじめてですよ。いつもはその……洗濯板を使って洗ってますけど、花代ちゃんたちが踏み洗いしているのを見ると、ああいうやり方もあるんだなって……」
「……」
「だって、最近暑いじゃないですか!何をしても暑いなら、ちょっとでも涼めるやり方の方がいいな、って思ったまでで、、」
「……」
「半助さん?」
「……」
半助は息をすぅっと吸い込むと、堪えていた怒りを吐き出すように一気に言った。
「君は年頃の女性なんだ!あんな風に人目に肌をさらすなんて、みっともないったらありゃしない!もう二度とやらないでくれ!」
「……」
凄まじい剣幕に空が呆気にとられる。
けれど、言われたことを理解していくうちに、沸々と理不尽な思いが湧き上がって来た。
「そうはいいますけど、私がいた世界ではあれくらいの丈の着物を着た女性はザラにいましたよ!半助さんこそ、ちょっと頭が固すぎやしませんか?」
ミニスカートやショートパンツを当たり前に着こなしている現代人からの感覚からすれば、半助の注意が非常に堅苦しく聞こえた。
まるで生活指導の先生かのような口振りに、文句のひとつも返したくなる。
ただ自分が言い返したことで、半助の顔つきはさらに険しくなり、彼の不興を買ったようだ。
「ほ~う。それなら、ずっとその格好でいてもらおうか」
「え」
「だ・か・ら、今日一日、ずーっと脚を出したままでいてくれる?暑いんだろう?」
「えっと、それは……」
あのときは傍にいた友達も同じ格好をしていたし、涼みたい一心だったから何とも思わなかったけど、朝とはいえ薄暗い家の中、恋人の前で素肌をさらしているのが急に恥ずかしくなってきた。
となると、自分の主張に矛盾が生じてきて次第に心もとなくなってくる。
おまけに、半助がじっくりと下半身を凝視してくるものだから、違う意味で熱くなってきた。
「そ、そういえば、まだ洗濯途中でした。早く戻って仕上げないと……皺になっちゃうといけないし……」
空は話を逸らして半助の横をすり抜けようとした。
けれど、忍者の彼に軽々と動きを見切られてしまい、通せんぼされてしまう。
「逃がさない」
半助が覆いかぶさるように空を抱きしめた。
「ひゃぁっ……」
空の口から一際高い声が漏れたのは、急に密着したことに驚いただけでない。
背後に回った大きな手が太腿をいやらしく撫でてきたからだ。
「は、半助さんっ……やだ……ちょっと!」
「……空は全然わかってないなぁ」
「え……?わかってない……て何をですか?」
空がそう尋ねると、太腿を撫でてくる手の力がピタリと止まる。
「……」
少しの間のあと、半助が悲しげに溜息を漏らした。
「長屋の男たちが密かに君に憧れている……そう話しているのを聞いたんだ」
「……」
「その助平な男たちが一様に鼻の下を伸ばして君の艶姿を拝んでいたよ」
「……」
それっきり、部屋に沈黙が広がってゆく。
全然知らなかった。
そして、このときやっと半助が怒っている理由に気づいたのだ。
嫉妬していたのだと。
(半助さん……)
身体の奥底から嬉しさがせり上がってくる。
その反面、半助の心境を理解できると五寸釘を打たれたように胸が痛んだ。
「半助さん、あの……そうとは知らず、ごめんなさい」
「……」
「半助さんが心配して守ってくれたのに、無神経なことばかり言って反省してます……」
だが、どんな謝意の言葉を並べても、嫉妬の炎を燃え上がらせる半助にはもう遅かった。
「あ、んっ……」
半助は汗ばんた首筋に齧り付きながら、ふたたびいやらしく太腿を撫で回してくる。
「ああ、最悪だ……誰にも見せたくなかったのに。私しか知らなかったのに……!」
「あっ……いゃぁ……半助さんっ」
「今頃あいつらの頭の中では凄いことになってるよ……こうやって撫でれば、こんな風に可愛い声で鳴くだろうとか……」
「ゃあ、ん……ま、待ってっ……待ってくださいっ」
空が身を捩って哀願しても、半助は聞く耳持たず、猥褻な手つきで下半身を執拗に撫で回した。
空の抵抗が弱くなったところで、不意に身体を屈めてくる。
股間のすぐ前に半助の顔があるのがたまらなく恥ずかしい。
「やだ……お願いだから……離して!」
「この柔らかい太腿だって……想像の中で男たちに美味しそうに食べられてさ……」
そう言って、半助がはむっと太腿を甘噛みしてくると、全身を微弱な電流が走り抜けた。
「ぅんっ……は、半助さん、もうやめてっ」
半助の肩に手を置いて引き剥がそうとした。
けれど、なおも太腿に齧りつかれると、思うように腕に力が入らない。
「そうだ。今日はずっとこの格好でいてくれるんだろう?じゃあ、私のものだって皆に教えておこう。いい機会だ」
半助が太腿に顔を埋めて、もち肌を強く吸う。
「あぁっ!」
鼻から抜けるような甘ったるい声を発して、空が仰け反った。
身体がぶるっと甘く震え、白い肌に半助の跡が残る。
「ほら、見てごらん。綺麗な脚に鮮やかな花が咲いたよ。これからもっと増えていくから、あとで皆に見てもらおう」
半助は微笑んでいる。
けれど、眼は笑っていない。
暴力の匂いすら感じられるような、こんなに狂気じみた半助を空は見たことがない。
今の半助が無性に怖かった。
同時に、こんな風に半助を追い込んだ自分自身に心底後悔した。
「半助さん、お願いだから許してください……もうこんなはしたない格好で人前に出ません……絶対に約束しますから……」
