利吉さんの子守りバイト奮闘記
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「利吉さん!もう、どこまで行くんですか!?」
「そんなに心配しないでください。もうすぐ着きますから」
利吉の言葉の通り、五分後には目的地に着いた。
そこは、町の外れに位置する、竹林に囲まれた鄙 びた神社。
祭事以外の日だからか、宮司や神職の者は誰もいない。
利吉に抱っこされるがまま、空は赤い鳥居をくぐった。
参道を進み、ある場所に到達して、ようやく空は自由になった。
「ここって……神社ですか?」
「そうですよ。ここならゆっくり二人で話をすることができます」
空たちがいるのは社殿の裏。
そう。こここそが、男と女がふたりきりになれる場所。
良い雰囲気になったとき、間違いなく男が女を押し倒せる聖地!(半助&隣のおばちゃん談)
利吉が何とはなしに縁に腰掛ける。
空もそれに倣った。
「あの、利吉さん。話って……?」
空が首を傾げる。
利吉は懐からある物を取り出した。
「これをあなたに差し上げたくて」
包みの中から出てきたものを見て、空の顔に動揺がはしった。
この時代、ガラスを使った工芸品は身分が高い人への贈り物。
さほど大きくない、ビー玉くらいの質量でさえ、結構な値がついただろう。
「ま、ま、ま、待ってください!こんな高価なもの、私……受け取れません!!」
「そう言うと思った。けれど、『受け取れない』はなしです。あなたは私に借りがあるんですから」
「借り……?」
「熱を出して倒れたあなたのピンチを救った人間を、もうお忘れですか?」
責任感の強い空の性格を利用した卑怯な言い方かもしれない。
けれど、受け取ってもらえないと先に進めないのだ。
空はというと、未だ釈然としない様子でいる。
「でも、私には……分不相応というか」
「それは絶対にないです。私が自信をもって選んだんですから」
「でも……」
「そんな顔をされると、私の気持ちをないがしろにされているようで、悲しいです」
「あ……」
利吉の曇った表情に空は弱い。
しばらく見ていると、受け取らない方がかえって悪いように思えてきた。
「……」
空は顎を引き、持っていた紐で後ろ髪を結い上げる。
束ねた髪をねじって、仕上げに簪を差し込んだ。
「利吉さん……素敵な贈り物、ありがとうございます。これ、似合ってますか?」
そう言って、空が照れくさそうに微笑んだ。
「ええ、似合ってます。やはり私の見立てに間違いはなかった」
利吉は満面喜色で頷くと、いきなり空を抱き寄せた。
再び逞しい腕の力を感じて、空の顔がカァッと赤くなる。
(利吉さん……)
胸の高鳴りを感じながら、利吉の行動を待つ。
その間、恋人の半助のことが気にならないわけではない。
けれど、自分の代わりに子守を務めてくれた利吉の献身的な姿勢は空の心を動かした。
視線が合えば、ごく自然に唇が重なった。
唇の柔らかさを確かめるだけの短いキスだったが、真摯な想いが十分に伝わってきて、好感を呼ぶ。
利吉がゆっくりと口を開いた。
「今回の件、自分に足りないものを知る。とてもいい勉強になりました」
「利吉さん……」
「正直、土井先生に敵わないところは多々あります。けれど、あなたを想う気持ちなら、誰にだって負けません。だから、」
次の瞬間、空の瞳は蒼空にたなびく雲をとらえていた。
少し遅れて利吉が視界に入る。
そのとき、空は自分が仰向けに倒れていることに気づいた。
コトっと小さな音を立てて、簪が脇に置かれる。
「贈ってすぐに壊れた……では元も子もないですからね。次の逢引 のときには、これを着けてきてほしいし」
丁重に押し倒しつつ、さりげなく空の髪から簪を抜き取った利吉の器用さに感心している暇はなかった。
さっきよりも欲情めいた、熱く滾る瞳が意味しているものは――
キス以上のことを求められるのは、正直予想外だった。
焦りが焦りを呼んで、空の心臓は今にも破裂しそうになっている。
「り、利吉さん……ダメです、これ以上は……!」
「ここまでして、止める自信はありません」
どうしよう……。
そうこうしているうちに、利吉の身体が徐々にのしかかってくる。
押し返そうと思っても、不思議と手に力が入らない。
(もうダメ……半助さん、ごめんなさい!)
