きりちゃんの、ト・ク・ベ・ツ
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長期休み中の半助の家。
空、半助、きり丸に加えて当たり前のように利吉もいる。
利吉なんてもう頻繁に訪れるものだから、最早三人目の居候といっても差し支えなかった。
「ほんっと利吉君、うちに来る回数増えたよな……」
「まぁまぁ、そんな小さなことは気にしなくてもいいじゃないですか、お兄ちゃん。こうやって、きり丸のバイトの手伝いをしているんだし」
「ったく、調子の良い……」
四人がいる部屋の中では、トントン…と何かを叩いている音が流れている。
半助と利吉は鉈 で竹を加工している。
きり丸のアルバイトで、ふたりは竹とんぼを作っていた。
「それにしても、今回のバイトはひどく手間がかかるな。竹を切って羽根を作るところから始めるとは」
「全くです。こんなに時間がかかっては、空さんとの甘いひとときを過ごせません!」
「土井先生、利吉さん。まぁ、そう言わずに。その分時給が高いんですから!」
慌ててなだめるきり丸だったが、半助と利吉は不満顔だ。
そんなふたりを見ていた空が申し訳なさそうに言った。
「ふたりとも。ごめんなさい。竹とんぼの方、私がお手伝いできないから……」
「全然、大丈夫ですよ!ていうか、空さんは着物のリメイクのアルバイトをしているんだし、そちらを優先してください」
「そうそう。利吉君の言う通りだ。それに、こういう刃物を扱う仕事をして、空の綺麗な手に傷がついては困るからな」
男ふたりの意見がぴったりと合う。
(ホント、この二人、空さんに弱いよな……)
文句を垂らしたかと思えば、空の一声で力が入る半助と利吉。
そんな男たちを、きり丸は十歳とは思えないほどの冷めた目で見つめていた。
「あ。材料がなくなってしまった。きり丸、お前の隣にある竹の入った笊、とってくれ ないか?」
それを聞いて、きり丸の表情が歪む。
眉をしかめ、ベロを出し、「お断りしま~す」と言わんばかりの表情。
あちゃー、と半助が顔をおさえた。
「そうだった。きり丸に、『あげる』とか『くれ』はNGだったな……」
「きりちゃん、大のドケチですからね」
「全く……よし、きり丸。その笊をとれ」
「はーい」
さっきとは違って、まるで芸を仕込まれた猿のようにきり丸が素直に従った。
「ハハハ。きり丸のドケチ。扱いやすいのか、そうでないのか……」
横で見ていた利吉は失笑せざるを得なかった。
それから、しばらくして――
「あ、もうこんな時間」
空がポツリと言う。
見やった格子からは、茜色の光が漏れていた。
「おれ、夢中でやってたから全然気づかなかった」
「私も。でも、バイトはここで一旦中断かな。夕飯の支度にとりかからないと」
「おれ、手伝おうか?」
「ほんと?きりちゃんが手伝ってくれ たら、すごく助かるな」
「ええ、もちろん!じゃあ、早速始めちゃいましょう!」
そう言って、空ときり丸は土間へと降りる。
「……」
黙々と作業していた半助と利吉だったが、それぞれあることに気づいたようで、ふたりは顔を見合わせた。
「利吉君。今の……聞いてた?」
「ええ、聞きました。きり丸のやつ、空さんに『くれ』って言われても、嫌な顔一つしませんでしたね」
一体、これはどういうことだろう。
男たちは検証するべく、きり丸を手招きした。
「何なんすか、ふたりして。おれ、忙しいんですけど」
「あ、いや……えっと、その……なぁ、きり丸。今日の夕ご飯、何を作るか教えてほしい んだが……」
言い終えて、半助と利吉はきり丸を見た。
吊り上がった眉にへの字の口。
そのしかめっ面には「だーれが、教えるもんか!」と書いてあった。
「……」
やっぱりドケチルールは存在するじゃないか。
全く同じ考えに辿りつく半助と利吉と、露骨に嫌な顔で静止したきり丸は、対面し合ったままでいる。
その膠着状態を打ち破ったのは、心地良く響く空の声だった。
「きりちゃん、ちょっといい?大根切ってほしい んだけど」
「はーい、今行きまーす!」
先程とは打って変わって快諾したきり丸がくるっと踵を返す。
その小さい背を茫然と見つめながら、大人ふたりはある結論に達していた。
「ど、どうやら、空さんにはあのルールが通用しないようですね」
「『例外のないルールはない』か……。それほど、きり丸にとって空は特別な存在ってことか……」
「……」