しゃくりあげながらそう言うと、再び脚に下りてくるはずの半助の唇はいつまでたっても来なかった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
なりふり構わず、顔をくしゃくしゃにして、幼子のように泣いた。
そうしているうちに、半助がスっと立ち上がる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
呪文のように謝罪の言葉を繰り返していると、ふいに腕の中に閉じ込められる。
いい子いい子するように頭を撫でてくれた。
「……」
陽だまりのようなやさしい温もりが、空に落ち着きを取り戻させる。
ようやく顔をあげると、今度は半助の方が叱られた顔になっていた。
「すまない、私の方こそ頭に血が上りすぎていた……怖かったよな」
「半助さん……」
半助が苦々しげに額をおさえた。
「まいったよ、自分がこんなに嫉妬深いなんて……不甲斐ない男だ。君のことになると完全に我を忘れて……これでは、あの男たちと一緒だ……」
「それは違います!半助さんは悪くないです。悪いのは私です」
「空……」
「……半助さん、もう怒ってないですよね?」
「ああ」
半助がやさしく微笑む。
くりっとした瞳の奥は澄んでいる。
いつもの半助だ。
「よかった……」
空もつられて笑う。
ふたりはしばし微笑み合った。
けれど、ほっとした途端、急に足に力が入らなくなって、空はへなへなとその場に座り込んでしまった。
半助が気まずげに言う。
「あちゃー。もしかして……さっきので腰抜かしちゃった?」
「だ、だって、あまりにびっくりしたから……」
すぐさま半助に抱きかかえられ、空は居間へ下ろされる。
その際、半助がさりげなく乱れた着物を整えてくれた。
「空はここで待ってて。洗濯の続きは私がやるから」
「でも、」
「その調子じゃ洗濯なんてできないよ。ゆっくり休んでて」
「すみません……」
「じゃ、行ってくる」
半助が立ち上がろうとしたが、空はあることを思い出すと、咄嗟に半助の腕を掴んだ。
「あ、あの……待ってください!やっぱり洗濯は後で私がやります。だから、半助さんはここにいてください!」
「ええ!どうして?もう薪割りは済んだし、遠慮しなくていいんだぞ」
「そうじゃないんです!その……半助さんがひとりで洗濯してたら、きっと花代ちゃんや奥様たちに話しかけられます……」
「空……?」
「私だって……半助さんと同じで、嫉妬深いんですよ」
極度に恋人を心配する半助だが、当の本人がその魅力を自覚していない。
自分の居ないところで見目の良い半助と会話を交わせば、長屋の奥様たちは言うまでもないが、仲の良い友達までもが女の表情をしているだろう。
それがたまらなく嫌だった。
空が眉根を寄せてじっと懇願すると、半助がふっと頬を緩ませる。
どうやら気持ちは通じたらしい。
「わかった。じゃあ、こうしよう」
「え?」
半助はもう一度空をお姫様抱っこした。
「は、半助さん?」
「一緒に井戸まで行こう。私が洗濯をしている間、空は近くの日陰に座ってればいい。それなら安心だろう?」
「で、でも、この体勢で外に出るのは、恥ずかしいです……」
「恥ずかしいって言っても、歩けないんだから仕方ない。それに、私たちの仲を見せつける、いいチャンスだと思うけど……ダメ?」
そう言って、半助は空をじっと見た。
八の字の眉に甘えたな眼。
こういうときだけ自分の強みをよく知っているんだから、と空は胸中で舌打ちした。
「わ、わかりました。もう『なるようになれ』です……」
「ハハッ。よーし。そうと決まったら、急いで洗濯にとりかかろう」
「はい」
半助は歩き出した。
が、何を思ったのかすぐに足が止まる。
「えっと……その……」
ちらちらとこちらを窺ってきては、口をもごもごさせている。
何故か顔が赤らんでいた。
「どうしたんですか、半助さん?」
「あのさ……洗濯終わったら、やっぱりさっきの続きをしない?仲直りもかねて。今度はちゃんと優しくするから」
「え」
***
「あらぁ、土井さんったら……可愛い可愛い恋人の空ちゃんと一緒にお洗濯ですか~?」
「お洗濯中も傍に置いておくなんて……今日が特に暑いのは、きっと二人のせいね。あぁ、暑い暑い!」
奥様たちが通りがかる度に投げてくる冷やかしの言葉だ。
少し離れた木陰で、空は発熱したように顔を赤くしている。
半助はというと、「はぁ」とか「ええ」などの曖昧な返事とともに、人工的な笑顔でそれらを受け流していく。
ふと半助と眼が合った。
すると、さっきの作り笑いとは一転して、向日葵のように輝く極上の笑顔を向けてきた。
その際、半助の口がわずかに動く。
――待ってて。すぐに終わらせるから。
読唇術を会得していなくても、半助がそう言ったのがわかった。
ただでさえ紅潮した空の顔がますます赤くなっていく。
『今度はちゃんと優しくするから……』
この言葉を聞いて以降、空の胸には荒波が立ちっぱなしだった。
(あ、あれって……やっぱりそういうことなんだよね……)
半助の唇が触れた太腿がジンと熱をもつ。
空は思わず天を仰いだ。
うだるような暑さから少しでも逃れたいのに、これから自分は激しく汗を流す恋人同士のスポーツに耽ることになりそうだ。
真逆のことをやろうとする自分がなんだか可笑しい。
それでも、このあと訪れる半助とのひとときを思えば、胸の鼓動は高まる一方だった。
