利吉さんの子守りバイト奮闘記
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それからさらに三日経った。
「半助も空ちゃんも、お熱が下がって良かったわ」
「隣のおばちゃん、本当にご迷惑おかけしました」
「ずっとつきっきりで……私たちの看病大変でしたよね」
「何言ってんのよ。困ったときはお互い様でしょ!だから、もし私が倒れちゃったら、そのときはお願いするからね」
隣のおばちゃんがウィンク混じりにそう言うと、空も半助も笑顔で応えた。
「さ、荷物も片付けたし、我が家に戻ろう」
「きりちゃんと利吉さんはまだ子守を続けているんですよね。急いで手伝わないと」
「そうね。私はあの二人にお昼を持っていかなきゃ」
半助、空、そして弁当をひっさげたおばちゃんが表に出る。
次の瞬間、そこに広がっている光景を見て、一同は驚愕した。
「こ、これは!?」
何と半助の家の周りに人だかりができていたのだ。
まるで有名アイドルのコンサート会場のように、女性ばかりがひしめき合っている。
「一体、何が起きてるんだぁ!?」
半助たちが人込みをかき分ける。
ようやく見つけた戸口の前には、
「は~い、おひとり様二文ね」
と女性たちから見物料をせしめるきり丸がいた。
「おい!きり丸、何をやっとるんだ!」
「あ、土井先生に空さん。風邪治ったんですね!」
「まぁな。て、そうじゃない!一体何なんだ、この騒ぎは!?」
「そ、それがですねぇ、」
きり丸は半助たちに事の経緯を語り出した。
あの後、利吉は真摯に赤子に向き合った。
その結果、
(じっくりと見ると、小さい手足につぶらな瞳。綿菓子のような頬。赤ちゃんって、こんなに可愛くて、か弱い存在だったんだな……)
と利吉は赤子に対し、慈愛の感情を抱くようになっていた。
その利吉が赤子を抱いて周辺を散歩する。
となると、黙っていられないのが、井戸にたむろする長屋の奥様たちだ。
(だ、誰なの?このスーパーイケメンは……!?)
子連れの利吉を目に入れた瞬間、その場にいる全員に激震がはしった。
勿論、奥様たちは挨拶を兼ねてすぐに利吉に話しかけた。
慣れないバイトに悪戦苦闘している――そう知ると、奥様達はすぐにでも手を差し伸べたい衝動に駆られた。
「心配してくれてありがとうございます。お手伝いしたいという気持ちは大変ありがたいのですが、それでは私の修行にならないので……そうだ。ここにいる皆さんは子育て中や子育てを経験された女性の方ばかりですよね?もし困ったことがあれば、ぜひ皆さんに相談させてください」
言い終えて、利吉は笑顔をつくった。
(きゃああああああああぁっ!!!)
奥様たちがその場で悶絶する。
一目見れば昇天しそうなほどの極上の笑顔に、奥様達のハートは次々撃ち抜かれたという。
さらにその熱気は町の未婚の娘たちへも伝わって、利吉のファンの数は劇的に増加した。
今では数多の女性がイクメンの利吉を一目見ようと押しかけるにまでなったのだ。
「……という理由 です。不器用な利吉さんが子守に奔走し、成長していく様が、女性たちにとってはたまらないようですよ」
「そ、そうだったのか」
空と半助、それから隣のおばちゃんの両耳に黄色い歓声がほとばしった。
「利吉さん、カッコイイ!こっち向いてぇ~!」と叫ぶのは若い女性たち。
「利吉さぁん!今からでも私の夫になってぇ!」と願望がダダ洩れなのは子育て真っ盛りの母親たち。
「あ~ん、利吉君素敵よぉう!私は生まれる時代を間違えたわぁん!」と身体をくねらせるのは齢五十越えの熟女たち。
「す、すごい人気だな……」
「ええ……」
しばらく呆然と眺めていた半助、空、きり丸、隣のおばちゃんだったが、この状態では家に上がったとしてもくつろげない。
四人は協力し、女たちを追い払った。
やっとのことで中に入ると、利吉は赤子と会話をしていた。
「ああ、赤ちゃんってなんて可愛いんだ……ほら、いないいないばあっ!」
利吉があやせば、赤子が笑う。
常に涼しげで表情を崩さない利吉はどこへやら。
全員が唖然となった。
「あの利吉君が……なんか珍しいな。狐にでもつままれたような心地だよ」
「でも、利吉さん、何だか表情が豊かになりましたね。私は今の方が素敵だと思います」
半助と空、ふたりの視線に利吉もまた気づいたようだ。
慌てて駆け寄ってくる。
「空さんと土井先生……風邪治ったんですね!」