空がぎゅっと目を瞑る。
「……」
だが、いつまでたっても利吉の唇は降りてこなかった。
「あれ……?」
利吉の様子がおかしい。
そう気づいたのは、耳元でかすかに発せられる呻き声。
「うっ………」
「も、もしかして……」
空はすぐさま利吉を確認する。
呼吸が荒い。
額に手をあてがえば、まるで水蒸気が発生しそうなほどの熱を感じる。
「……」
空が気の毒そうに利吉を見た。
「利吉さん、私たちの風邪移っちゃったんですね……」
「ああもう……よりにもよって……こんなときに……」
利吉が口惜しそうに言う。
それっきり、利吉の瞼は閉じたまま。
高熱の苦しみに疲労が重なり、どうやら眠ってしまったらしい。
(ああ、びっくりした……!でも、ちょっと残念だったような……)
複雑な想いを胸に秘めながら、空は利吉の頭を太腿に乗せ、膝枕の態勢をとった。
愛おしげに見つめながら、利吉の髪をやさしく撫でる。
「利吉さん。子守を頑張る姿、とっても素敵でしたよ。ゆっくり休んでくださいね」
そう言って、利吉の頬にそっと口付けを落とした。
「そんなに心配しないでください。もうすぐ着きますから」
利吉の言葉の通り、五分後には目的地に着いた。
そこは、町の外れに位置する、竹林に囲まれた
祭事以外の日だからか、宮司や神職の者は誰もいない。
利吉に抱っこされるがまま、空は赤い鳥居をくぐった。
参道を進み、ある場所に到達して、ようやく空は自由になった。
「ここって……神社ですか?」
「そうですよ。ここならゆっくり二人で話をすることができます」
空たちがいるのは社殿の裏。
そう。こここそが、男と女がふたりきりになれる場所。
良い雰囲気になったとき、間違いなく男が女を押し倒せる聖地!(半助&隣のおばちゃん談)
利吉が何とはなしに縁に腰掛ける。
空もそれに倣った。
「あの、利吉さん。話って……?」
空が首を傾げる。
利吉は懐からある物を取り出した。
「これをあなたに差し上げたくて」
包みの中から出てきたものを見て、空の顔に動揺がはしった。
この時代、ガラスを使った工芸品は身分が高い人への贈り物。
さほど大きくない、ビー玉くらいの質量でさえ、結構な値がついただろう。
「ま、ま、ま、待ってください!こんな高価なもの、私……受け取れません!!」
「そう言うと思った。けれど、『受け取れない』はなしです。あなたは私に借りがあるんですから」
「借り……?」
「熱を出して倒れたあなたのピンチを救った人間を、もうお忘れですか?」
責任感の強い空の性格を利用した卑怯な言い方かもしれない。
けれど、受け取ってもらえないと先に進めないのだ。
空はというと、未だ釈然としない様子でいる。
「でも、私には……分不相応というか」
「それは絶対にないです。私が自信をもって選んだんですから」
「でも……」
「そんな顔をされると、私の気持ちをないがしろにされているようで、悲しいです」
「あ……」
利吉の曇った表情に空は弱い。
しばらく見ていると、受け取らない方がかえって悪いように思えてきた。
「……」
空は顎を引き、持っていた紐で後ろ髪を結い上げる。
束ねた髪をねじって、仕上げに簪を差し込んだ。
「利吉さん……素敵な贈り物、ありがとうございます。これ、似合ってますか?」
そう言って、空が照れくさそうに微笑んだ。
「ええ、似合ってます。やはり私の見立てに間違いはなかった」
利吉は満面喜色で頷くと、いきなり空を抱き寄せた。
再び逞しい腕の力を感じて、空の顔がカァッと赤くなる。
(利吉さん……)
胸の高鳴りを感じながら、利吉の行動を待つ。
その間、恋人の半助のことが気にならないわけではない。
けれど、自分の代わりに子守を務めてくれた利吉の献身的な姿勢は空の心を動かした。
視線が合えば、ごく自然に唇が重なった。
唇の柔らかさを確かめるだけの短いキスだったが、真摯な想いが十分に伝わってきて、好感を呼ぶ。
利吉がゆっくりと口を開いた。
「今回の件、自分に足りないものを知る。とてもいい勉強になりました」
「利吉さん……」
「正直、土井先生に敵わないところは多々あります。けれど、あなたを想う気持ちなら、誰にだって負けません。だから、」
次の瞬間、空の瞳は蒼空にたなびく雲をとらえていた。
少し遅れて利吉が視界に入る。
そのとき、空は自分が仰向けに倒れていることに気づいた。
コトっと小さな音を立てて、簪が脇に置かれる。
「贈ってすぐに壊れた……では元も子もないですからね。次の
丁重に押し倒しつつ、さりげなく空の髪から簪を抜き取った利吉の器用さに感心している暇はなかった。
さっきよりも欲情めいた、熱く滾る瞳が意味しているものは――
キス以上のことを求められるのは、正直予想外だった。
焦りが焦りを呼んで、空の心臓は今にも破裂しそうになっている。
「り、利吉さん……ダメです、これ以上は……!」
「ここまでして、止める自信はありません」
どうしよう……。
そうこうしているうちに、利吉の身体が徐々にのしかかってくる。
押し返そうと思っても、不思議と手に力が入らない。
(もうダメ……半助さん、ごめんなさい!)
空がぎゅっと目を瞑る。
「……」
だが、いつまでたっても利吉の唇は降りてこなかった。
「あれ……?」
利吉の様子がおかしい。
そう気づいたのは、耳元でかすかに発せられる呻き声。
「うっ………」
「も、もしかして……」
空はすぐさま利吉を確認する。
呼吸が荒い。
額に手をあてがえば、まるで水蒸気が発生しそうなほどの熱を感じる。
「……」
空が気の毒そうに利吉を見た。
「利吉さん、私たちの風邪移っちゃったんですね……」
「ああもう……よりにもよって……こんなときに……」
利吉が口惜しそうに言う。
それっきり、利吉の瞼は閉じたまま。
高熱の苦しみに疲労が重なり、どうやら眠ってしまったらしい。
(ああ、びっくりした……!でも、ちょっと残念だったような……)
複雑な想いを胸に秘めながら、空は利吉の頭を太腿に乗せ、膝枕の態勢をとった。
愛おしげに見つめながら、利吉の髪をやさしく撫でる。
「利吉さん。子守を頑張る姿、とっても素敵でしたよ。ゆっくり休んでくださいね」
そう言って、利吉の頬にそっと口付けを落とした。