日々、愛する女 を巡って恋の鞘当てを繰り広げる半助と利吉だが、実は一番の脅威はきり丸かもしれない。
空の傍で瑞々しく輝く少年の笑顔を見ながら、ふたりはそんなことを思うのだった。
空、半助、きり丸に加えて当たり前のように利吉もいる。
利吉なんてもう頻繁に訪れるものだから、最早三人目の居候といっても差し支えなかった。
「ほんっと利吉君、うちに来る回数増えたよな……」
「まぁまぁ、そんな小さなことは気にしなくてもいいじゃないですか、お兄ちゃん。こうやって、きり丸のバイトの手伝いをしているんだし」
「ったく、調子の良い……」
四人がいる部屋の中では、トントン…と何かを叩いている音が流れている。
半助と利吉は
きり丸のアルバイトで、ふたりは竹とんぼを作っていた。
「それにしても、今回のバイトはひどく手間がかかるな。竹を切って羽根を作るところから始めるとは」
「全くです。こんなに時間がかかっては、空さんとの甘いひとときを過ごせません!」
「土井先生、利吉さん。まぁ、そう言わずに。その分時給が高いんですから!」
慌ててなだめるきり丸だったが、半助と利吉は不満顔だ。
そんなふたりを見ていた空が申し訳なさそうに言った。
「ふたりとも。ごめんなさい。竹とんぼの方、私がお手伝いできないから……」
「全然、大丈夫ですよ!ていうか、空さんは着物のリメイクのアルバイトをしているんだし、そちらを優先してください」
「そうそう。利吉君の言う通りだ。それに、こういう刃物を扱う仕事をして、空の綺麗な手に傷がついては困るからな」
男ふたりの意見がぴったりと合う。
(ホント、この二人、空さんに弱いよな……)
文句を垂らしたかと思えば、空の一声で力が入る半助と利吉。
そんな男たちを、きり丸は十歳とは思えないほどの冷めた目で見つめていた。
「あ。材料がなくなってしまった。きり丸、お前の隣にある竹の入った笊、とって
それを聞いて、きり丸の表情が歪む。
眉をしかめ、ベロを出し、「お断りしま~す」と言わんばかりの表情。
あちゃー、と半助が顔をおさえた。
「そうだった。きり丸に、『あげる』とか『くれ』はNGだったな……」
「きりちゃん、大のドケチですからね」
「全く……よし、きり丸。その笊をとれ」
「はーい」
さっきとは違って、まるで芸を仕込まれた猿のようにきり丸が素直に従った。
「ハハハ。きり丸のドケチ。扱いやすいのか、そうでないのか……」
横で見ていた利吉は失笑せざるを得なかった。
それから、しばらくして――
「あ、もうこんな時間」
空がポツリと言う。
見やった格子からは、茜色の光が漏れていた。
「おれ、夢中でやってたから全然気づかなかった」
「私も。でも、バイトはここで一旦中断かな。夕飯の支度にとりかからないと」
「おれ、手伝おうか?」
「ほんと?きりちゃんが手伝って
「ええ、もちろん!じゃあ、早速始めちゃいましょう!」
そう言って、空ときり丸は土間へと降りる。
「……」
黙々と作業していた半助と利吉だったが、それぞれあることに気づいたようで、ふたりは顔を見合わせた。
「利吉君。今の……聞いてた?」
「ええ、聞きました。きり丸のやつ、空さんに『くれ』って言われても、嫌な顔一つしませんでしたね」
一体、これはどういうことだろう。
男たちは検証するべく、きり丸を手招きした。
「何なんすか、ふたりして。おれ、忙しいんですけど」
「あ、いや……えっと、その……なぁ、きり丸。今日の夕ご飯、何を作るか教えて
言い終えて、半助と利吉はきり丸を見た。
吊り上がった眉にへの字の口。
そのしかめっ面には「だーれが、教えるもんか!」と書いてあった。
「……」
やっぱりドケチルールは存在するじゃないか。
全く同じ考えに辿りつく半助と利吉と、露骨に嫌な顔で静止したきり丸は、対面し合ったままでいる。
その膠着状態を打ち破ったのは、心地良く響く空の声だった。
「きりちゃん、ちょっといい?大根切って
「はーい、今行きまーす!」
先程とは打って変わって快諾したきり丸がくるっと踵を返す。
その小さい背を茫然と見つめながら、大人ふたりはある結論に達していた。
「ど、どうやら、空さんにはあのルールが通用しないようですね」
「『例外のないルールはない』か……。それほど、きり丸にとって空は特別な存在ってことか……」
「……」
日々、愛する
空の傍で瑞々しく輝く少年の笑顔を見ながら、ふたりはそんなことを思うのだった。