「はい。私と土井先生がいない間、利吉さんが頑張ってくれたんですよね。ありがとうございました」
「こちらこそ。おかげで、少しは子守に自信がつきました」
利吉がふたりに力こぶを作って見せた。
「うんうん。それは心強いな。よし、私も早速手伝うとしよう」
「ええ、私も。そういえば……利吉さんはこちらに遊びに来てくれたんですよね。なのに、私たちが風邪を引いてしまって……本当にご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、そんなそんな……て、ああ!」
空の言葉で、利吉はあることを思い出した。
肝心の半助の家を訪れた目的を。
利吉の脳内でバイト終了のホイッスルが鳴った瞬間だった。
抱っこしていた赤子を押し付けるように半助に渡した。
「り、利吉君……?」
「土井先生も無事回復されたことだし、私はここでお役御免ですね。ここからの子守は土井先生ときり丸、ふたりにお願いします」
「え?え?」
「というわけで、すみません、ちょっと空さんをお借りしますね」
そう言って、利吉がしれっと空をお姫様抱っこする。
「あ、あの……利吉さん?」
突然利吉の逞しい両腕に収められ、空の顔は林檎色に染め上がった。
言わずもがな、半助は大激怒。
「な~にが『というわけで』だ!一体何をする気だ、利吉君!」
「何をってそりゃあ……これから空さんと二人でいろいろ語り合おうと思ってます。今後の家族計画とか」
「いっ!?」
「さぁ、空さん行きましょう。私たちがふたりきりになれる場所へ!」
利吉は空を連れて、一気に家を飛び出した。
「おい、こら、待て~、利吉君!くっ……急いで後を追わねばっ」
半助は赤子を床に置こうとした。
だが、腕の中の赤子の服がぐっしょり濡れている。
お漏らしをしたのだ。
こうなるとほうっておけないのが半助の性分。
現に、手には新しいおしめを握りしめている。
「うぅぅ……こんなことをしている場合では。空、頼むから、私が行くまで貞操を守ってくれ!」
「……」
沈黙を保っていたきり丸が、隣のおばちゃんの裾を掴んだ。
「ねぇ、隣のおばちゃん。利吉さんが言ってた、『ふたりきりになれる場所』ってどこなんですか?」
「ウフフ。それはきりちゃんがもう少し大人になってから、教えてあげるわ」
(利吉さんったら大胆。若いっていいわね~!)
空、半助、利吉が織り成す恋の三角関係を目の当たりにして、噂好きの隣のおばちゃんの血が騒ぐ。
きり丸だけが考え込む中、半助と隣のおばちゃん、大人たちには利吉の行き先に心当たりがあった。
「半助も空ちゃんも、お熱が下がって良かったわ」
「隣のおばちゃん、本当にご迷惑おかけしました」
「ずっとつきっきりで……私たちの看病大変でしたよね」
「何言ってんのよ。困ったときはお互い様でしょ!だから、もし私が倒れちゃったら、そのときはお願いするからね」
隣のおばちゃんがウィンク混じりにそう言うと、空も半助も笑顔で応えた。
「さ、荷物も片付けたし、我が家に戻ろう」
「きりちゃんと利吉さんはまだ子守を続けているんですよね。急いで手伝わないと」
「そうね。私はあの二人にお昼を持っていかなきゃ」
半助、空、そして弁当をひっさげたおばちゃんが表に出る。
次の瞬間、そこに広がっている光景を見て、一同は驚愕した。
「こ、これは!?」
何と半助の家の周りに人だかりができていたのだ。
まるで有名アイドルのコンサート会場のように、女性ばかりがひしめき合っている。
「一体、何が起きてるんだぁ!?」
半助たちが人込みをかき分ける。
ようやく見つけた戸口の前には、
「は~い、おひとり様二文ね」
と女性たちから見物料をせしめるきり丸がいた。
「おい!きり丸、何をやっとるんだ!」
「あ、土井先生に空さん。風邪治ったんですね!」
「まぁな。て、そうじゃない!一体何なんだ、この騒ぎは!?」
「そ、それがですねぇ、」
きり丸は半助たちに事の経緯を語り出した。
あの後、利吉は真摯に赤子に向き合った。
その結果、
(じっくりと見ると、小さい手足につぶらな瞳。綿菓子のような頬。赤ちゃんって、こんなに可愛くて、か弱い存在だったんだな……)
と利吉は赤子に対し、慈愛の感情を抱くようになっていた。
その利吉が赤子を抱いて周辺を散歩する。
となると、黙っていられないのが、井戸にたむろする長屋の奥様たちだ。
(だ、誰なの?このスーパーイケメンは……!?)
子連れの利吉を目に入れた瞬間、その場にいる全員に激震がはしった。
勿論、奥様たちは挨拶を兼ねてすぐに利吉に話しかけた。
慣れないバイトに悪戦苦闘している――そう知ると、奥様達はすぐにでも手を差し伸べたい衝動に駆られた。
「心配してくれてありがとうございます。お手伝いしたいという気持ちは大変ありがたいのですが、それでは私の修行にならないので……そうだ。ここにいる皆さんは子育て中や子育てを経験された女性の方ばかりですよね?もし困ったことがあれば、ぜひ皆さんに相談させてください」
言い終えて、利吉は笑顔をつくった。
(きゃああああああああぁっ!!!)
奥様たちがその場で悶絶する。
一目見れば昇天しそうなほどの極上の笑顔に、奥様達のハートは次々撃ち抜かれたという。
さらにその熱気は町の未婚の娘たちへも伝わって、利吉のファンの数は劇的に増加した。
今では数多の女性がイクメンの利吉を一目見ようと押しかけるにまでなったのだ。
「……という
「そ、そうだったのか」
空と半助、それから隣のおばちゃんの両耳に黄色い歓声がほとばしった。
「利吉さん、カッコイイ!こっち向いてぇ~!」と叫ぶのは若い女性たち。
「利吉さぁん!今からでも私の夫になってぇ!」と願望がダダ洩れなのは子育て真っ盛りの母親たち。
「あ~ん、利吉君素敵よぉう!私は生まれる時代を間違えたわぁん!」と身体をくねらせるのは齢五十越えの熟女たち。
「す、すごい人気だな……」
「ええ……」
しばらく呆然と眺めていた半助、空、きり丸、隣のおばちゃんだったが、この状態では家に上がったとしてもくつろげない。
四人は協力し、女たちを追い払った。
やっとのことで中に入ると、利吉は赤子と会話をしていた。
「ああ、赤ちゃんってなんて可愛いんだ……ほら、いないいないばあっ!」
利吉があやせば、赤子が笑う。
常に涼しげで表情を崩さない利吉はどこへやら。
全員が唖然となった。
「あの利吉君が……なんか珍しいな。狐にでもつままれたような心地だよ」
「でも、利吉さん、何だか表情が豊かになりましたね。私は今の方が素敵だと思います」
半助と空、ふたりの視線に利吉もまた気づいたようだ。
慌てて駆け寄ってくる。
「空さんと土井先生……風邪治ったんですね!」
「はい。私と土井先生がいない間、利吉さんが頑張ってくれたんですよね。ありがとうございました」
「こちらこそ。おかげで、少しは子守に自信がつきました」
利吉がふたりに力こぶを作って見せた。
「うんうん。それは心強いな。よし、私も早速手伝うとしよう」
「ええ、私も。そういえば……利吉さんはこちらに遊びに来てくれたんですよね。なのに、私たちが風邪を引いてしまって……本当にご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、そんなそんな……て、ああ!」
空の言葉で、利吉はあることを思い出した。
肝心の半助の家を訪れた目的を。
利吉の脳内でバイト終了のホイッスルが鳴った瞬間だった。
抱っこしていた赤子を押し付けるように半助に渡した。
「り、利吉君……?」
「土井先生も無事回復されたことだし、私はここでお役御免ですね。ここからの子守は土井先生ときり丸、ふたりにお願いします」
「え?え?」
「というわけで、すみません、ちょっと空さんをお借りしますね」
そう言って、利吉がしれっと空をお姫様抱っこする。
「あ、あの……利吉さん?」
突然利吉の逞しい両腕に収められ、空の顔は林檎色に染め上がった。
言わずもがな、半助は大激怒。
「な~にが『というわけで』だ!一体何をする気だ、利吉君!」
「何をってそりゃあ……これから空さんと二人でいろいろ語り合おうと思ってます。今後の家族計画とか」
「いっ!?」
「さぁ、空さん行きましょう。私たちがふたりきりになれる場所へ!」
利吉は空を連れて、一気に家を飛び出した。
「おい、こら、待て~、利吉君!くっ……急いで後を追わねばっ」
半助は赤子を床に置こうとした。
だが、腕の中の赤子の服がぐっしょり濡れている。
お漏らしをしたのだ。
こうなるとほうっておけないのが半助の性分。
現に、手には新しいおしめを握りしめている。
「うぅぅ……こんなことをしている場合では。空、頼むから、私が行くまで貞操を守ってくれ!」
「……」
沈黙を保っていたきり丸が、隣のおばちゃんの裾を掴んだ。
「ねぇ、隣のおばちゃん。利吉さんが言ってた、『ふたりきりになれる場所』ってどこなんですか?」
「ウフフ。それはきりちゃんがもう少し大人になってから、教えてあげるわ」
(利吉さんったら大胆。若いっていいわね~!)
空、半助、利吉が織り成す恋の三角関係を目の当たりにして、噂好きの隣のおばちゃんの血が騒ぐ。
きり丸だけが考え込む中、半助と隣のおばちゃん、大人たちには利吉の行き先に心当たりがあった。